「ROSCO10周年記念リサイタル」を聴いて

正会員:深澤倫子

ROSCO 10周年リサイタルチラシ

ROSCO 10周年リサイタルチラシ

私が初めてROSCOの演奏を聴いたのは、2006年のデュオコンサートの時だった。

その時、かなり難しい作品もあったと思うが、音をごまかす事なく、また書いてある楽譜を必死で追った感じもなく、サラッとしっかりとした演奏の印象があった。

そして、この度改めてROSCOの演奏の質の高さを再認識した。さらに磨きがかかり、しなやかさと瞬発力を兼ね備えた演奏で、各作品の特徴を引出し、最後まで飽きる事なく楽しめた。

作品の持つ強いエネルギーが、お2人の演奏を通して所々に溢れ、それが彼女達の可憐な風貌とコントラストを作り、作品がより一層魅力的になったのは言うまでもない。

さらに10年後、20年後のROSCOの演奏会が今から楽しみだ。(2011年8月8日/東京オペラシティリサイタルホール)

 

ROSCO(ロスコ):甲斐史子(かいふみこ/ヴァイオリン)大須賀かおり(おおすがかおり/ピアノ)
桐朋学園大学在学中より活動をはじめ、2001年8月デュオを結成。2002年、日本現代音楽協会主催による「第5回現代音楽演奏コンクール“競楽V”」優勝。第12回朝日現代音楽賞受賞。2003年〈現音・秋の音楽展2003〉において受賞記念リサイタルを開催。http://www18.ocn.ne.jp/~rosco/

福士則夫のチビテッラ日記〜第6回〜

●第6回「プレゼンテーションが始まる」

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

夕食前、今日から始まるプレゼンテーションは午後5時半から。持ち時間は一時間でまずはテカテカ頭の作家、セルジオが一番手となる。45分ほどスペイン語の朗読があり、訳文はプロジェクターで英語。始まる前にフランス語でないのでごめんと言ってくれる律儀な性格だが、謝られるほどの語学力がこちらにないので気が引ける。プレゼン前後に近隣からやって来る招待者も参加してのレセプションに長居はせず、ワインとツマミだけはいただいて当然自室に引きこもる。

夕食は時として豪華版の場合もあるが大体はバイキング方式で食後の歓談に付き合わない時は、恐ろしく長い夕暮れ時を迎える事になる。最初は時間をもて余していたが近頃は持参したMDでヨーヨー・マのバッハ無伴奏を聴いたり、洗濯したりワードで原稿を書いたりデジカメで撮った小旅行の写真をPC上で整理したり、する事はいくらでもあるが、今日の特記事項はなんと言っても頼んでおいた携帯の海外用アダプターが届いたことである。早速充電しカミさんと次女の声を久しぶりに聞く。

東京藝術大学で26日にあったフンメルのファゴットコンツェルトは上手く演奏できたらしい。離日する前、作曲家の北爪道夫君に娘がモーニングコンサートに出ることを話したので家族で芸大奏楽堂に聴きに行ってくれたとか、感謝である。今日、ローマ在住のピアニスト藤谷奈穂美さんに電話をするとローマは35度まで気温が上昇しているとか、この丘の上の森に囲まれている城でも暑いわけである。今は亡きイタリアの作曲家ドナトーニの弟子であった杉山洋一君から紹介された藤谷さんとは面識がなかったが、プレゼンテーションの時に通訳をお願いできないか日本にいる時からメールをやり取りした方である。

そもそも、この城で60日間の滞在中、唯一の義務が自作に関してのプレゼンテーションである。事前に英語の原稿を用意し、自作品の音源とDVDで何とか乗り切る事を考えているのだが、それでも通訳は必要になるだろう。英語の書類に関しては壬生千恵子さんに随分とお世話になった。今回ラニエリ財団の招聘に関わる翻訳から書類作成、連絡全てにわたってお世話になっている壬生さんとは2年にわたってのお付き合いになる。彼女とは2001年、日本現代音楽協会の主催による横浜で開催されたISCM世界大会で事務局長をしていた折、プログラム制作ほか外国とのやり取りで日本現代音楽協会に大きく貢献していただいた。今回の件は本来昨年に参加の予定が、作曲コンクールの審査期間にかぶってしまいキャンセルしたので2年越しになるわけで、壬生さんの方に足を向けて寝られない。

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

城の中庭に巨大な北斗七星が瞬き始める頃、腰の上まである足高のベッドに這い登り成田空港の本屋で買った半藤一利、江坂彰共著「日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか」を読んでいるが、これが結構面白い。第二次大戦の失敗と企業リーダーの問題が鏡のようになって語られている。自分は果たして歴史に学んだろうか?

★次回第7回「スーパーマーケットを横目に」予告

7月2日(水)、車で1時間ほど駆けスポレートという古い城がある街に出掛けた。ここにも美しいカテドラルがあるが辿り着くまでかなりの急勾配。さらに丘の頂上に古い要塞があり30度を越す炎天下で地獄の責め苦であったが、我々の世話をしてくれるインターンの二人の若い女性、タラとブリアナは城砦の突端まで走っていってワーワーキャーキャーさすがに世代が違う…

更新は9月14日(水)です。お楽しみに!

福士則夫のチビテッラ日記〜第5回〜

●第5回「招待された仲間たち」

ベーゼンが有るサロンホール

ベーゼンが有るサロンホール

自分に与えられた部屋は城の2階にあり、50人は入るかと思われるサロン風の部屋には古いベーゼンドルファーが片隅にチョコン。壁には200号大の王様とその家族と思われる古い肖像画が8枚飾られ、絵の間を埋めるように11の肘掛椅子が並んでいる。自分専用の仕事部屋なのだが余りにも広すぎて集中できず、この部屋は音の確認のみの使用で、書くのはもっぱら中二階の小部屋というのが、すっかり自宅の日常生活が投影されてしまって物悲しい。居間とバス・トイレがサロンホールの隣にあり、ここもかなりの広さである。居間とホールは日本なら二階建てになりそうな天井の高さで壁も真っ白な漆喰である。

デーヴィーともう一人、アメリカ国内でツアーもしているらしいおばちゃん、ベスの二人のアメリカ人作曲家は城に近い一軒家が与えられ、彼らは電子機器を駆使して作曲しているらしい。他に城以外の家が与えられているのは、時々フランス語と日本語の単語が出てくる例のダーラともう一人はイギリス人の詩人ジョー。さて問題の昼、夜の食事である。どちらも庭先に設営された大きなテントの下で食べるのだが昼食は1時から、夕食は7時半からと決められていてベジタリアンのイタリアの絵描き、サンドラ以外は皆時間に忠実である。昼は屋内食堂の机に3段重ねのコッヘルが用意され、大皿の上にある色とりどりの果物と2,3種類のパンは食べ放題。座る場所は自由であるが車の話で盛り上がるダーラが隣に座ることが多いだろうか。

涼しい風に吹かれながらテントの下でディナー

涼しい風に吹かれながらテントの下でディナー

ここの住人になってしばらく経ってからと思うが、ダーラの持っている古いリコーカメラの何箇所かに紙のようなものが付着していて、それは何だと聞いたらビスやネジの代わりに紙テープを貼ってあるとの答えに思わず笑い転げたら、アメリカ人の小説家ジェシカが「ノリオが初めて笑った」と大きな身体をゆすっていた。彼女とは幸運にもフランス語でおしゃべり出来る仲間である。もう一人話しかけてくれるのは、現在ニューヨーク在住のアルゼンチンの作家セルジオ。皆が食事のあとの果物を頬張っている間に席を立ち、コッヘルとナイフ・フォークを洗い終わるや否や、すぐさまアビヤントゥー。挨拶だけは皆フランス語で返してくれる。城の居間に戻ってから一人で紅茶を入れしばしの休息。昨年から水彩を始めたのだがここにきて3枚目の絵が今日でようやく終わった。全て部屋から描いた城の一部分なのでそろそろ絵が窒息しそうである、次回は外に出掛けてみよう。

午後はナイジェリアの作家チカやダーラと卓球をしたり、夜はセルジオ、デーヴィー、ダーラとビリヤードやカードやアルファベットで単語を作るための駒を集めるゲームをしたり様々な遊びで暇つぶしをしているが皆、何故か真剣である。涼しい風が城の南北に吹き抜けていく午前と異なり、風がパタリとやんでしまう午後は日差しがかなりきつく、シエスタという昼休みが何故必要か、ここにいると実感できる。

グラスを傾けながら興ずるビリヤード台

グラスを傾けながら興ずるビリヤード台

★次回第6回「プレゼンテーションが始まる」予告

夕食前、今日から始まるプレゼンテーションは午後5時半から。持ち時間は一時間でまずはテカテカ頭の作家、セルジオが一番手となる。45分ほどスペイン語の朗読があり、訳文はプロジェクターで英語。始まる前にフランス語でないのでごめんと言ってくれる律儀な性格だが、謝られるほどの語学力がこちらにないので気が引ける…

更新は9月7日(水)です。お楽しみに!

<WSLの会2011>開催報告

松尾祐孝(現代音楽教育プログラム研究部会長)

<WSL(ワークショップリーダー)の会2011>の開催が無事に終了いたしました。

広島から寺内大輔さん(作曲家)、また演奏家(サクソフォーン奏者)の大石将紀さんも駆けつけてくださり、その他、芸大生や洗足音大生等も加わって、和やか且つ有意義な交流の場となりました。

<WSLの会2011>会場風景・奥(講演卓)が筆者

では、開催の概要を簡単に報告します。

****2011年度<WSLの会>実施報告****

日時:8月25日(木)14:00~16:40
会場:洗足学園音楽大学 現代邦楽研究所(1220教室)
TEL:044-856-2932  FAX:044-856-2937
〒213-8580 神奈川県川崎市高津区久本2-3-1
講師:松尾祐孝(EPCoM部会長)
参加者:10名

###プログラム###

1)開会あいさつ・参加者紹介
2)川崎市立末長小学校訪問WS報告
3)第77回日本応用心理学会(2010年9月/京都大学)参加報告
4)<音楽づくりワークショップ研修会 in 沖縄>報告
5)<こどもみらい2001>~作曲家のための邦楽器ワークショップ~事例紹介
6)小学生を対象とした場合の年齢層別(低学年・中学年・高学年)の傾向についての検討
7)今後の活動についての検討(主に今年度の末長小学校訪問WSについて)
7)懇談の時間~閉会

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今回は、実際の演習活動は行なわず、ここ2~3年の活動と関連企画の報告と検証を、私=松尾がレクチャー形式で発表しつつ、参加者からの発言を求めるという形で進めました。次回(多分来年の夏)は、アイスブレイクの実施方法の研究等、実際に活動を行なうような内容を実現したいと思っています。

福士則夫のチビテッラ日記〜第4回〜

●第4回「予定違い」

7月1日(火)、今日で早くもイタリア滞在2週間を過ごしている。気の遠くなるような6週間と思っていたが毎日単調な繰り返しをしていると案外時の経過が早く感じられる。一日のスケジュールはまず7時過ぎに起床。時間がまちまちなのは携帯の電源が今もって充分できないのでアラームのセットを控えて体内時計に任せるしかない。8時過ぎれば城の4階にある共同の朝食用部屋で誰かと鉢合わせになるので、紅茶は自分の部屋に持ち帰り窓を開け放し、のんびり小鳥の声を聴きながらの時間がつかの間の休息といえる。

このケトルにはお世話になりました

このケトルにはお世話になりました

昼からはかなり暑くなるので昼前までは窓を全開にして涼風を取り入れ作曲に専念。10月までの約束で合唱の松下耕さんからの依頼があり、今年創立10周年の「アンジェリカ」のためにアカペラを書き出す。実はこちらに来て伝統楽器による室内楽作品を書く予定であった。20絃箏奏者の吉村七重さんからの依頼で笙とのアンサンブル作品を考えていたのである。伝統楽器について日本と異なる風土で距離を置いて考えてみたいと思っていたし、財団への計画書にもそのような内容を提出していた。ところが例の食後の会話から逃げるようにして裏庭のベンチでウンブリアの微風に吹かれているうち突如歌を、というよりも人間の声について書いてみたくなったのである。もちろん詩集などテキストになるような物は持参していなかったので取合えずボーカリーズを試し書きのように始めたのが、今やすでに冒頭部分は終わっている。

中2階の仕事部屋

中2階の仕事部屋

窓を開けると向かい側には回廊が見える

窓を開けると向かい側には回廊が見える

ところが速度が加速してリズムが重要素材となる部分に至って、パタリと筆が止まってしまった。ここまで来ると言語の問題を避けて通る事は出来ない。今日は単語と向き合いながら一日がかりで悪戦苦闘する。テキストが何かといえばトラベル会話帳ヨーロッパ5カ国語編である。例えば「駅」という単語の右側に各国の発音が並んでいる。スティション(英)、スタシィオン(仏)、スタツィオーネ(伊)、エスタシオン(西)と書かれていて、これを各声部に振り分け、そのことによって同時に発生する微妙な発音ノイズが素材となる。発音の近いもの、異なるもの、濁音、破裂音の組み合わせなどを考えながら整理をして音付けを始めてみると予想外に手間がかかることに気づく。全く同じ発音によるものと発音の近似値から発生する差音やノイズを対照的に構成したいのであるが、英・仏・伊・西の4カ国の言葉を扱うことが果たして正しい選択なのかどうかも含めて、霧の中をさ迷っているような当てのない作業が続く。

★次回第5回「招待された仲間たち」予告

自分に与えられた部屋は城の2階にあり、50人は入るかと思われるサロン風の部屋には古いベーゼンドルファーが片隅にチョコン。壁には200号大の王様とその家族と思われる古い肖像画が8枚飾られ、絵の間を埋めるように11の肘掛椅子が並んでいる…

更新は8月31日(水)です。お楽しみに!