佐藤昌弘事務局長回顧録—2007→2011 第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

現代の音楽展2010

現代の音楽展2010

今回の回顧録は2009年度です。この年度で印象的であった世の中の出来事といえば、私は「事業仕分け」をあげます。当時、仕分けを担当した某議員が、「二番ではダメなのですか?」と言って物議を醸しましたけれど、この議員の発言に象徴されるように、芸術団体にとっても、ますます経済的に厳しい状況となったことを実感させられた年でした。

この年度、現音では4月に、前年度に引き続いて会長に坪能克裕氏が、事務局長に私が選出されました。2009年度は芸術監督制の最終年となり、芸術監督には作曲家ではなく、演奏家を初めて招聘、国際的チェリストで、桐朋学園大学学長、サントリーホール館長の堤剛氏にお引き受け頂きました。堤氏の提唱された「人間性と共に歩む現代音楽」をテーマに、〈現音・秋の音楽展2009〉が5公演、〈現代の音楽展2010〉も同じく5公演の計10公演が2009年度の演奏会として、すでに前年度のうちに企画を確定し、各方面への助成申請も済ませていました。

ところが新年度が始まる目前の2009年3月終わりのこと、申請していた助成が不採択になってしまいました。これは本当に痛かったです。予定していた年間10本の公演数を9本にしたのも、こういった財務上の理由によっています。やがて奔走の結果、協賛のスポンサーがつくことになって一息ついたのですが、この厳しい時代を迎えて、資金面についての今後の行く先は、予断の許さぬ状況にありました。

しかし、そのような状況にありながらも、2009年度の一連の演奏会は大変充実したものでした。それはやはり、堤剛芸術監督のご活躍、ご貢献が大であったためといえましょう。本当にこの年度は、堤氏にお世話になりました。「器楽アトリエV」ではワークショップをご指導を、「第26回現音作曲新人賞」では審査員長を、「チェロアンサンブル展」では企画、選曲をして頂いた上に、本番でもトークでご出演、そして「コンチェルトの夕べ」では、ご本業のチェリストとしてご出演頂き、堤氏が50年前にソリストとして初演した、矢代秋雄作曲の《チェロ協奏曲》を、奇しくも半世紀前の初演時と同じ会場の杉並公会堂で、堤氏が学長を務められている桐朋学園のオーケストラと協演して下さり、2009年度現音公演の最後を飾って頂いたのでした。

「コンチェルトの夕べ」チェロ独奏の堤剛氏と指揮の山下一史氏

「コンチェルトの夕べ」堤剛氏と指揮の山下一史氏

芸術監督制は2004年度に始まりました。導入にあたっては、当初反対意見もありましたが、最終的には総会の承認を得て実現したのでした。2004年度の芸術監督は湯浅譲二名誉会員で、テーマは「いま、創造性へ」、2005年は故・林光名誉会員、テーマは「声の復権」、2006年度は三善晃名誉会員、テーマは「未来を紡ぐ」、2007年度は三枝成彰理事、テーマは「芸術音楽に大衆性は必要か!?」、2008年度は一柳慧氏、テーマは「コンセプトの明確化―音楽に実体を」でした。

このように各年、その年の芸術監督らしいテーマが掲げられ、年間の事業の一つの指針になりました。テーマがあることで、事業の性質を限定してしまったり、上演作品の性格の幅を狭くしてしまうのではないかという懸念もありましたが、そのような強制力、干渉力は無く、むしろ、テーマに触発された発展的な創作が行われ、多くの力作が生まれました。演奏家・堤剛氏が現音に示した年間テーマ「人間性と共に歩む現代音楽」は、この年度のみならず、われわれ現代の作曲家に対する貴重な一つの問題定義となって、今後のわれわれの創作活動に関わっていく可能性のあるものとして捉えることが出来ると思います。それくらい重みのあるメッセージと、私は一年間ご一緒させて頂いて実感しました。堤氏は次のように語っています。「私は人間という存在をもっと大きな視点で見直し、その本質そのものをも考え直すことによって、新しい形をもった「音楽」が生まれてくるのではないかと期待しているのです」(第26回現音作曲新人賞本選会・挨拶文より)

(つづく)

★次回第4回「2010年度:80周年記念事業Vol.1」

更新は3月23日(金)です。お楽しみに!

《2009年度の現音公演・全9企画》
◆現音・秋の音楽展2009
・『器楽アトリエV』
2009.10/24 sonorium

・『電楽IV~ライヴエレクトロニクスの現在』
2009.11/6 アサヒ・アートスクエア

・『アンデパンダン展第1夜』
2009.11/11 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
2009.11/12 東京オペラシティリサイタルホール

・『第26回現音作曲新人賞本選会』
2009.11/16 東京オペラシティリサイタルホール
【審査員長】堤 剛
【審査員】安良岡章夫 福士則夫(譜面審査のみ)坪能克裕(演奏審査のみ)
【新人賞】村瀬晴美

◆現代の音楽展2010

・『チェロアンサンブル展』
2010.2/14 府中の森芸術劇場ウィーンホール

・『世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”を中心に~北米特集』
2010.3/3 東京オペラシティリサイタルホール

・『箏フェスタ』
2010.3/6 洗足学園前田ホール

・『コンチェルトの夕べ』
2009.3/18 杉並公会堂大ホール

第21回朝日現代音楽賞に東京の合唱指揮者・西川竜太さん

西川竜太

西川竜太

その年の現代音楽演奏に優れた業績を示し、現代音楽の発展に功績のあった演奏者を顕彰する、第21回朝日現代音楽賞(日本現代音楽協会、朝日新聞社主催、賞金50万円)の選考がこのほど行われ、数多くの新作合唱曲の委嘱や初演を手がけている東京都北区の合唱指揮者、西川竜太さん(39)に決まりました。

表彰式は2012年5月19日(土)日本現代音楽協会総会に於いて行います。

また、日本現代音楽協会は、長年日本の現代音楽を海外に紹介している福島市の三浦尚之さん(70)に「日本現代音楽協会特別賞」を贈ることを決定しました。

 

2011年西川竜太指揮による演奏

▼ヴォクスマーナ出演 / 洗足学園音楽大学 音楽史レクチャーコンサート
1月18日 洗足学園音楽大学2400講堂
湯浅譲二(b.1929)/ プロジェクション ― 人間の声のための(2009委嘱作品)
伊藤弘之(b.1963)/ 声楽アンサンブルのための「揺らぐ風を織る」(2010委嘱作品)
森田泰之進(b.1969)/ 混声合唱のための「あねさんろっく Anesan Rock」(2010委嘱作品)

▼成蹊大学混声合唱団 出演 / 桐朋学園大学音楽学部・作曲専攻教育支援プログラム
湯浅譲二《音楽の開かれた地平へ》レクチャーコンサート
2月22日 桐朋学園大学音楽学部402教室
湯浅譲二(b.1929)/ 混声合唱曲「息」(2004) 詩:谷川俊太郎
混声合唱曲「歌 A Song」(2009委嘱作品) 詩:谷川俊太郎

▼ヴォクスマーナ第24回定期演奏会
3月6日 東京文化会館小ホール
川島素晴(b.1972)/ 12人のおかしな日本人(2011委嘱新作・初演)
木下正道(b.1969)/ 書物との絆Ⅱ(2011委嘱新作・初演) 詩:エドモン・ジャベス
鈴木治行(b.1962)/ ちりぬるを(2007委嘱作品・再演)
伊左治直(b.1968)/ Nippon Saudade(2008委嘱作品・再演)

▼混声合唱団 空(くう)第3回演奏会
5月15日 JTアートホール アフィニス
篠原 眞 (b.1931)/ 24人のヴォカリストのための「Syllables」(2005・初演)
湯浅譲二(b.1929)/ 擬声語によるプロジェクション(1979)
柴田南雄(1916~96)/ 歌垣 no.77(1983)
「三つの無伴奏混声合唱曲」より 1.水上

▼ヴォクスマーナ第25回定期演奏会
9月12日 東京文化会館小ホール
近藤 譲 (b.1947)/ 薔薇の下のモテット(2011委嘱新作・初演) テキスト:蒲原有明
山本和智(b.1975)/ Holy Mountain(2011委嘱新作・初演)
伊左治直(b.1968)/ グランド電柱(2011委嘱新作・初演) 詩:宮澤賢治
湯浅譲二(b.1929)/ 声のための「音楽(おとがく)」(1991)
Iannis Xenakis(1922~2001)/ Nuits(1968)

▼都立芸術高校音楽科 第40回定期演奏会
10月28日 都立芸術高校音楽ホール
西村 朗 (b.1953)/ 同声合唱とピアノのための組曲「永訣の朝」(2006) 詩:宮沢賢治
湯浅譲二(b.1929)/ 女声合唱組曲「ふるさと詠唱」(1982・99) 詩:三谷晃一

▼湯浅譲二 合唱作品による個展 第1回
―― 発音・発声・言語の始源と音楽の新しい関係を拓く~ 湯浅譲二 40年に渡る軌跡 ――
11月13日 トッパンホール
アタランス(1971)/成蹊大学混声合唱団
擬声語によるプロジェクション(1979)/混声合唱団 空
声のための「音楽(おとがく)」(1991)/ヴォクスマーナ
女声合唱組曲「ふるさと詠唱」(1982・99) 詩:三谷晃一/女声合唱団 暁
声のためのプロジェクション――音響発生装置としての(1999)/混声合唱団 空
男声合唱のための「芭蕉の俳句による四季」(2002)/男声合唱団クール・ゼフィール
混声合唱曲「息」(2004) 詩:谷川俊太郎/成蹊大学混声合唱団
混声合唱曲「歌 A Song」(2009) 詩:谷川俊太郎/成蹊大学混声合唱団
「懐かしいアメリカの歌」 より 4.Carry me back to Old Virginny/出演者全員

▼成蹊大学混声合唱団 第47回定期演奏会
12月23日 国立オリンピック記念青少年総合センター大ホール
松平頼暁(b.1931)/ プレリュード(2011委嘱新作・初演) テキスト:猿田長春
湯浅譲二(b.1929)/ アタランス(1971)
混声合唱曲「息」(2004) 詩:谷川俊太郎
混声合唱曲「歌 A Song」(2009委嘱作品) 詩:谷川俊太郎
「懐かしいアメリカの歌」 より 4.Carry me back to Old Virginny

▼女声合唱団 暁 第4回演奏会
12月24日 JTアートホール アフィニス
湯浅譲二(b.1929)/ 女声合唱曲「カヒガラ」(2011委嘱新作・初演) 詩:瀧口修造
女声合唱組曲「ふるさと詠唱」(1982・99) 詩:三谷晃一
木下正道(b.1969)/「書物との絆Ⅰ」女声合唱とピアノのための(2010委嘱新作・初演)
詩:エドモン・ジャベス
松平頼暁(b.1931)/ 児童合唱のための「さくら」(1999)
児童合唱のための「5つのフォルクロールス」(1990-91)

佐藤昌弘事務局長回顧録—2007→2011 第2回「2008年度:一柳慧芸術監督とコンテンポラリー・ヴィルトゥオーゾ!」

第2回「2008年度:一柳慧芸術監督とコンテンポラリー・ヴィルトゥオーゾ!」

福士則夫

会長職を満了した福士則夫理事が花束を受け取る。

2008年度に入り、4月1日に新年度の第1回の理事会が開かれ、会長、事務局長選挙の開票が行われました。その結果、5年の任期継続上限を満了した福士則夫氏にかわって、坪能克裕氏が新会長に選出されました。事務局長には私が再選され、2年目の職務を任せられることになりました。会議が終了して、福士前会長に花束が手渡され、感謝の拍手が送られた後、会議出席者一同は事務局を出て送迎バスに乗り込み、品川の船着き場へ。福士前会長の念願であった、屋形舟での新年度会を開き(もちろん会費制です)、福士前会長の労をねぎらい、坪能新会長の就任を祝って乾杯をしたのでした。

坪能氏は1990年、協会創立70周年事業の〈東京現代音楽祭〉を成功に導いた実力者です。今では、日本を代表する現代音楽演奏コンクールとしてすっかり定着した「競楽」は、この〈東京現代音楽祭〉での開催が第1回でした。坪能会長&佐藤事務局長のペアは結局、2008年以降4年間続くことになるのですが、坪能会長は実に気の利くお方で、気の利かないこと夥しい私はこれまで、どれだけ坪能会長にフォローして頂いて来たかわかりません。

福士氏は、現音の近代化に大きく貢献された方です。委員、委員長といった前時代的な呼称を理事、会長に改め、会長指名理事枠や、20代の作曲家のために準会員枠を設けたことなどはすべて、福士氏を長とする「将来計画プロジェクトチーム」からの提案から実現したものです。私は、福士氏が会長に就任された2003年から理事を務めておりますが、初めは選挙によっての選出でなく、会長指名によってでした。2004年度から2009年度まで6年間施行された芸術監督制も、「将来計画プロジェクトチーム」の発案によるものです。芸術監督制導入の意図について、福士前会長は会報で次のように書かれています。

〈現代の音楽展2009〉チラシ

〈現代の音楽展2009〉チラシ

「従来の演奏会が並列的羅列によって現音のメッセージとしては希薄ではなかったか、 その反省から個性的なメッセージを年間の演奏会に強く反映させる意図のもとに、2004年度においては湯浅譲二氏に芸術監督をお願いしました」。湯浅名誉会員に始まった芸術監督は、林光名誉会員、三善晃名誉会員、三枝成彰理事と続き、5年目にあたる2008年度で初めて会員外の作曲家となる一柳慧氏を招聘しました。一柳芸術監督の提唱した年間テーマは「コンセプトの明確化—音楽に実体を」という、いかにも一柳氏らしいものでした。一柳芸術監督には、この年の現音作曲新人賞の審査員長、競楽の審査員も引き受けて頂きましたが、さらには、企画して頂いた上にピアニストとして出演までして下さった演奏会があり、それが「コンテンポラリー・ヴィルトゥオ—ゾ!」でした。

演奏会のプログラムは当初、ヴィルトゥオーゾをテーマに公募した、会員、一般からの作品に、ジェフスキーのピアノ・デュオ曲“Winnsboro cotton mill blues”、それに一柳氏のピアノ独奏曲《ピアノ・メディア》と《タイム・シークエンス》を加えるという案で、ジェフスキー作品については一柳氏も演奏に加わって下さることになりました。しかし集まった公募作品が充分な曲数に至らなかったため、当公演の制作担当者であった私と糀場富美子理事が、一作ずつ旧作を持ち寄ることになりました。

さて一柳作品の演奏者ですが、《タイム・シークエンス》の方は作曲者のイチオシで、若手ピアニストの寒川晶子さんに決まりました。《ピアノ・メディア》の演奏は最初、木村かをりさんに依頼したのですが辞退され、結局、長尾洋史さんが弾いて下さることになりました。しかし木村さんには是非とも出演して頂きたかったので、一柳芸術監督とのデュオでの出演をあらためてお願いし、ご快諾頂けました。ところがまもなく、ジェフスキー作品を上演するにあたり、ある問題が生じて演目から外さなくてはならない事態となり、演奏をお願いしていた木村さんと一柳芸術監督に、かわりの作品の選曲をお願いしました。

やがて私のところへ一柳氏から電話がかかってきました。「この前、木村さんと食事し ながら検討したんですよ。それで結論をいいますとね、佐藤さん、あなたに新作を書いて頂こうという話になりましてね」と、こんな感じで一柳氏は話されまして、当時、私は他に2曲委嘱を抱えていたのですが、せっかくのご提案に、これはとても断れないと思い、お引受けしたのでした。演奏会では最後の演目として、木村さんと一柳芸術監督に初演して頂いて、とても貴重な思い出となりました。

佐藤昌弘《パサージュ II 》

佐藤昌弘《パサージュ II 》

ところで2008年というと、9月にリーマンショックがありましたよね。この前後から時代は、世界的に厳しい経済状況の趨勢となりましたが、坪能会長は2008年度第2号の会報で、現音もまた例外ではないと述べました。しかし、このような状況だからこそ、会員への協力を強く呼びかけたり、現音をサポートして下さる「維持会友」の入会をお願いするためのパンプレットを作って各方面にアピールしたりもしました。そして2008年度末のこと、翌年の事業を進める上で大きな打撃となる知らせが飛び込んできたのでした。

(つづく)

★次回第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

更新は3月16日(金)です。お楽しみに!
【2008年度の現音公演・全10企画】

◆現音・秋の音楽展2008

・『第25回現音作曲新人賞本選会』
2008.10/17 東京オペラシティリサイタルホール
【審査員】一柳慧(長) 金子仁美 野平一郎 【新人賞】横井佑未子 【冨樫賞】秋元美由紀

・『電楽III』
2008.10/19 世田谷美術館

・『アンデパンダン展第1夜』
2008.11/3 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
2008.11/6 東京オペラシティリサイタルホール

・『第8回現代音楽演奏コンクール“競楽VIII”本選会』
2008.11/30 けやきホール
【審査員】松平頼暁(長) 一柳慧 甲斐史子 中川俊郎 野口千代光 野口 竜  藤本隆史 吉村七重
【第1位・第18回朝日現代音楽賞】増本竜士

 

◆現代の音楽展2009

・『唱楽III〜児童合唱の領域』
2009.2/1 東京文化会館小ホール

・『サクソフォーン・フェスタ』
2009.3/1 洗足学園前田ホール

・『世界に開く窓〜ISCM“世界音楽の日々”を中心に〜北欧特集』
2009.3/5 東京オペラシティリサイタルホール

・『コンテンポラリー・ヴィルトゥオ—ゾ!』
2009.3/6 東京オペラシティリサイタルホール

・『MoVEヴォーカルアンサンブル演奏会』
2009.3/8 東京オペラシティリサイタルホール

ISCMポルトガル支部主催国際コンクール作品募集

ISCMポルトガル支部「Miso Music Portugal」主催の国際コンクール公募の情報です。

現代音楽、電子音楽界、コンピュータ音楽界で世界的に有名になってきているコンクールで、三つのカテゴリーを同時に募集しています。

入選・選曲された作品は、リスボン(年によってはその他の都市も含めて)で開催されるポルトガルを代表する現代音楽祭〈MUSICA VIVA 2012〉の会期中に演奏(もしくは展示再生)されます。

詳細については下記のサイトをご覧ください。

 

13th Electroaoustic Composition Competition Musica Viva 2012

Sound Walk 2012

Composition Competition Música Viva 2012

佐藤昌弘事務局長回顧録2007→2011〜第1回「2007年度―突然の就任、三枝成彰芸術監督と共に」

第1回「2007年度―突然の就任、三枝成彰芸術監督と共に」

事務局長:佐藤昌弘

この3月いっぱいで、私=佐藤昌弘は現音の事務局長職を退くことになります。といっても、別に不祥事を起こしてしまって辞めさせられる訳ではありませんよ!誤解なきよう(笑)。私は、福士則夫氏が会長であった2007年度から事務局長を務めており、今年度は5年目にあたるのですが、協会の定款で、同じ会員が会長、事務局長を連続して務められる期限は5年まで、と定められているからなのです。

では、そもそも会長と事務局長は、いかにして選ばれるかといいますと、まず年度末に理事選挙というのがありまして、200名強の現音会員から18名の理事が選ばれます。さらにその18名の理事から互選により、会長と事務局長が年度初めに選ばれるという次第です。18名の理事と、その中から選出された会長と事務局長の任期は1年ですので、現音は毎年公正に選挙を行なって役員を選んでいるのです。

先ほど私は、「2007年度から事務局長を務めており」と書きましたが、正確に詳しい事情を話しますと、実は2007年度の初めの時点では、事務局長は私でなくて小鍛冶邦隆氏でした。小鍛冶氏は2003年度から事務局長を務められていて、2007年度4月にも事務局長に再選されたのですが、6月になり、一身上の都合ということで突然に現音の退会を申し出、同月の理事会での審議の結果、氏の退会は承認されたのです。

急にぽっかりと空いてしまった事務局長ポストでしたが、こういう不測の事態も見据えて定款というのは出来ているんですねぇ。「役員を辞任する者のあるとき、当該役員の選出された選挙における次点者で補充し、その任期は前任者の任期残りとする」とあります。この規定によって、2007年度事務局長選挙の次点者であった私に、事務局長への就任が要請されることになり、退会した前任の小鍛冶氏の任期残りである2007年度末まで、私は後任を6月22日付で引き受けることにしたのでした。なにせ火急の事態でしたから、辞退出来る余地なんかなかったですよ。

それにしても正直面喰いましたねぇ、この急展開には。理由はともあれ、前任者がいなくなり、引き継ぎもないままに、協会のスポークスマンにして金庫番で仕切り役である事務局長を急に任せられることになった訳ですから。突如圧し掛かってきた責任の重さに、当初は結構気が滅入ったものでした。ただ、2007年度の決算と次年度の予算、その2カ年の事業計画が既に総会での承認を得ていたことは、せめてもの救いでしたが…。

〈現代の音楽展2007〉

現音は2004年度から2009年度まで芸術監督制度を施行しましたが、協会創立75周年であった2007年度の芸術監督は、協会理事の三枝成彰氏でした。そして三枝芸術監督の掲げた年間テーマは「芸術音楽に大衆性は必要か!?」で、大衆性と芸術性の乖離を、芸術音楽の作り手である私たちはどうとらえるか?ということが狙いとのことでした。

打ち合わせのため、六本木にある三枝氏の事務所に伺ったのは8月6日のことです。この日に、名誉会員の松村禎三氏が78歳で逝去されました。松村名誉会員は生前に現音の書記長(現在の事務局長職)を務められたこともあり、私の師でありました。日本の作曲界はまた一人、かけがえのない偉大な作家を失ったのでした。

三枝芸術監督との打ち合わせについて話を戻します。年度内の公演の一つに、当初は小鍛冶氏がプロデュースする予定だったところを、代わって急遽私がプロデュースすることになった「オペラ・プロジェクトII」と題するモノ・オペラの演奏会があり、その公演の演出家手配のため、三枝芸術監督がアートクリエイションという舞台公演製作会社に、私と打ち合わせをしているその場で電話をかけて下さいました。「もしもし、三枝です。現音のモノ・オペラ公演について相談したいんですけどね。その予算が、いいですか、驚かないで下さいよ、たった”ピー”万円しかないんですよ。”ピー”万円だけ!」大体こんな感じで話されていましたね。モノ・オペラとはいえ、あらためてこの世界では”ピー”円がはした金であることを実感させられました。

三枝木宏行作曲《赤ずきん》

後日、アートクリエイション社を訪ねますと、小栗哲家さんという方が対応して下さいました。この方、ナント、あのイケメン人気若手俳優の小栗 旬君の実のパパなんですよ!そして旬君のパパから、飯塚励生さんというアートクリエイション社専属の若手演出家を紹介して頂きました。お名前はイイヅカレオと読むのですが、レオさん、二ューヨーク生まれのニューヨーク育ちで、実にナイスガイなんですよね。一緒に仕事していてとても気分がいい人なのですが、このナイスガイ、「オペラ・プロジェクトII」の本番も随分と近くなった頃になって、私に無茶な注文をしてきました。「佐藤さん、医者の役で舞台に立ってよ」―エエーッ!学芸会、文化祭ではもっぱら音楽担当で、演技なんかしたことないのに!と戸惑っていた私は、ナイスガイに結局上手くおだてられて役者デビュー(?)をしてしまったのでした。私がチョイ役で出たのは、三枝木宏行会員の作曲したモノ・オペラ「赤ずきんちゃん」のラストシーン。老いた赤ずきんちゃんを車椅子にのせて退場させていく医者の役で、セリフも歌もなし。それが、あとになって散々周りからひやかされる羽目に―「事務局長、白衣、似合ってたよ!」

(つづく)

★次回第2回「2008年度」

更新は3月9日(金)です。お楽しみに!

 

2007年度の現音公演(全10企画)】

◆現音・秋の音楽展2007

・『器楽アトリエIV
  2007.10/21 洗足学園音楽大学講堂

・『第24回現音作曲新人賞本選会』
  2007.11/1 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第1夜』
  2007.11/2 東京オペラシティリサイタルホール

・『演奏家による座談会』
  2007.11/4 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
  2007.11/4 東京オペラシティリサイタルホール

◆現代の音楽展2008

・『現代合唱の領域II~田中信昭 第15回朝日現代音楽賞受賞記念演奏会』
  2008.2/17 東京文化会館小ホール

・『響楽II~若手演奏家&音大生オーケストラによる現代作品ワークショップコンサート』
  2008.3/3 紀尾井ホール

・『世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”を中心に~日本からの発信』
  2008.3/7 東京オペラシティリサイタルホール

・『オペラ・プロジェクトII~モノ・オペラ二題』
  2008.3/15 東京文化会館小ホール

・『フュージョン・フェスタ』
  2008.3/16 洗足学園前田ホール