“競楽”2位フルート若林かをりさんインタヴュー「来年はシャリーノを!」

「現代音楽演奏コンクール競楽“XII”本選会」12月4日(日)13:00よりけやきホールで無料開催!

「現代音楽演奏コンクール“競楽X”」で同率2位となった、フルートの若林かをりさんと、箏のマクイーン時田深山さんに、それぞれインタビューをさせていただきました。競楽の思い出や、今後の活動について語って頂きました。第一弾は若林かをりさんです!

 

kaori_wakabayashi——ご自身のフルートコンサートシリーズ「フルーティッシモ!」の4回目、5回目を来年企画されているそうですね!内容を教えて頂けますか

 

若林かをり 来年の4月4日は、私が「現代音楽演奏コンクール“競楽”」でも演奏し、大好きな作曲家であるサルヴァトーレ・シャリーノ氏の70回目の誕生日ということで、彼のフルート独奏のための作品集第I巻、第II巻の全12曲を、2回にわたって演奏します。

 

——凄く意欲的なプログラムですね!「フルーティッシモ!」の1回目は様々な作曲家の作品を集めたプログラムでしたが、次回はシャリーノ一人ににスポットを当てるんですね。

 

はい。私は美術館によく行くのですが、絵を観るとき、一人の作家に絞った個展が好きなんです。その作家の感性にどっぷりと浸れて『若いときはこういう作風で晩年はこんな感じになったんだ…』という風に、一人の作家の感性や考え方の変化のようなものまで感じ取ることが出来るような気がするんです。音楽も同じような側面があると思ったので、今回はシャリーノのフルート作品の魅力を全部知ってもらえたらな!と思って企画しました

 

——「フルーティッシモ!」というネーミングは造語なんですか?

 

はい。「フルート1本で勝負するぞっ!」という想いを込めています。後々調べたら、イタリアでも同じネーミングのイベントがあるそうで、私の師匠であるマリオ・カーロリ先生も出演している大きなフルートイベントみたいです。

カーロリ先生も、数年前にアメリカの大学の企画でシャリーノのフルートソロ作品を全曲演奏したことがあったのですけれど、尊敬する先生がなさったことを私もチャレンジしたいと思ったことも、今回の企画のきっかけのひとつです。

私がシャリーノ作品を一番最初に聴いたのは、2004年に東京で行われたアルディッティ弦楽四重奏団の演奏会で、アルディッティ氏が演奏されたヴァイオリン独奏のための《6つのカプリッチョ》だったのですが、『ヴァイオリンでこんな音が出せるんだ!』って衝撃を受けて。その後、カーロリ先生がフルート作品を演奏されているのを聴いて、やっぱりビックリしたんです。それまでの“現代音楽”というイメージが覆って、現代作品の楽しさや面白さを知ったんです!

ただ、演奏するのはとても難しくて…(苦笑)。シャリーノの楽譜は、フルートソロなのに3段になっているものとか、実音以外の音も沢山記されています。なんと、フルート独奏のための作品集では、第I巻、第II巻を通して、いわゆる普通のフルートの音を出すところは一カ所しかありません!!そう言ったこともあって、シャリーノの楽譜とフルートの特殊奏法についてのレクチャーもコンサートと同時期に開催したいなと考えています。

 

——「フルーティッシモ!」は毎回ランチタイムに1時間の開催でしたが、次回は初の夜開催なんですね?

 

そうなんです。ヨーロッパで勉強していたとき、土日の午前中にコンサートを聴きに行って、ランチを食べて、お昼からは遊びに行く、というスタイルをよく目にしました。ヨーロッパから帰国して、リサイタルを開催しようと考えたときに、日本でも、東京だったらこのスタイルは良いんじゃないかな?と思ったんです。3回目まではランチタイム公演でしたが、シャリーノの作品集第I巻は1時間ではプログラムが収まらないので「フルーティッシモ!vol.4」は初めて、夜に2時間弱のコンサートを開催することにしました。第II巻の方は演奏時間も短いので、「フルーティッシモ!vol.5」は、今まで通り土曜日の11時から行う予定です。

本来「フルーティッシモ!」では邦人の作品を演奏したいという想いはあるんですけど、2017年はシャリーノのアニバーサリーですし、今回は是非、シャリーノの音の世界を日本のみなさんに聴いていただきたいと思いました。

 

——「フルーティッシモ!」の3回目では、武満徹さんを中心とした邦人作曲家特集でしたよね。副題が「ゲンダイの古典」と題されていましたが、これはどういった想いを込められたんですか?

 

まず、邦人作品の特集にしたことに対しては、私がヨーロッパで「自分は日本人なんだ」ということを再認識したことが大きかったです。現代の日本を代表する作品を沢山生み出されていた武満徹氏や実験工房メンバーの作品は、是非とも取り上げたいコンテンツでした。邦人作品には今後も沢山取り組んでいきたいと思っています。

「ゲンダイの古典」という副題をつけるにあたっては、新しい作品に対して「古典」と言ってしまうと失礼にあたるかな…と、とても迷ったんですが、尊敬の念を込めてこのタイトルにすることにしました。例えば武満徹さんの《Voice》は、国際コンクールの課題曲として何度も取り上げられていて、ヨーロッパの二十歳ぐらいの学生さんでもレッスンで吹くぐらい、今ではスタンダードなレパートリーになっています。そういう意味では、「現代音楽だけど、もうすでに古典だな。」と思って。L.ベリオの《セクエンツァ》なんかもそうですね。

 

——競楽でも《Voice》を吹く方は多いですね。

 

そうですよね。競楽の選曲は、まさに現代の古典!と言った曲目が並んでいる印象があります。審査委員の先生方の世代の作品でエントリーして、既に沢山の演奏家が演奏してきた作品に真正面から取り組んで、自分のパフォーマンスを見ていただきたい!というマインドがあるのかなって思います。

一方で、以前、打楽器の方に「今度1980年の曲を吹くんです。」と言ったら「それは古い作品ですね。」と言われてハッとしたことがありました。打楽器のソロ楽器としての確立は、フルートと比べれば近年のことですしね。“現代作品”とはいっても、とても幅広いので、ものすごく新しい斬新な作品でエントリーして、バチッと演奏して魅せる!という事が出来るのも競楽の魅力だな、と思います。

私が留学をしたのは、現代奏法を学びたかった事と、レパートリーを増やしたいという思いがあったためです。留学中の数年間でいろんな作品に触れてみて、自分と相性がいいと思う作品にもたくさん出会うことができました。その成果を発表する場があったらいいなと思って競楽にチャレンジすることにしたんです。競楽は参加者自身が自分のカラーを出せるような選曲ができるのが良いですよね。

 

——昨年の「フルーティッシモ!」は地元・滋賀県でも開催されてましたね。

 

滋賀県は、ラ・フォル・ジュルネが開催されるなど、最近コンサートが増えてきていています。演奏に携わっている者としてはとても嬉しい環境ですが、コンテンポラリーはまだまだ少ない印象ですね。「フルーティッシモ!」の滋賀公演では、陶芸家の方のご協力で光る陶器の作品を会場内に設置して、暗闇の中で現代作品を演奏したり、湯浅譲二先生をゲストにお迎えしトークをしていただきました。今回は第一回目という事もあり、また美術作品とのコラボレーションが「珍しい企画」という印象も与えたようで、地元のフリーペーパーで取材をしていただけたり、新聞にも取り上げて頂くことができました。そのおかげで、県内はもとより、京都や大阪、兵庫からも多数のお客さまがご来場くださったのですが、今後定着させていくためには、広報の仕方やファンの獲得など、まだまだ課題があるなと感じています。

 

——最後に競楽について一言いただけますか。

 

競楽にエントリーするにあたり、プログラミングや構成を自分なりに考えて選曲するというプロセスを踏めた事は、私にとって大きな財産になりました。また、予選・本選を通して、楽器の垣根を越えて、興味深い作品や素晴らしいパフォーマンスを聴くことが出来、沢山の刺激を受けました。そのような中で、入賞させていただけた事は、「フルーティッシモ!」を企画するにあたって、大きな原動力につながっています。競楽を受けていなかったら「フルーティッシモ!」はやってなかったかもしれません(笑)。

今回の競楽でも、素晴らしい表現者達がバリエーションに富んだ作品に挑戦され、お客さまを魅了させてくれることを期待しています!

 

——今後のご活動を楽しみにしています!どうもありがとうございました!

 

 

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◼ 若林かをり フルーティッシモ!〜フルートソロの可能性〜
第4回 2017年4月14日(金)19:00開演
第5回 2017年10月21日(土)11:00開演
会場:東京オペラシティ3階 近江楽堂

競楽XII本選出場者紹介〜鈴木真希子(ハープ)

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▼本選演奏曲
Betsy JOLAS/TRANCHE pour harpe seule(1968)
棚田 文紀/Mysterious Morning I pour harpe solo(1995)
Luciano BERIO/Sequenza II per arpa sola(1963)

 

競楽の本選会にて演奏する機会をいただき、大変嬉しく思います。

本選会では恩師F.ピエールへの委嘱2作品と、パリを拠点にご活躍中の棚田文紀氏の作品を演奏致します。
1曲目《TRANCHE》は、エトフェと呼ばれる響きを止める奏法がいかされた作品です。エトフェによりフレーズは刹那に消え去りますが、幾重にも溶け合った儚いフレーズは、まるで長い吐息のように豊かな時間を描きます。
2曲目《Mysterious Morning I 》は、ハープらしさが際立った作品です。朝の風が吹き抜けるような心地よさ、そして美しくも魅惑的なハープの世界を表現したいと思います。
3曲目《Sequenza II 》は、ベリオと親交の深かった恩師、二人で創り上げたというこの作品は、現代音楽におけるハープ奏法のもととなる特殊奏法とハープの多くの可能性を示しています。

紀元前3000年頃に原型があったとされるハープ。長い歴史を経て、この現代まで繋がった響きをお楽しみください。

◎プロフィール

洗足学園音楽大学卒業。パリ・エコール・ノルマル音楽院高等演奏課程を満場一致で卒業。パリ国立地方音楽院を満場一致で卒業。クレ・ドール国際コンクールにて1位。留学中アンターコンテンポランのアトリエに在籍。これまでに信国恵子、杉山敦子、F.ピエール、G.プチ・ヴォルタ氏に、現代音楽をB.シルベスター、J-Mコッケ、F.カンブルラン氏に師事。

 

▼予選演奏曲
Raymond MURRAY CHAFER/The Crown of Ariadne for solo harp with percussion(1979)より1、2、3、4楽章

第33回現音作曲新人賞入選者発表

2016年11月25日(金)午後5時より、第33回現音作曲新人賞の譜面審査を行いました(作品募集テーマ:邦絃楽器)。
全18作の応募の中から、山本裕之審査員長、新垣隆・福井とも子審査員による厳正な審査の結果、新人賞候補作品(入選作)に下記の4作が選ばれました。
2017年3月3日(金)渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホールにて行われる〈現代の音楽展2017〉「邦楽・絃楽プロジェクト」内の第1部「第33回現音作曲新人賞本選会」に於いて、演奏審査により新人賞受賞作を決定します(開演時間未定)。

 

■入選作(作曲者名五十音順に表記)

池田 萠(Moe IKEDA)
《硝子妄想(と、その解決)》地歌三味線(中棹三味線、歌唱を含む)
1986年石川県生まれ。愛知県立芸術大学作曲専攻卒業。IAMASメディア表現研究科修了。作曲を小林聡、寺井尚行、三輪眞弘他の各氏に師事。

伊藤 彰(Akira ITO)
《好奇心ドリブン》ギター、ヴィオラ、二十絃箏
1991年福岡県生まれ。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。同大学院後期博士課程在籍中。作曲を菊池幸夫、北爪道夫、川島素晴の各氏に師事。

原島拓也(Takuya HARASHIMA)
《極彩ドロップ No.2》中棹三味線、十七絃箏、フルート
1993年生まれ。現在桐朋学園大学作曲専攻研究生。作曲を山内雅弘、山根明季子、金子仁美の各氏に師事。

増田建太(Kenta MASUDA)
《樹に窓を見る》十三絃箏、クラリネット
1990年生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻音楽コース作曲専攻卒業、同大学院修了。物部一郎、北川文雄、猿谷紀郎の各氏に師事。

競楽XII本選出場者紹介〜中山加琳(ヴァイオリン)

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▼本選演奏曲
藤倉 大/Samarasa for violin(2010/new version 2014)
Pierre BOULEZ/Anthèmes 1 pour violon seul(1992)

 

この度、競楽本選会に出場させていただけること、大変嬉しく、光栄に思っております。

藤倉大氏の作品名「Samarasa」には、氏によると、サンスクリット語で「心の平衡(mind at rest)」という意味が込められています。一音ごとの弦の移動や普段使われないポジションによって、その不自然さがメロディに美しい揺れを引き起こします。不自然な運動によって、生みだされる音楽からは、不安や焦りの感情も見え隠れします。エネルギーをふつふつとため、後半、一気に激しさを増し、爆発したあとは静かに落ち着いて、遠くに消えて行ってしまいます。その心の様を表したいと思っています。

今年(2016)に亡くなられたブーレーズ氏の「Anthèmes 1」は、メニューイン国際コンクールのために書かれた技巧的に難しい曲ですが、瞑想的であったり、急にアップテンポになったり、不規則なリズムになったりと、パッセージやテンポがコロコロと変わって、あたかもフランス語の詩や会話のように聞こえます。まるで誰かが何か言いたいことがあるのに、言いかけては途中でやめて、別の人が割って入ってくる、そんな風にせわしなく場面が変わって進んでいくようなイメージを膨らませてくれる作品です。

作曲家の込めた想いやメッセージが皆様に届きますように。

◎プロフィール

桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部卒業。ドイツ国立フォルクヴァング芸術大学演奏家修士課程を最優秀の成績で卒業後、現代音楽科(同大学修士課程)へと進む。石井志都子、Jacek Klimkiewicz, Günter Steinke, Hannah Weirichの各氏に師事。第16回Luigi Nono国際コンクール第1位、第4回Maria Grazia Vivaldi国際コンクール第1位、第9回大阪国際音楽コンクール第2位。現在ドイツ拠点の現代音楽アンサンブルEnsemble CRUSHの一員としてソロ、アンサンブルで活躍中。http://ensemble-crush.com/

 

▼予選演奏曲
Salvatore SCIARRINO/Sei Capricci Per Violino(1976)
Adriana HÖLSZKY/Klangwaben-Signale für Violine Solo(1993)

競楽XII本選出場者紹介〜永野雅晴(打楽器)

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▼本選演奏曲
北爪 道夫 /サイド・バイ・サイド(1989)
Casey CARGELOSI/Tap Oratory(2015)

 

今回は《サイドバイサイド》と《Tap Oratory》という2曲を演奏させていただきます。

《サイドバイサイド》は音符の長さの違いを楽しむ曲です。もともと《打楽器とオーケストラのためのサイド・バイ・サイド 》という曲があり、そこからソロパーカッションの部分を抜き出したもので、使う楽器や反復回数などが細かく指定されておらず、そう行った意味でなかなか自由度の高い曲です。

《Tap Oratory》という曲は予め用意された電子音楽と小太鼓のための曲で、私史上初めてとなる機械との共演です! こちらの曲はどこを叩くか、どこで回すか、どこで取るかなど細かな指示がたくさんあり、小太鼓1台だけでも色々なことができるんだと、楽器の持つ可能性を再確認することの出来た曲でありました。

一方はお硬く、もう一方はチャラいです。楽しんでいただけたらと思います。

◎プロフィール

愛媛県出身。東京芸術大学卒。現在東京芸術大学修士2年。東京芸術大学卒業時に同声会賞受賞。その年の同声会新人演奏会に出演。Italy percussion competitionスネアドラム部門第2位。林英哲風雲の会としてヨーロッパツアーに参加。祝祭大劇場や楽友協会、またベルリンフィルハーモニーなど、12ヶ所でソリストとして和太鼓を演奏する。これまでに、中山航介、杉山智恵子、藤本隆文、安江佐和子、宮崎泰二郎、林英哲の各氏に師事。

 

▼予選演奏曲
Casey CANGELOSI/Meditation no.1(2011)