深澤舞*ボストン便り (6)

★『現音ブログ』で連載してきた「深澤舞*ボストン便り」をこちらに引っ越して連載致します!

ご無沙汰しております。

昨年末に寄稿させて以来、春が訪れ夏になり、そして秋!この夏アメリカでは、ほとんど地震が起こらないと言われている東海岸で93年ぶりの大きな地震が起こり、大型ハリケーンで避難勧告が出され(それでもカテゴリーは1、カテゴリー最大5を記録した2005年のカトリーナはどれほど大きかったのでしょうか・・!)、西海岸広域でも大きな停電が起こりました。そして日本の東日本大震災、原発と放射能・・今も、直撃し終えたばかりの台風のニュースを見ながら画面に向かっています。今年は改めて、様々なことを問い直すきっかけを自然から与えられていることを実感いたします。どうか皆さまがご無事でありますように・・

蓄えの準備を始めるリスたち

こちら、ボストンは秋雨が続いて少しずつ冷え込み始め、リスも蓄えの準備を始めて駆けまわっています。私は初夏に息子を出産いたしまして、新しい驚きと発見を与えてもらう毎日です。4ヶ月になった息子の目の前でピアノを弾いたり、音楽をかけたりすると、じっと聴き入ったり、一緒に歌うようにして大きな声を出すようになりました。しばらくは音楽会のレポートなどさせて頂けないのですが、昨年末まで通っていたバークリー音楽院で、興味深かった授業内容や音楽院のカリキュラムなど、また次回書かせて頂けたらと思っております。

どうぞ皆さま、よい秋の季節をお迎えくださいませ。

(2011.9.22.)

福士則夫のチビテッラ日記〜第9回〜

●第9回「いよいよ出番」

15日(火)、運命のプレゼンテーション当日、ディエゴがウンブリチッドの駅まで通訳の藤谷奈穂美さんを迎えに行くので車に同乗する。13:38到着の一両編成の電車はイタリアにしては珍しくオンタイムで到着。彼女は城の近くのペンションをインターネット予約したそうで興味がてらそこまで付き合うが、ウンブリアの丘を一望する素晴らしい眺めではあるものの、この田舎にして100ユーロはプール付きでもチト高い。普段はプレゼンテーション直前に会場に滑り込むのだが今日はTシャツを脱いで早めに会場へ入る。

 

今回の滞在中最も緊張した1時間

今回の滞在中最も緊張した1時間

今日の本番に備え事前にジェシカに英文原稿の発音をチェックしてもらい、鏡の前でも練習したのだが聴衆という相手が居るとすんなり口が動かず、英語力の貧しさをつくづく痛感する。CDで音を流している間に呼吸を整え、次の原稿に目を通し、本番がまずは順調に終わったという感触を得たのであったが、その後の時間が実はいつもと様子が違った。普段行われるプレゼンテーションは英語による2、3の質問の受け答えが有るだけで型どおりに終わるのだが、この日は英語の質問がイタリア語に訳されてディエゴから通訳の藤谷さんに行き、私と日本語で受け答えをしている間に、質問に対して横からフランス語が入りで英・日・伊・仏の4ヶ国語が乱れ始める。笙と能管とオーケストラの作品「時の橋」がホラー映画の音楽みたいとの発言に対してイタリアの絵描きサンドラが「始めてこういう現代音楽を聴くからだ」とややヒステリックに声高にしゃべりはじめ(藤谷さんが後でそう話してくれたのだが)芸術とは何か、から現代とは、に至るまでもう混乱のほかない状態で終わる。最後は事の成り行きをただ呆然と見ているだけの状況で、参加できない自分としては不本意だったがとにかく唯一の義務からは解放されたわけである。

 

ようやく終了

ようやく終了

スカGは速いよネ!

スカGは速いよネ!

夕食は打って変わって藤谷さんも交えて珍しく遅い時間まで皆と談笑するが、地元のワインはもちろん、蒸留した辛めのグラッパが殊のほか旨かった。こちらに来て最初の自己紹介のような短いプレゼンテーションの時、「クラッピングリズム」が好評だったので、シリアスな作品の代わりにクラッピングリズムを下敷きにしたノマド版「ケス・キス・パス」にすれば映像も見られて楽しかったかもしれないなと思いつつ、なかなか寝付けないまま一日が終わる。

★次回第10回「地獄の買い出し」予告

7月17日(木)、このところ買出しに出掛けるのがいつなのか全く情報がない。城での生活も1ケ月が過ぎ、慣れてきた連中は勝手気ままに車を借りて町のスーパーに行っているのであろう。城の4階にある小さなキッチンにはミルク、珈琲、紅茶、バター、シリアルなどが用意されていて勝手に使えるのであるが、パンやジャム、チーズなどは自分で調達しなければならない…

更新は10月5日(水)です。お楽しみに!

2011年度国際交流基金賞受賞記念コンサート

打楽器合奏の雄、メキシコの打楽器アンサンブル=タンブッコが、このほど国際交流基金賞を受賞することになり、急遽来日が決定、受賞記念コンサートが来る10月8日(金)に開催されます。

2005年<セルバンティーノ国際芸術祭>委嘱作品で、タンブッコがメキシコで初演した作品、松尾祐孝<SOUND SOUND IV>や、三木稔<マリンバ・スピリチュアル>の他、様々な国や分野の
作品がプログラミングされています。

<ISCM世界音楽の日々1993メキシコ大会>での鮮烈な演奏以来、世界的に注目され、アメリカのグラミー賞にも何度もノミネートされているTAMBUCOの演奏に、期待が高まります。

チラシはこちら

▼2011年度 国際交流基金賞受賞記念コンサート
~TAMBUCO PERCUSSION ENSEMBLE~

10月7日(金)19:00開演
トッパンホール

●曲目
松尾祐孝/<SOUND SOUND IV>~尺八、二十絃箏、打楽器の為に~
(2005/セルバンティーノ国際芸術祭委嘱作品日本初演)
三木稔/マリンバ・スピリチュアル(1983-84)他

出演:Tambuco Percussion Ensemble
リカルド・カシャルド アルフレッド・フリンカス
ミゲル・ゴンザレス ラウル・トゥドン
共演:三橋貴風(尺八) 吉村七重(二十絃箏)

◎全自由席2500円(学生1500円)

トッパンホールチケットセンター
TEL 03-5840-2222
http://www.toppanhall.com

e+(イープラス)
http://eplus.jp

福士則夫のチビテッラ日記〜第8回〜

●第8回「陶器の町デルータと城壁の町モントーネ」

7月11日(金)、今日は朝9時に出発し、わが町ウンブリッチッドからそれほど遠くない陶器の町デルータに遠足。途中SANTUARIO教会に寄る。ジェシカの説明によると16、7世紀、人が事故や若くして亡くなった折、そのことを陶板に描いて教会に奉納し祈る伝統があるとか。壁、柱一面に当時の陶板がそのままじかに貼り付けてあるのだが、1900年代に入ると交通事故の絵など、かなり生々しい描写になる。

いたる所に貼り付けられた陶版画

いたる所に貼り付けられた陶版画

絵付けの前の鶏型のピッチャー

絵付け前の鶏型のピッチャー

ここから5分もかからぬデルータの街に入ると、何処を見回しても陶器の店しかない。毎晩われわれの食卓の上におかれる鶏型のピッチャーはデルータ産だそうで、ほとんどの連中が買ってはお互いの品物を見せ合っていた。今日の遠足は午前中の早い時間に設定されていて、昼食は城でというスケジュールだったので途中ウンブリチッドのスーパーを横目に見るだけで車は城へ。食物に関して敏感に反応する三人の作曲家は示し合わせて夕方ベスの運転で、あらためてスーパーへ買出しに行く。

今回の滞在中最も緊張した1時間

一つ一つ手書きをしている職人は若い女の人が多い

12日夕食後に隣町モントーネで行われている映画が話題になり車でドライヴ。此処も古い歴史を城砦の壁が物語っていて何層にも色が変わって積み重なっているのは幾多の戦いがあった事を示しているのだろうか。この、さほど大きくもない町のごく小さな広場で行われる野外映写会にピーター・ロードが来て彼の短いアニメを6本楽しんだが、その後に見たアフガンの少女の映画は辛かった。アフガン社会における女性の位置と貧困とテロ抗争を子供の視線で表現しているのだが、これがまだ今も現実なのが重い。いつも明るくて身体の大きなジェシカも沈んでいた。

13日は待ちに待ったメールがようやく復旧したのは幸いだが160通以上の着信メールをチェックする事になり、浮世離れした世界に溶け込んでしまっている自分を思い知らされる。

★次回第9回「いよいよ出番」予告

15日(火)、運命のプレゼンテーション当日、ディエゴがウンブリチッドの駅まで通訳の藤谷奈穂美さんを迎えに行くので車に同乗する。13:38到着の一両編成の電車はイタリアにしては珍しくオンタイムで到着。彼女は城の近くのペンションをインターネット予約したそうで興味がてらそこまで付き合うが、ウンブリアの丘を一望する素晴らしい眺めではあるものの、プール付き100ユーロはチト高いのではないだろうか?…

更新は9月28日(水)です。お楽しみに!

福士則夫のチビテッラ日記〜第7回〜

●第7回「スーパーマーケットを横目に」

7月2日(水)、車で1時間ほど駆けスポレートという古い城がある街に出掛けた。ここにも美しいカテドラルがあるが辿り着くまでかなりの急勾配。さらに丘の頂上に古い要塞があり30度を越す炎天下で地獄の責め苦であったが、我々の世話をしてくれるインターンの二人の若い女性、タラとブリアナは城砦の突端まで走っていってワーワーキャーキャーさすがに世代が違う。

Rocca Albornoziana

Rocca Albornoziana

音楽祭が行われている城の中庭

音楽祭が行われている城の中庭

かなり剥落した壁画のある回廊の中庭ではコンサートが毎晩行われているそうである。スポレートの町はジャン・カルロ・メノッティが始めた音楽祭で有名らしく音楽だけでなく絵画、演劇、映画、ダンスなどが7月13日まで毎日行われている。2階の回廊には古い水道橋のフレスコ画が描かれていたが、城塞の裏手を散策すると絵のままの14世紀に建造された石造りのローマ水道橋の景観が眼下に広がっていたのは感動ものだった。今や名画はルーブルに行かなくても東京で鑑賞する事も出来るわけで、様々な国宝級の美術品が空を飛び交っている時代であるが、そこにわざわざ足を運ばなければ立ち合えない人間の偉業を目の当たりにして思わず暑さを忘れる。大通りから横道に入った角の小さなレストランで昼食。オリーブオイルをかけて焼いたパンと鱒とデザートにゴルゴンゾーラ。隣に座ったダーラと全て半分ずつ。おいしうそに焼けた鱒が来た時、シューベルトの「鱒」を口ずさんだら一つ隣のジョーが美声で一緒に歌ってくれた。この街もロマネスクとルネッサンス様式が重なったカテドラルがあるが、その中室を飾っているドームの絵画はスペッロの教会と比べると時代が下っているせいか装飾的で、というよりも教条的でどうにも好きになれない。

城塞の裏手にあるローマ水道

城塞の裏手にあるローマ水道

帰路は急いでいたのか、タラが運転するフィアットはわが町ウンブリチッドにあるスーパーマーケットCOOPに寄らず城へとまっしぐら。明日の朝パンがないのにー!!部屋に戻って今度の買出しはいつ、と早速辞書で確認。3日(木)は中国人のインスタレーション作家、モモのプレゼンテーション、香港で活躍中とか。内容は蟻を扱った映像である。砂糖に群がって動いている蟻と、掃除機から出したダストがズームアップしていくと固まった蟻の集団になっていて、その真逆がメッセージとしてかなり面白かった。

音楽作品でもマクロ側からミクロ側へズームすると同じ音響素材が変容していく事象、そのプロセスを観察するアイディアは作曲上でも有効かもしれない。自分の気持ちが彼女に伝えられず歯がゆかった。

★次回第8回「陶器の町デルータと城壁の町モントーネ」予告

7月11日(金)、今日は朝9時に出発し、わが町ウンブリッチッドからそれほど遠くない陶器の町デルータに遠足。途中SANTUARIO教会に寄る。ジェシカの説明によると16、7世紀、人が事故や若くして亡くなった折、そのことを陶板に描いて教会に奉納し祈る伝統があるとか…

更新は9月21日(水)です。お楽しみに!