第39回現音作曲新人賞受賞の言葉〜井上莉里

この度は、第39回現音作曲新人賞、併せて聴衆賞を受賞させていただき、大変嬉しく思っております。
今回の現音作曲新人賞に関わってくださった皆さま、私を支えてくださった全ての方々に、心より感謝を申し上げます。

ヴィオリストの安藤裕子氏、甲斐史子氏、チェリストの松本卓以氏、山澤慧氏という素晴らしい演奏家の方々とともに3度のリハーサルを重ねて音楽を作り上げていった時間は私にとってとても有意義な時間となり、東京オペラシティで自分の作品を演奏していただいたこと、たくさんの方々に作品を聴いていただけたことは、とても嬉しく貴重な経験となりました。

オーボエソロのためのピンクノイズ、オーボエとファゴットのためのホワイトノイズを経て、自身のノイズシリーズ3作目となる今回の作品《ブラウンノイズ〜2台のヴィオラと2台のチェロのための〜》は、ヴィオラとチェロのみで構成されますが、この慣れ親しんでいる2つの弦楽器を用いて調弦を大幅に低く変え、新たな音色、新たな表情、そして楽器の可能性を常に模索し続けながら作曲しました。
作品を通して一定のものと、その上で少しずつ変化するものを意識し、その変化がわかるのは人それぞれのタイミングであるという、いわゆる心理学上のアハ体験のようなものを体感していただけていたら幸いです。

作品が音になる瞬間というのは、ほとんどの作曲家にとって一番幸せなことだと思いますが、自分の作品を音にしていただいた本選会では、演奏家の方々から紡がれるブラウンノイズの音楽に、聴いている私たちが飲み込まれていくような感覚に陥り、皆さんと一緒に音楽を共有出来たあの瞬間の雰囲気は今も忘れられられないほど感動しました。

今回のすべての温かくて新鮮なこの経験を胸に、これからも楽しくて面白い作品、そして「自分の音」を生み出していけるように精進します。
本当にありがとうございました。

 

▼第39回現音作曲新人賞審査結果はこちら

第15回現代音楽演奏コンクール“競楽XV”第1位に打楽器の島田菜摘さん

戦後に作曲された現代音楽作品の演奏を競う「第15回現代音楽演奏コンクール“競楽XV”本選会」(主催:日本現代音楽協会、審査委員長:野平一郎)が2022年12月25日(日)13時30分より、東京都渋谷区のけやきホールに於いて行われ、島田菜摘(しまだ・なつみ)さん=打楽器=が第1位となりました。

第2位は天野由唯さん=ピアノ=、3位は北條歩夢さん=打楽器=。

審査委員特別奨励賞に青栁はる夏さん=打楽器=が選ばれました。

講評、結果発表に続いて、表彰式が行われました。

 

前列左から、丸山里佳(ソプラノ)、風見瑶子(ピアノ)、天野由唯(ピアノ)、島田菜摘(打楽器)、北條歩夢(打楽器)、中村淳(フルート)福光真由(マリンバ)青栁はる夏(打楽器) 後列左から、渡辺俊哉日本現代音楽協会事務局長、露木孝行一般社団法人日本音楽著作権協会常任理事、近藤譲日本現代音楽協会理事長、野平一郎審査委員長、苅田雅治審査委員、糀場富美子審査委員、松平敬審査委員、大石将紀審査委員

第15回現代音楽演奏コンクール“競楽XV”

主催:日本現代音楽協会
助成:一般社団法人日本音楽著作権協会、公益財団法人三菱UFJ信託芸術文化財団
協賛:医療法人葵鐘会

審査委員:
野平一郎(作曲・日本現代音楽協会会員/審査委員長)
大石将紀(サクソフォン)
苅田雅治(チェロ)
糀場富美子(作曲・日本現代音楽協会理事)
松平 敬(バリトン)
※50音順

日程:
予選 2022年11月8日(火)9日(水)
本選 2022年12月25日(日)

全35組参加 ※ソロも1組と数える。

会場:
けやきホール(古賀政男音楽博物館内/東京都渋谷区上原)

本選出場者一覧はこちら

 

 

■第1位(日本現代音楽協会より賞状と賞金30万円)

島田 菜摘(しまだ なつみ)打楽器

兵庫県立西宮高校音楽科を経て同志社女子大学音楽学科卒業、同大学音楽専攻科修了。大学卒業時に《頌啓会》音楽賞を受賞。第20回KOBE国際音楽コンクール打楽器C部門最優秀賞・神戸市長賞ほか入賞多数。2015年京都、2019年神戸にてソロリサイタルを開催。

本選演奏曲:
池辺晋一郎/モノヴァランス IV マリンバ等のために(1975)

 

 

■第2位(日本現代音楽協会より賞状と賞金10万円)

天野 由唯(あまの ゆい)ピアノ

東京藝術大学音楽学部作曲科4年次在学中。作曲及び作曲理論の研鑽に努めると同時に、新曲初演や室内楽演奏にも積極的に携わる。ショパン国際ピアノコンクールin ASIA第21回大学生部門銀賞・第23回コンチェルトB部門金賞及びコンチェルト賞。第8回下田国際音楽コンクールプロフェッショナル部門第4位(ピアノ連弾)。室内楽セミナー秋吉台の響き2021参加。現在作曲を安良岡章夫氏、作曲理論を林達也氏、ピアノを若桑茉佑氏、ピアノ及び伴奏法を藤田朗子氏に師事。

本選演奏曲:
新実徳英/ピアノのためのエチュード―神々への問い―第3巻(2017)

 

 

■第3位(日本現代音楽協会より賞状と賞金5万円)

北條 歩夢(ほうじょう あゆむ)打楽器

東京音楽大学科目等履修生2年に在籍。これまでに打楽器を新澤義美、菅原淳、村瀬秀美、西久保友広、柴原誠、作曲を新実徳英の各氏に師事。第15回日本ジュニア管打楽器コンクール本選ソロ部門パーカッションの部/中学生コース 銀賞。第37 回打楽器新人演奏会にて最優秀賞を受賞。現在は演奏活動や吹奏楽の指導のほか、演奏会への編曲作品の提供、卒業試験において自作自演をするなど作編曲活動にも力を入れている。

本選演奏曲:
Casey CANGELOSI/Tap Oratory(2015)
三善晃/リップル 独奏マリンバのための(1991)

 

 

 

■入選(本選演奏順)

中村 淳(なかむら じゅん)フルート

本選演奏曲:
Philippe HUREL/Éolia(1982)
藤倉大/Lila for flute(2015)

 

福光 真由(ふくみつ まゆ)マリンバ

本選演奏曲:
福士則夫/樹霊 ソロ・パーカッションのための(1995)

 

 

■審査委員特別奨励賞(賞状と一般社団法人日本音楽著作権協会より表彰楯授与)

青栁はる夏(あおやぎ はるか)打楽器

本選演奏曲:
Philippe MANOURY/LE LIVRE DES CLAVIERS(1987-8)より IV. Solo de vibraphone
石井眞木/THIRTEEN DRUMS for percussion solo op.66(1985)

第39回現音作曲新人賞に井上莉里さん

前列左から、吉田翠葉(入選)、井上莉里(第39回現音作曲新人賞/聴衆賞)、徳田旭昭(入選)、中村俊大(入選)。後列左より、近藤譲日本現代音楽協会理事長、福士則夫審査員、斉木由美審査員、森垣桂一審査員長。

特定非営利活動法人日本現代音楽協会(理事長:近藤譲)は、2022年12月5日(月)19:00より、東京オペラシティリサイタルホールに於いて〈現代 Music of Our Time 2022〉「第39回現音作曲新人賞本選会」(審査員長:森垣桂一、審査員:斉木由美、福士則夫)を開催し、譜面審査会において入選した4作品の演奏審査を行いました。
厳正な審査の結果、井上莉里(いのうえ・りり/1999年生まれ)さんの《ブラウンノイズ 〜2台のヴィオラと2台のチェロのための〜》が2022年度「第39回現音作曲新人賞」に選ばれました。
演奏、審査に続いて表彰式が行なわれ、近藤譲理事長より賞状と賞金15万円が授与されました。
また聴衆賞にも井上莉里さんの同作が選ばれました。
なお、2023年度の「第40回現音作曲新人賞」は、福井とも子日本現代音楽協会理事が審査員長を務め、募集テーマは「現在形のデュオ」で、二重奏作品を募集します。募集要項は2023年1月頃に発表します。

 

※応募総数34作。一次審査(譜面審査):2022年9月20日(火)

 

第39回現音作曲新人賞本選会結果
2022年12月5日[月]19:00開演 東京オペラシティリサイタルホール

■第39回現音作曲新人賞
賞状、賞金15万円
井上莉里(いのうえ・りり)
《ブラウンノイズ 〜2台のヴィオラと2台のチェロのための〜》
演奏:安藤裕子(ヴィオラ)甲斐史子(ヴィオラ)松本卓以(チェロ)山澤慧(チェロ)

入選(表彰状)
吉田翠葉(よしだ・すいは)《Rrrrrr…》
徳田旭昭(とくだ・てるあき)《Roots by Arcangelo Corelli》
中村俊大(なかむら・としひろ)《でぃすこみゅ:Statement》

聴衆賞(賞状)
井上莉里(いのうえ・りり)
《ブラウンノイズ 〜2台のヴィオラと2台のチェロのための〜》

※入選者は本選演奏順に記載してあります。全作新作初演。

フォーラム・コンサート第2夜 (11月25日) レポート

現音 Music of Our Time2022のフォーラム・コンサートは、11月24日と25日の2夜にわたり開催されました。
今回は出品者のレポートをお送りいたします。

 

フォーラム・コンサート第2夜 レポート    大平 泰志

エロス(性)とタナトス(死)

この度の、ダンテスダイジによる 2 つの歌曲は、性と死という、相反するものを扱った。 ダンテスダイジは禅者であり、絶対意識に達した最終解脱者でもある。 彼は、悟りの意識を 4 つに分類した。
それは以下のとおりである。

個人的無意識

普遍的無意識

宇宙意識

絶対意識

宇宙意識は、鈴木大拙なども著書の中で詳しく述べている。

宇宙意識とは、何も宇宙と一体になるとか、そういうことではなく、その無限性ゆえに宇宙的と

名付けられているのである。プラトンが言うイデア界である。

個人的無意識に人が達すると、あらゆる劣等意識から解放され、比較によらない自信をもたらす。 これはマズローならば、承認欲求の充足及び超越というだろう。これはナザレのイエスが 2000 年前、十字架上で達した悟りである。ナザレのイエスは、十字架の上で最初の悟りを開いた。

普遍的無意識に人が達すると、個別の我が消え、一つながりの生命という認識に至る。これは現 象界に対する圧倒的支配力をもたらすこともある。ここにきて、人は、自我が勝利することはない。ということを知る。これはゴータマシッダールタが、35 歳のとき、菩提樹の下で達した悟り である。ゴータマは、菩提樹の下ですべてが悟ってることを悟った。言い換えるならば、彼一人だけが間違ってることに気づいたのである。妻子を捨てわけわからない悟りを求めてた自分だけが間違っていた。しかし、それに気づけたから、その努力さえも無駄ではなかった。と気づいたのである。人はここにきて初めて真に自我との戦いを本格的に始めるのである。ゴータマは初めて自我の根本的過ちに向き合ったのである。

個人的無意識と普遍的無意識は、続く二つに比べるとまだ迷いの意識と言われることもある。

私自身が、普遍的無意識に意識を凝結させることに成功したのは、2020 年 3 月 24 日の夜であっ た。それ以来、私の人生及び、音楽的課題は、次の宇宙意識を描写しとらえる努力へと移行した。

本作品は、その初歩的努力の成果といえよう。

 

フォーラム・コンサート第2夜 レポート    楠 知子

今年は、日本中が沸いたサッカーワールドカップ2022があり、日本が強豪ドイツとスペインを破 って決勝に進むという歴史的快挙を成し遂げた、まさに初戦の 11 月 24 日、(日本現代音楽協会・ MUSIC of Our Time2022 Forum Concert 第 1 夜)が東京オペラシティリサイタルホールで開催された。

私は今年もインターネット配信が実施されたおかげで、全Concert と 11 月 13 日の事前レクチャー と 12 月 4 日の事前アーカイブ動画を鑑賞することができ、現代音楽の現在を私なりに理解することができたことを深く感謝する。
昨年は自分なりに次のようにConcertの傾向をまとめてみた。 (1)オーソドックスな楽器を使いな がら異化して、新しい価値を生み出す。(2)内容に重きを置いて、音楽従来の 3 要素を保守しながら virtuosity を追求し、聴衆に訴える。(3)単純な音を使いながら、創作の意味を問う

Forum Concert は圧倒的に(2)が多かったようで 1900 年代―からの技法を思わせるものもあり、対位法/広義の和声法などアカデミックな技法に裏打ちされた傑作揃いで、すべての曲の構造を理解できた。その中でも私作品は(1)二宮作品は(3)だったと思う。

それに比して、新人賞本選会では音を音響として捉えているものが多く(1)、特殊奏法の演奏が 非常に優れていた。
全体を通して、今までどこかで見聞したScenesではあるが、音楽としては 新鮮で心に残ったものは、12 月 8 日小寺加奈・微分音カタログー旋回する鳥 II、二宮作品三瀬川、カーゲル事前動画。 今回私が書いた動機は、昨年東京藝大―創造の杜での斉木氏のレクチャーでの IRCAM の言及と Forum Concert 2021 の HYMN III、今春の Lapsのテクニック解説のレクチャーetc を聴いたこと。この分野は不得手と思っていたが、避けて通れない最近の世相を考えると、手はじめに Finale の MIDI 機能と生ピアノをコラボさせてみようと考えた。以下に自作についてのコメントを記す。

(作曲サイト)S氏;   CDを送ってほしい。露木氏の作品を聴きたかった。他;なぜか視聴できなかっ た。題名が歴史に残るとよい。同学年の女流作曲家はユニークで、続けてほしい。

(演奏サイト)O 氏;  音源にあっていてアンサンブルがとてもきれいに聞こえた。ピアノの音色感もよ かった。インターネット配信で聴けて嬉しい。
I氏;高校生と大学院生と聴き、貴重な体験だった。響きが好き。ピアノも素敵だった。プログラムノ ートも見、曲作りと合わせて聴けたが、バックサウンドの音量が小さく、全体のバランスが?だった。
S 氏;  可愛いメロディーが入って流れるピアノの旋律が美しく素敵だった。 他;デジタルサウンドとコラボで素敵な演奏だった。作品を何度も聴くと緻密で奥行がある。パワフル
(一般);  落ち着いてサウンドも入りアンサンブルのように聞こえた。パソコンをセットアップして、演奏会を聴くのは初めてだったが、よい経験になった。洋服も似合っていた。 ピアノとデジタルウインドの響きが融合して、とても快く興味深く感じた。活動が途切れることなく続けているのは素晴らしい。活躍ください。

このように、まとめてみると、少しずつでもできなかったことができるようになり、音楽についても理解が深まることが嬉しく感じる。

 

フォーラム・コンサート出品作曲家の皆様へ
「作品と同じように解説文も丁寧に書きましょう」       河内 琢夫

2022年度のフォーラム・コンサートは去る11月24日と25日の2日間に渡って行われましたが、プログラム・ノートを読んで感じたことがあるので、以下それについて書かせて頂きます。それぞれ皆様の作品そのものについて語る(批評する)資格と資質を私が備えているとは思っておりませんので、それらは割愛します。

プログラム・ノート(それぞれの自作についての解説文)については、ずいぶんと読者(聴衆)に対して誠意のない不親切で拙劣な文章が多いと感じました。それらの文章は大別すると、およそ3つの傾向があると感じました。


1)自分の心情や私生活のことなどをとりとめなく、長々と書く。そのため文章にメリハリがなく、何を言いたいのか、わからない。だらだらと続く、弛緩した言葉の羅列。


2)1とは逆に文章が極端に短い。これでは読者(聴衆)は取りつく島もない、と云った印象を受け、
見捨てられた気分になる。その文章はあたかも「何も言いたくない。黙って俺の曲を聴け、そして俺の気持ちを察してくれ」と言わんばかりである。


3)楽曲解説以前に、書き手は日本語の作文に慣れていないのか、日本語として成立するかしないかの、
ぎりぎりの線にある稚拙な文章。

以上、3つの傾向は全て内容の薄いものです。


コンサートにいらっしゃるお客様は現代音楽マニアの方ばかりとは限りません。クラシックは聴くけれども現代音楽は
初めて、という方もいらっしゃいます(むしろ、そういう方の方が多いのではないでしょうか)。ご自分の身に照らしてお考え頂きたいのですが、コンサートの集客をするということは非常に大切なことであると同時に大変なことです。

作曲する時と同様に自らの想像力を使って、もっと読者(聴衆)目線に立って、文章を書いて頂きたい。

他者に自分の意志を伝える気はないし、その必要もないのだ、というお考えの持ち主がもし、いたとしたら、そもそも、そういった人がなぜ、公の場で自分の作品を発表するのか、疑問です。もし今後も自分の考えを変える気がない、というなら、別に発表の場を探して頂きたい。

最後の3)に該当する方、本多勝一著「日本語の作文技術」(朝日文庫)をお薦めします。これ一冊読むだけで高校卒業レベルの現代国語力が身に付きます。

以上。                                          河内 琢夫

 

フォーラム・コンサート第1夜 (11月24日) レポート

現音 Music of Our Time2022のフォーラム・コンサートは、11月24日と25日の2夜にわたり開催されました。
今回は出品者のレポートをお送りいたします。

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