新人賞ファイナリスト紹介〜その2〜松浦伸吾

松浦伸吾《霧中の紅》スコア

松浦伸吾《霧中の紅》スコア

第28回現音作曲新人賞の候補作品にノミネートされております、松浦伸吾と申します。拙作《霧中の紅》の初演の機会を与えて頂いたことを、心から嬉しく思っております。書きたいものを素直に書いた作品ですので、その喜びも非常に大きい。

先日、東京の幡ヶ谷において初リハーサルが行われました。今回の編成は三重奏。演奏者同士の対話または呼応というものが至極重要な要素となるこの編成において、作曲者としての私がその初演のために成すべきことというのは、実はほとんど無いのかもしれない。演奏者それぞれが、靄がかったようなこの作品の実体を何とか掴もうと挑んでくださっていました。その作業の後に、三者による濃密なアンサンブルが現れるのでしょう。

本選会まで一週間弱でしょうか。演奏家の皆様に委ね、“音楽”が豊かに表出されることを祈りつつ、初演の時を待つことができれば、と思います。

 

 

 

 

松浦伸吾(まつうらしんご)1979年生まれ。大阪音楽大学音楽学部作曲学科を経て同大学大学院音楽研究科作曲専攻修了。近藤圭、久保洋子の各氏に師事。

▼現音・特別音楽展2011「世界に開く窓〜古往今来」
[第1部] 第28回現音作曲新人賞本選会
2011年11月24日(木)17:30開場/18:00開演
東京オペラシティリサイタルホール

松浦 伸吾/霧中の紅 [作曲2011年/初演]
竹内 弦・星野 沙織(ヴァイオリン) 兼重 稔宏(ピアノ)

★一般券2,000円はケットぴあで販売中(当日券は3,000円)
★学生券はなんと1,000円!お申し込みは下記まで。
電話:03-3446-3506
電子メール:80th (a) jscm.net

新人賞ファイナリスト紹介〜その1〜酒井信明

「現音作曲新人賞本選会」間近!! 本日から連載でファイナリストの皆さんを紹介していきます。初回の本日は、なななんと…!

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左からfl多久潤一朗、bsn福井弘康、酒井信明、vn星野沙織

作曲の酒井です。このたび、作曲新人賞にて《Nana》を演奏していただくことになりました。二回目のリハーサルが終わった時点でこの文章を書いています。

自分の作品(新作)を実際に音にしてもらうというのは、おそろしいことに十年ぶりぐらいですね。自分の作品が演奏されないことにすっかり慣れきってしまっているので、最近は実際の演奏をあまり考慮せず、楽譜を書くことを楽しみに作曲する今日この頃です。

なかでもこの作品はとくにアイデアの提示や、譜づらの見た目にこだわって書いたもので、演奏?なにそれ、おいしいの?の感なくんばあらず、です。それでも演奏してもらわなくてはならないのですから、あまり容易な仕事ではないところを真剣に取り組んで頂いて、リハーサルは有意義な時間を過ごさせていただいています。音楽をつくるのは演奏なので、私の作品を作っていただいている感じです。

この”Nana”という作品は本質的な意味での旋律をひとつのテーマとした純音楽で、フーガやソナタなどと同様、あまり言葉での解説を必要としない音楽ではないかと思います。実際の演奏に、音に触れ、楽しんで頂ければ幸いです。

 

 

 

 

酒井信明(さかいのぶあき)1976年兵庫県生まれ。大阪芸術大学音楽学科、京都市立芸術大学音楽学部作曲専攻を卒業。松永通温中村典子の各氏に師事。

▼現音・特別音楽展2011「世界に開く窓〜古往今来」
[第1部] 第28回現音作曲新人賞本選会
2011年11月24日(木)17:30開場/18:00開演
東京オペラシティリサイタルホール

酒井信明/Nana [作曲2008年/初演]
多久潤一朗(ピッコロ) 星野沙織(ヴァイオリン) 福井弘康(バスーン)

★一般券2,000円はケットぴあで販売中(当日券は3,000円)
★学生券はなんと1,000円!お申し込みは下記まで。
電話:03-3446-3506
電子メール:80th (a) jscm.net

11月の主催公演(2) アンデパンダン展 第2夜

アンデパンダン展 第2夜

アンデパンダン展 第2夜

▼アンデパンダン展 第2夜
2011年11月9日(水)18:00開場/18:30開演
東京オペラシティリサイタルホール

岡坂慶紀/デュエット(2ヴァイオリン)(2010/初演)
進藤義武・木村眞弓(ヴァイオリン)

浅野藤也/「MELOS」チェロとピアノのための(2011/初演)
鈴木皓也(チェロ)兼重稔宏 (ピアノ)

宮崎 滋/連祷 ―三曲合奏(2009)
金子朋沐枝(尺八)久野木史恵(三絃)池上亜佐佳(箏)

北條直彦/“インタープレイ2”~フルート、ヴァイオリン、ピアノのための~(2011/初演)
増本竜士(フルート)佐藤まどか(ヴァイオリン)松山元(ピアノ)

田口和行/-ade for clarinet solo(2010年度関西圏企画招待作品)
上田希(クラリネット)

赤石直哉/Fantasia IV for Flute and Piano(2011/初演)
丸田悠太(フルート)赤石直哉(ピアノ)

田中範康/「心象風景 I」チェロとピアノのための(2011/初演)
安田謙一郎(チェロ)松山元(ピアノ)

木下牧子/もうひとつの世界(2011/初演)
戸澤哲夫(ヴァイオリン)小野富士(ヴィオラ)藤森亮一(チェロ)藤原亜美(ピアノ)

◎制作:蒲池愛

 

「アンデパンダン展 第1夜」の情報はこちら。

11月の主催公演(1) アンデパンダン展 第1夜

アンデパンダン展 第1夜

アンデパンダン展 第1夜

▼アンデパンダン展 第1夜
2011年11月8日(火)18:00開場/18:30開演
東京オペラシティリサイタルホール

岡田昌大/チェロとチェロのための“念誦”(2009/改訂初演)
朝吹元(チェロ)幾度友恵(ピアノ)

梶 俊男/”relic” for cello(2003)
安田謙一郎(チェロ)

三枝木宏行/Canticum No.5 夢野久作による情景(2011/初演)
田中麻理(ヴォーカル)大須賀かおり(ピアノ)福島喜裕(打楽器)松平敬(ヴォーカル/語り)

下山一二三/「アマルガム 」―尺八とバスクラリネットとピアノのた めの―(2008)
神令(尺八)菊地秀夫(バスクラリネット)神三奈(ピアノ)

坪能克裕/Celestial-Vib(2011/舞台初演)
會田瑞樹(ヴィブラフォン)

仲俣申喜男/De profundis(2011/初演)
小畑朱実(アルト)安田謙一郎(チェロ)山口恭範(打楽器)

松永通温/池、林そして風(2010)
辺見康孝(ヴァイオリン)菊地秀夫(クラリネット)松永加也子(ピアノ)

ロクリアン正岡/クラリネットデュオによる音楽「犬というもの」(2010/初演)
菊地秀夫・内山厚志(クラリネット)

◎制作:赤石直哉

 

「アンデパンダン展 第2夜」の情報はこちら。

ファロス財団国際現代音楽祭レポート(後編) 〜会員:深澤倫子

[前編はこちら]
演奏会場にて〜深澤倫子会員

演奏会場にて〜深澤倫子会員

 

左より、スンジー・ホン、パナヨティス・ココラス、タズル・イザン・タジュディン、今堀拓也、深澤倫子

左より、スンジー・ホン、パナヨティス・ココラス、タズル・イザン・タジュディン、今堀拓也、深澤倫子

注目作品はまず、ロシアのドミトリ・コウリャンスキのヴォーカル・トリオのための新作Voice-offで、特殊奏法を駆使する彼の 作品らしく、声に限らず口腔の様々な音を取り入れていた。地元キプロスの音楽監督エヴィス・サムーティスはオノマトペと題した作品だが、オノマトペよりはシラブルの差異に重きを置いた作品。いずれにせよ言葉の意味を削いで発音の音響のみで構成した意欲作である。

他にもディミトリ・パパゲオルギュ、デメトリス・エコノムといったキプロスの作曲家の作品は、ドイツ風の(というよりラッヘンマン風の)特殊奏法を駆使した音響を重視する作品が目立った。対してその他の国々の作曲家はそこまでドイツ風ばかりに偏らず、例えば和音の構成の変化に着目した作品なども決して少なくはなかった。特に韓国のスンジー・ホンは大胆に調性音階を取り入れつつ、タイトルのBisbiglioという名の通りビスビリャンドを多用し、クリスタルのような透明感のある響きを作り出していた。また日本でも現音作曲新人賞や武満徹作曲賞、武生国際音楽祭ゲストなどですっかりおなじみの、マレーシアのタズル・イザン・タジュディンは全曲目の中でも特に異彩を放っており、ガムランにヒントを得たという実に独特な音楽であった。

左より、今堀拓也、メインゲストのジョシュア・ファインバーグ、音楽監督エヴィス・サムーティス

左より、今堀拓也、メインゲストのジョシュア・ファインバーグ、音楽監督エヴィス・サムーティス

今回のメインの招待作曲家はアメリカのジョシュア・ファインバーグで、微分音を駆使した難曲トリオは、単に彼の得意とするスペクトル音楽だけにとどまらない風格を感じさせるものだった。実は彼のレクチャーによるキプロスの若手作曲家のコンサートというのが2日目にあったのだが、その日だけは時差ボケがピークに達してとてもコンサートに行ける体力が余っておらず、聴きに行けなかったのが残念である。

今堀拓也の作品は、フルート、クラリネット、ピアノのトリオで、Moscow Contemporary Music Ensembleによる演奏。本人は満足した出来ということである。特殊奏法はわずかしか用いられていない代わりに微分音を多く取り入れており、題名のVines(蔓)という絡み合った感じが良く現れていた。ちなみに Vinesは蔓植物全体と言うよりはブドウの木という意味が強いらしく、キプロスではドルマというブドウの葉の挽肉包み焼きが名物だそうで、彼は皆とレストランに入っては、題名にちなんでしきりにドルマを勧められていた。もっともこの蔓というのは、私がこの夏いっしょうけんめい育てたベランダの朝顔からインスピレーションを得たのだそうだ。

最終日にはMoscow Contemporary Music Ensembleのディレクター、ヴィクトリア・コシュノヴァ女史によるレクチャーがあった。ロシアの現代音楽の現状を英語で説明し、主にドミトリ・コウ リャンスキとその周辺の若手作曲家の活動についての話だった。

私たちはその最終日の午後、エヴィスに連れられて海辺の街プロタラスで海水浴を楽しんだ。何よりも素晴らしいオーガナイザーでありインヴァイターであったエヴィスに心からの感謝を表したい。

左より、オーナーのガロ氏、料理人氏、音楽監督エヴィス・サムーティス、キプロスの作曲家アンドレアス・ツィアルタス。コンサート終了後バックヤードでパーティーが行われた

左より、オーナーのガロ氏、料理人氏、音楽監督エヴィス・サムーティス、キプロスの作曲家アンドレアス・ツィアルタス。コンサート終了後バックヤードでパーティーが行われた