5月27日にデビューコンサートを開催する「ENSEMBLE EXOPHONIE TOKYO」は、メンバーの多くが「現代音楽演奏コンクール“競楽”」の優勝者、ファイナリストということで、今回は競楽経験メンバーの皆さんに、アンサンブルのこと、また競楽のことをお話して頂きました!
——本日はお忙しいところありがとうございます。当協会としては競楽でお馴染みの皆さんが顔を揃えてアンサンブルを結成されたとあって、とてもワクワクしているんですが、アンサンブルの名前である「エクソフォニー」はどういった意味で、どういった想いを込めているんでしょうか?
間部令子(フルート)「エクソフォニー」はドイツ語で「母国語の外の世界」を指す言葉で、メンバーの多くが海外のエクソフォニーな環境で音楽を勉強してきた背景や、西洋楽器を表現の手段とする日本人として、ほどよく馴染むかなと思いました。それから、世界各地での言葉を通したさまざまな考察が一冊に綴られている多和田葉子さんの著書『エクソフォニー』から深く感銘を受けています。音楽を多角的に捉え、立体的に練り上げた演奏を目指したい、仲間を尊重して刺激し合い、ひと味違うサウンドを作りあげたい、そんな願いを込めて。
——結成の経緯を教えて頂けますか?
間部 今回指揮をする作曲家の大西義明さんが東京にいらしてから、アメリカの共通の友人も多くいろいろ話していたら、大西さんは「アンサンブルの指揮をしたい」と。「それじゃあ編成は?」というと、やっぱりシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の編成だろうということになりまして。時を同じくして、クラリネットの岩瀬龍太さんから「ウィーンから日本に帰国するから何か一緒にやろうよ」と連絡が来たんです。
——岩瀬さんは当協会の維持会友(サポーター)にもなってくださいました。
安田結衣子(ピアノ)私は間部さんから電話をいただいて。間部さんとは前に一度だけ坪能克裕さんの作品で共演したことがあって。
間部 何でも弾けるピアニストと言ったら安田さん、ということで。楽しい人だしムードメーカーとしても(笑)。
松岡麻衣子(ヴァイオリン)私も間部さんからお話をいただいて、チェロの山澤慧くんは私が推薦しました。
山澤慧(チェロ)お話をいただいて、小編成で、現代曲に強い人たちと一緒に出来るということで、麻衣子さん以外の方は一方的には知ってましたが、共演は初めてで、とても楽しみでした。
安田 私も山澤くんのことは一方的に知っていました。麻衣子さんは大学時代から知ってはいたんですけど。
松岡 森下周子さんの曲で一度共演したね。
山澤 僕は令子さんは「競楽の優勝者」ということで知っていました。
間部 声をかけるにあたって、若い世代とも一緒にやっていきたいと思ったし、今回たまたま多くのメンバーが競楽を経験していますが、競楽に挑むというのは現代曲に関心がある人だという基準にはなりますし。私の繋がりだけだど同じ学校出身の人たちになりがちなので、学校を越えてというのも意識しました。代表の大原裕子さんは作曲家で、ロンドンで学んで洗足学園で教えていたりと、違った風をもたらしてくれますし。
——5月27日のデビューコンサートは、リンドベルイ、フェルドマン、シェーンベルク、武満徹、グリゼーの大作ばかり、かなり積極的なプログラムですね。どのように選曲されたんですか?
松岡 この編成で今後レパートリーにしていきたい曲をみんなで出し合いました。全部五重奏ではないですけど、この編成の楽器の組み合わせの曲も含めて300曲ぐらいリストアップしました。
安田 今回のプログラムは結構大変です(笑)。こんなにたくさん現代曲に取り組むのは久しぶりです。リハーサルを重ねてますけど、ピアノはシェーンベルクが特に大変ですね。
間部 聴きどころは…ヴァイオリンが結構ね…(笑)。
松岡 ハードル上げないでくださいよ(笑)。すごくヴァラエティに富んだ選曲です。「この楽器の組み合わせでこんなにいろんな色彩感のある響きが作れるんだ」というのを聴いてもらいたいですね。
間部 通常だとコンサートのメインで持ってくるような曲ばかり集めたので、盛りだくさんという印象です。
松岡 チャレンジングなプログラムですね。私はドイツに留学していた頃にこの編成でずっと活動をしていたので、今回初めてリハーサルで座った時すごい嬉しかったです。今回は全員日本人だから、きっと協調性があるアンサンブルになるのかな、と思ってたら、相当個性的な人たちの集まりで…(笑)。
間部 常にディスカッション(笑)。でもそれが競楽の本選まで行く所以だと思います。
安田 競楽経験者じゃないメンバーも相当…(笑)。みんないろんなところにいたから、そういう意味ではすごく面白いですよね。
松岡 海外だけじゃなく、国内でもいろんな経験を積んでる人達が交わってますからね。
山澤 僕は海外の経験はないのですが、皆さん海外で活躍されていた方ばかりなので、毎回リハーサルは刺激的です。今回のプログラム、チェロが特に目立つという訳ではないのですが、たまにとても美味しい箇所があります(笑)。
——今後はこのアンサンブルでどういった活動をされたいですか?
安田 メンバーを増やしていけたら良いですね。室内オーケストラも出来たら。
松岡 このメンバーを核にして、外に広げて行きたい、外に出て行きたいというのはありますね。
山澤 この編成に書かれたメジャーな作品はもちろん演奏していきますが、日本人作曲家が書いた、なかなか演奏されない作品の再演もしたいと考えています。
間部 今後はメンバーの大西さんや大原さんの新作とか、現音の会員の方々の作品も演奏できたらと思っています。日本のものを外に持ち出したいという想いは私はありますね。正に「エクソフォニー」ということですね。アンサンブルとしてレパートリーを増やしていって、クラシックのコンサートをあまりやっていないような小さなスペースでもどんどんやっていきたいです。
——競楽を経験してみての印象はいかがでしたか?
安田 最初ピアノソロで出た時、本選でナッセンとブーレースを弾いたんですけど、お客で来ていた演奏家の友達はみんな「ブーレーズカッコ良かったー!」って言ってくれたんですけど、審査委員の先生方、特に作曲の先生は「ナッセンのあんな良い曲あるんだね!」っておっしゃっていて、こんなにも印象が違うんだなって思いました。2年後、ソロでの参加を迷っていた時に、フルートの多久潤一朗さんからデュオでの参加に誘われて、多久さんだったら一緒にやりたい、挑戦したいなと思って。ソロでもデュオでも参加できたのは良かったです。
山澤 競楽は、ソロから六重奏までエントリー出来るし、楽器も何でもOKだし、無差別級的なところが魅力だと思います。僕は藝大の学部の頃から受けたくて、過去の受賞者の名前を見ながらモチベーションを高めてました。前々回の競楽X(優勝:ピアノ佐藤祐介)の時に一次予選落ちしたので、前回受けた時はとにかく予選はインパクトを残せるように、という風に選曲を工夫しました。
松岡 私も学生時代、ドイツに留学する前に受けて予選落ちしたので、前回受けるにあたって随分ブランクがあったので、受けるか受けないかホントにぐじぐじぐじぐじ間部さんに相談してて(笑)。「悩むならやめとけ」と言われて(笑)これで最後にしようと覚悟を決めて受けました。
間部 私もアメリカ留学中に何度か受けて、優勝する前は予選落ちでした。ところで、管楽器は当たり前のように現代曲を演奏しますが、弦楽器は、特にソロ作品は少ない印象ですよね。
山澤 普通に学生生活をしていると現代曲を勉強する機会はあまりないんですが、最近は少しずつコンクールでも課題になってきています。高校時代、僕の学年は珍しく作曲の同級生がいなくて、新曲をやりたいと思っていたのに出来なくて、学部に入った時にその反動で「やります!やります!」と。それが新しい作品への興味や意欲に繋がっています。
松岡 私も高校の頃ぐらいから新しいものに興味があって、大学の頃は作曲科の友達と率先し試演会をやったりしてました。
安田 私は作曲科出身でピアノを弾いていますが、ピアノを弾きたいと思って作曲の勉強をしていました。クラシックは大好きだし沢山弾いているけど、同時代の作品を演奏するというのは「使命感」じゃないですけど、そういう気持ちはあります。作曲家の気持ちも分かると思うし、作曲家からの作品へのアプローチも出来ると思って。競楽へはそういう気持ちで参加しました。
間部 前回のファイナルは凄かったですね。松岡さんがファンクでした(笑)。
松岡 私の本来の性格はそういうタイプじゃないんですけど(笑)湯浅譲二さんの《マイ・ブルー・スカイ第3番》を中心に据えて、結果はどうあれ、自分なりにチャレンジしたくて、衣装もいろいろ考えました。
安田 私の衣装はインド製ですから(笑)。
山澤 インド縛りの選曲でしたよね(笑)。僕は逆に黒一色の衣装で、それは、ツィンマーマンの《無伴奏チェロソナタ》が、無音で始まり無音で終わる曲なんで、他の曲も足そうかなと思ったんですが、1曲勝負にしました。
間部 武士のような…(笑)。私の頃(競楽VII)は衣装はそんなに凝ってなかったですね。忙しい時期で、予選から本選まで、アメリカと日本を3往復、凄く長かった印象です。
安田 確かに、前々回までは一次予選・二次予選・本選だったのが、前回は予選・本選だったので、2回続けてファイナルに出てみて、雰囲気は違いましたね。前回はガラコンサートみたいな印象でした。
松岡 参加曲について間部さんに相談した時、相談しているうちに間部さんが「出たい出たい!」と言い出しちゃって「代わりに出てください!」なんて話してたんですけど(笑)。他にもいろんな人に相談にのってもらったり、作曲家の友達に演奏を聴いてもらったりもしました。やっぱり凄く難しいコンクールだと思うので、特に予選を通過するのが難しいと思うので。
山澤 ある楽器の友達が、凄く現代曲が得意なのに予選で落ちちゃって、それはひょっとしたら選曲もあったのかなと。
松岡 プログラミングのセンスとか、コンセプトとか、演奏する技術以外のものも求められますね。
安田 私はコンクールに出たことがなくて、コンクールってもっと凄くピリピリして誰もしゃべらないのかと思ってたら、競楽は楽器も編成も違うせいか、みんな凄くしゃべってて(笑)ビックリしたけど、私としてはリラックスして挑めたし、友達増やせる!みたいな感覚だったり、出会いも沢山あったし、共演してみたいなと思った人たちと今回こうやって一緒にアンサンブルが組めたのは嬉しいです。
間部 参加者の曲目リストを見るだけでも面白いですよね。自分の楽器じゃなくても、興味深い作品があったら、その作曲家のフルート作品がないか調べたりだとか。私と山澤くんはもう受けられないので、クラリネット、ヴァイオリン、ピアノの「ミニ・アンサンブル・エクソフォニー」で競楽に出てもらえればと思います(笑)。もう受けられない身としては「この曲を競楽の審査にかけてみたい」という曲があるので、もしフルートの作品を探している方がいれば是非連絡を頂ければと思います。
——みなさんのお話を聞いて、沢山の人が競楽にチャレンジし、それが新たな出会いの場になったり、更なる音楽活動へのステップになれば嬉しいです。貴重なお話をありがとうございました!
⇒ 現代音楽演奏コンクール“競楽XII”の参加要項はこちら!
アンサンブル・エクソフォニー・トウキョウ Vol.1
2016年5月27日(金)18:30開場 19:00開演
豊洲シビックセンターホール(豊洲シビックセンター5F)
東京メトロ有楽町線「豊洲駅」7番出口から徒歩1分
新交通ゆりかもめ「豊洲駅」改札フロア直結
間部令子 フルート
岩瀬龍太 クラリネット
松岡麻衣子 ヴァイオリン
山澤慧 チェロ
安田結衣子 ピアノ
大西義明 芸術監督・指揮
大原裕子 代表
《プログラム》
Magnus Lindberg (1958-)
Quintetto dell’estate (1979)
Arnold Schönberg (1874-1951) (arr. by A. Webern)
1. Kammersymphonie Op. 9 (1906/1923)
Morton Feldman (1926-87)
Durations I (1960)
Toru Takemitsu (1930-96)
Quatrain II (1977)
Gérard Grisey (1946-98)
Talea (1994)
《チケットのご予約・お問合せ》
一般 3000円/学生 2000円(当日は各500円増し)
exophonie.tokyo@gmail.com
080-8827-9922 (岩瀬)
演奏者各自でも承っておりますのでお問合せ下さい。
Confetti
フリーダイヤル 0120-240-540(通話料無料・受付時間平日10:00~18:00)
発行手数料がかかりますが、予約直後からセブンイレブンで受け取り可能です。
主催:アンサンブル・エクソフォニー・トウキョウ
後援:日本現代音楽協会/洗足学園音楽大学/東京藝術大学音楽学部同声会/フェリス女学院大学音楽学部同窓会/Fグループ