上野信一 打楽器ワークショップ 第2回「被膜楽器特集」に参加して 

左から、上野信一、松尾祐孝理事、湯浅譲二名誉会員、松平頼曉名誉会員

左から、上野信一、松尾祐孝理事、湯浅譲二名誉会員、松平頼曉名誉会員

松尾祐孝(日本現代音楽協会理事)

 9月15日は台風18号来襲の直前で、天気予報は雨に強風…という状況であった。事務局では開催中止も検討したという状況の中、私は久しぶりに国立音楽大学のキャンパスに足を運んだ。現音の行ないが良いからだろうか、上野信一氏のご人徳であろうか、時折小雨は降るものの、天候は小康状態を保ってくれた。そして、心配された聴衆(受講者)動員も開演時刻が近づくにつれて徐々に増えて、多数の国立音大の学生の他、当協会理事会のメンバーや新入会員の顔も何名が見かけるようになり、一般からの来場者も加わって、約80席が用意された会場がほどよく埋まるほどの盛況となったことは、とても喜ばしかった。
会場となった新1号館オーケストラスタジオの奥側には、上野氏所蔵の打楽器がいくつものセットになって組まれていて、いかにも打楽器のワークショップという雰囲気が漂っている中、13時の開演を迎えた。
上野信一氏のティンパニ独奏によるエリオットカーター作品のデモンストレーションで幕を開けた。続いて、この企画を上野氏と共に立ち上げられた当協会名誉会員の松平頼曉氏と湯浅譲二氏、そして何故か私にも声がかかり、打楽器の代表的な存在である所謂“太鼓”と呼ばれる被膜楽器にまつわるエピソードや考えを手短に披露することになった。松平氏は、アマチュアオケで急にティンパニを叩くことになった時に、大いに面食らいながらもそこで改めて被膜楽器の特性を思い知った経験談を、湯浅氏は論理的に持論を展開され、オケ作品における打楽器の過剰な使用に警鐘を鳴らされ、私は子供の頃の祭りの経験から太鼓好きになった想い出、等を語った。上野氏がこれらの話題を上手く拡げてくださり、楽しいオープニングトークになった。
さて、本題の打楽器ワークショップに入って行く。この日は、上野氏のお弟子さん達も大活躍してくれた。まずスネアドラム類のデモンストレーションと解説を、気鋭の若手=新野将之さんが担当。素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。その後も、上野氏ご自身や国立音大の学生や卒業生によるソロやアンサンブルも交えながら、トムトム類からボンゴ&コンガ類、更にはテフィンパニまで、おおよそ全ての被膜楽器を網羅して、また撥の選択や奏法の解説にまでも言及して、2時間15分に及ぶワークショップはお開きとなった。
チラシやホームページを通じて募集されていた「持ち込み楽譜の試演」は、残念ながら志願者が出てこなかったのか、この日は実現しなかったが、質疑応答の時間も有って、実に有意義な時間となっていた。
「覚書」を締結していただき且つ素晴らしい会場を提供していただいた国立音楽大学には、この場を借りて私からも謝意を表しておきたい。そして、このようなワークショップから触発を受けた方々が、近い将来に行われるであろう当協会と上野信一氏との協働による打楽器作品の公募に応えていただき、新鮮な作品が多数誕生することに繋がっていくことを期待したい。
このワークショップは決して単発で完結するものではなく、3回目、更にはそれ以降のイベント等に継続して発展していくものと伺っている。素晴らしいことだと思う。上野信一氏の献身的なご協力に感謝いたします。

第31回現音作曲新人賞募集概要

審査員:山内雅弘(審査員長)、金子仁美、中川俊郎

編成:ピアノ2台まで、奏者3名までのピアノ作品
演奏時間:15分以内

▼本選会
日時:2014年10月23日(木)開演時間未定
会場:東京音楽大学A館ホール
演奏:藤原亜美・菊地祐介・篠田昌伸(ピアノ)
協力:東京音楽大学

※本要項は2014年1月下旬に、当協会ウェブサイト等で発表予定

現音アンデパンダン展に参加して〜久行敏彦

現音アンデパンダン展に参加して〜久行敏彦

昨年のいつ頃だったか忘れたが、現音のある理事の方から「来年のアンデパンダン展のプロデューサーをやってみませんか」というお話をいただき、快諾した。

年度が変わり、春が過ぎ夏雲の消えるころ、現音事務局から「曲目リストを送ります、プログラム曲順を決めていただけませんか」との連絡をいただく。作曲者名と曲名、編成、演奏予定時間が添えられていた。プログラムの殆どが新作初演であるため、チラシを作成する頃にはまだ楽譜はない。

「楽譜なしで(音楽の中身を知らずに)プログラム決めなければならない」という、このような重い仕事を安請け合いしてしまった自分を恨んだ。譬えるならば、日独伊西墨印仏露韓中10人の料理人に「なんでもいいから自慢の一皿を作ってください、それらをうまくまとめてコース料理を考えてみます」と宣言するに等しい行為なのだ。私を除いた作曲者9名のリストを眺めると、演奏時間だけ見るとメインディッシュになりそうな曲が過半数。あかん。プロデューサーとしての私の命は終わった。

ここで私の作品のコンセプトは固まる。「メインディッシュの狭間でお客様に箸休めをしていただけるような曲にしないと」

浦壁信二

久行敏彦作曲《Action III》ピアノ:浦壁信二

幸いなことに、この段階では一音符も書いていなかった。実際その通りの曲が仕上がった。演奏者の浦壁信二さんにも初リハの時、そのコンセプトをお話しし「そうですか、プロデューサーお疲れ様です。そのコンセプト了解しました!」と共感いただいた。

自分の曲のことはまあどうでもいいとして、残りの9皿をどう並べるかだ。以前に発表された作品を存じ上げている方も何人かおられた。この方々は「多分こんな感じの作風だろう」と予想がつく。そうでない方々についてはプロフィールに頼るしかない。「○先生の生徒さんか、かなり胆汁質の作風だろうな」「師事歴、受賞歴何も書いていらっしゃらないな、かなりご自身の作曲には自信とこだわりがおありだろうな」等々。

これらの紆余曲折(私の中だけだが)を経て熟考の結果、あのようなプログラムになった。さあ本番。

実際に全作品通して聴いてみると、皆さんそれぞれ、本気で書かれていることが功を奏したのか、料理と違ってちゃんとした作品ならば、いくらメインディッシュを並べられても「お腹一杯にはなっても、もう食べられない」にはならないのだな、ということを教えられた。これは大きな収穫であった。

 

▼《現音・秋の音楽展2013》「アンデパンダン展」詳細はこちら

第30回現音作曲新人賞受賞の言葉〜伊藤巧真・川崎真由子

第30回現音作曲新人賞受賞の言葉 伊藤巧真
《ものろ・雲・のろぐ》(2013)[編成:Bariton, Tuba]

伊藤巧真この度、念願叶って現音作曲新人賞を受賞することができ、大変嬉しく、とても光栄に思っております。まずは感謝の言葉を述べさせていただきたいと思います。深いテーマを与えて下さり、全ての作品を審査していただいた末吉先生、藤井先生、名倉先生、私の作品に命を与えて下さった低音デュオの松平先生、橋本先生、ゼロから作曲を教えて下さった嶋津先生、これまで私の活動を支えてくれた家族、多くの友人たちに心から御礼を申し上げます。さらに、日本現代音楽協会の関係者の方々には本選会のために多くの御助力をいただきました。おかげさまで貴重な体験をすることができました。本当にありがとうございました。
受賞の感動と共に、今、はっきりと身の引き締まる想いがあります。2011年の冬の終りに、一人では受け止められないほどの強烈な衝動(そして、それは問いのようなもの)に駆られてからは、それに対する答えを無理矢理に吐き出していくかのように、夢中で作曲に取り組んで参りました。しかし、今回の作品が音として実現していく過程の中で、過去の衝動に隠されてしまい、見過ごしてしまっていた“自分に足りないもの”の存在に気づくことができました。
私たちは若い世代だからこそ、何事も恐れを知らずにチャレンジしていくことができます。もちろんこれは、作曲だけに限った話ではないと思います。しかし私の場合、今までのことを振り返ると、ただ単に無知であったからこそ成し得たチャレンジばかりだったのかもしれません。これまで、あまりにも目先のこと、あるいはその少しばかり先の未来だけを追い求め過ぎていたのではないかと反省しております。今回の受賞をきっかけとして、改めて過去の伝統的な作品を振り返っていくなどの冷静な学びが、将来の自分のためには必要不可欠となってくるだろうと感じました。恥ずかしながら、今になってあたりまえのことに気づいたということです。
最後に、作品を聴いて下さった方々に心から感謝の気持ちを述べたいと思います。皆様からも多くの課題をいただいたと思っております。現音作曲新人賞の名に恥じぬよう、これからも高い意識を持って、作曲家としての素養をより高めて参ります。

 

第30回現音作曲新人賞受賞の言葉 川崎真由子
《ピアノ~小笠原鳥類の詩による~》(2013)[編成:Soprano, Bass Clarinet]

川崎真由子このたび、東京オペラシティという素晴らしい舞台で拙作を演奏していただき、そしてこのような賞を頂きましたことを大変光栄に思います。審査員の先生方、演奏者のお二人をはじめ、関係者の皆様方、お越しくださいました皆様方、そして今回作曲にあたり強烈なインスピレーションを与え、快く詩を提供してくださった詩人の小笠原鳥類さんには心から感謝申し上げます。
私自身が聴きたい音楽を純粋に書き連ねた楽譜は、さぞかし演奏しにくい部分もあったと思われますが、ソプラノの太田真紀さんとバス・クラリネットの菊地秀夫さんが真摯に演奏に取り組んでくださり、楽譜から音楽を作っていく過程はお二人から学ぶところが多々あり大変有意義なものでした。そして本番では、自分の聴きたい音楽を素晴らしい演奏で聴くことができ、また実際に音にされることによって新たな発見もあり、至福の時を過ごすことができました。やはり、演奏家の協力があってこそ作曲家は音楽ができるということを、改めて実感いたしました。しかしそれと同時に、自分の至らなさも痛感いたしました。
また今回の本選会では、審査員の先生方の作品も含め様々な歌を聴くことができ、歌の多様性、歌の在り方、そして「日本語を歌う」ということの可能性や難しさ等、「歌」について改めて考えを巡らす機会となりました。この機会に得た課題や収穫を糧に、今後もより一層の精進を重ねて参りたいと思います。

 

▼第30回現音作曲新人賞審査結果はこちら

2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎

2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎
《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》(2013)[編成:Soprano, Piano]

平野一郎この度、第30回現音作曲新人賞にて富樫賞および聴衆賞を受賞致しました、平野一郎と申します。
貴賞の存在は以前より知悉しておりましたが、今回初めて応募したのには、主に二つの理由がありました。先ずは、“日本語を歌う”という課題。「日本語から何を承け、どのような新しい歌が提示できるのか」という問いに、真の今日的意義を感じた事です。貴賞始まって以来初の日本語声楽作品の募集であったと後に知り、出品への納得は一層深まりました。次いで、作品に相応しい演奏者の選定・依頼を作曲者自身で行う、という規定です。演奏者に受肉して初めて産まれる音楽、そこに直に責任を負える、という点に確かな賛意を覚えました。
本選会では、ソプラノ・吉川真澄氏とピアノ・堤聡子氏のお二人が、通り一遍でなく作品世界の内奥に踏み込み、内的共感と技術的追求を併せ持つ素晴らしい演奏で作品を送り出して下さいました。選考会という特殊な状況にも関わらず、理想的な初演を果たせた事に、歓びと安堵を感じております。
拙作〈海の幸・天平の面影 〜蒲原有明(かんばらありあけ)の詩に拠る二連画(ディプティーク)〜〉は、有明の同時代の二絵画(青木繁「海の幸」・藤島武二「天平の面影」)への讃としての同名二詩に拠る歌曲です。一見古めかしい“歌曲”という衣の裡に、歌と日本語の淵源からの来歴を誄(しの)ばせ/顕わすという企てに、どのような反応と評価が下るのか、私自身も興味津々でした。
選考の結果、由緒ある富樫賞を贈賞頂いた事は、私にとって大きな励みです。講評後、ご臨席だった故・富樫康氏の奥様と面会させて頂き、富樫氏と亡き師を巡る思い掛けぬ繋がりを慥かめ、不思議な縁を覚えました。聴衆賞も、もう一つの大切な励みとなりました。ご来聴頂いた多くの皆様から示された、作品への篤いご支持とご共感を心に刻みたいと思います。
こうして得難い祝福を受けつつ誕生した新作が、専門の領分から広い世の中に飛び出して、様々な場処で人々の心底に届き、やがて根付いていく事を希っております。

 

▼第30回現音作曲新人賞審査結果はこちら