Web版 NEW COMPOSER Vol.7

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Vol.7  2017.3.28

 お待たせいたしました。Web版『NEW COMPOSER』第7号をお送りいたします。
第7号では〈現代の音楽展2017〉のレポートをお送りします。

2月1日、2日に開催されたアンデパンダン展の出品者によるレポート、3月3日に開催された第33回現音作曲新人賞の山本裕之審査委員長の講評、並びに作曲新人賞を受賞された池田彰さん、富樫賞を受賞された増田健太さんからメッセージです。
どうぞご覧下さい。

NEW COMPOSER編集室長 山内雅弘

—– C O N T E N T S —-

第33回現音作曲新人賞受賞の言葉〜伊藤 彰

第33回現音作曲新人賞受賞:伊藤 彰

この度は「第33回現音作曲新人賞」、併せて「聴衆賞」を受賞できましたこと、またこのような舞台で拙作が演奏されましたことを大変嬉しく思います。3日間のリハーサル、そして様々な作品を聴くことができた演奏会は、大変有意義な時間となりました。
素晴らしい演奏をして下さった指揮の松尾祐孝先生、二十絃箏の田村法子さん、ヴィオラの甲斐史子さん、ギターの山田岳さん。審査員長の山本裕之先生、審査員の新垣隆先生、福井とも子先生。そして練習場所を提供して下さった吉村七重先生。今回、素晴らしい演奏家、作曲家の皆さんとご一緒させて頂いたこと、多くの聴衆の皆さんと音楽を共有できたことは何事にも代え難い貴重な経験となりました。この場をお借りして、改めて深く感謝申し上げます。
受賞作となった《好奇心ドリブン》(2016)は、構想から含めると作曲に非常に長い時間を費やしており、独奏ギター、二十絃箏、ハープ、弦楽三重奏のために書いた拙作《In transparent labyrinth(透明な迷宮の中で)》(2014-15)に基づいていますが、今作では各楽器により明確な役割を持たせることで再構成しました。この作品は、書き上げるまで多くの作曲家の先生方、多くの友人にアイデアの成熟を手伝って頂きました。今回の現音作曲新人賞の募集テーマは「撥弦邦楽器」ということで、私は「3つの異なる弦楽器」による「音色」の違いを聴かせることを創作のテーマとして作曲しました。結果的に邦楽器が持つ伝統とは、少し距離を置いたアプローチの仕方となったように思います。
自分の音楽語法を獲得することの難しさを日々痛感するばかりですが、創作を通じて出会う新たな音楽の発見、そして何よりも人との出会いや交流が私にとって作曲することの喜びです。この貴重な経験を糧に、今後もより一層の精進を重ねたいと思います。

 

▼第33回現音作曲新人賞審査結果はこちら

2016年度富樫賞受賞の言葉〜増田建太

2016年度富樫賞受賞:増田建太

第33回現音作曲新人賞にて富樫賞を受賞いたしました、増田建太と申します。この度は名誉ある賞をいただき、重く受け止めております。拙作は、十三絃箏とクラリネットのための《樹に窓を見る》でした。

私事ですが、2月に短期的にヨーロッパに赴いて現地の現代音楽に深く触れていました。そして帰国直後から当本選会の打ち合わせが始まり、関西在住の私は本選まで東京に滞在しておりました。西洋の伝統の世界から打って変わって、邦楽の伝統の世界を垣間見る日々となり本当に新鮮な時間でした。そんなまだまだ未熟な私が奨励の意味が込められた富樫賞という評価を頂けたのは、恐れ多いことです。

富樫敏子さんから賞状と副賞を授与

作品に関しては沢山の学びと反省、そして発見がありました。拙作演奏者である吉原佐知子さんと岩瀬龍太さん、そして審査員の方々、故・富樫康さんの奥様である富樫敏子様、ご来場の皆様、日本現代音楽協会の皆様との出会いとやり取りを通して、多くのことを学べたように思います。作曲は孤独な行為であるというイメージを強く持たれがちですが、実際は外部との関わりや影響の賜物でもあると思います。そういった意味でも、今回の機会はまた一つ、自分の人生においてかけがえのないものであったと感じました。

また、このような場では私という作曲者ばかりを語ることになってしまいがちですが、演奏者のお二方には本当に多大なご努力をいただき、それがあって初めてこのような評価をいただけたことを申しておきたいと思います。

今回の演奏会「邦楽・絃楽プロジェクト」では、前半の新人賞入選作品とともに、後半の日本現代音楽協会の会員による邦楽作品も聴くことができたのが興味深い体験でした。言うならば、ある意味での新世代邦人作曲家による邦楽に対するアプローチと、中堅以降の世代の作曲家によるアプローチという、年代を超えた多様性を確認できたように思います。

特に面白いと思ったのは、伝統文化的成熟度という点で、演奏会後半の諸作品から学べることが数え切れないほどあったということです(もちろん、入選の4作品と会員作品の間に優劣があったという話ではないことを断っておきます)。私はこの瞬間に、初めて日本人のオリジナリティ、あるいはアイデンティティの堂々たる手がかりに触れたような気がします。

自分自身と環境との関わりが生み出す可能性において、私がいかに無知で、空白のスペースが自分の中にまだあるのかということを実感いたしました。しかしまた、今回の”新しい”新人賞入選作品に関しては、やはり若い私にはある種の強い共感を持つことができ、その共感性はおそらく新しいこの時代が生み出している文化の片鱗なのでしょう。

最後に・・・
今日まで続けられてきた審査員奨励賞である「富樫賞」は、驚いたことに今回で終了ということだそうです。最後の富樫賞をいただけたことを誇りに思い、またその評価に託された多くの方々の思いに応えられるように、今後も頑張っていきたいと思います。

皆様の心温かい応援に深く感謝いたします。
まだまだ至らない私ですが、また今後ともどうか宜しくお願い致します。

 

▼第33回現音作曲新人賞審査結果はこちら

リゲティ&北爪道夫作品を基に“音楽づくり”を楽しもう!参加レポート

西村 薫(クラリネット/現代音楽演奏コンクール“競楽XII”ファイナリスト

 
味府美香さんによる「現音・音楽づくりワークショップ2017 vol.4」に参加いたしました。

まず、私がこちらのワークショップへ参加に至るキッカケは、インターネットで偶然こちらの催しを見かけ、自分の母校の大学でこんな興味深いことを(しかも参加料無料で!)と思い、すぐさま参加申し込みを決意しました。
また、テーマがリゲティ&北爪道夫作品を基に“音楽づくり”を楽しもう!ということで、一見すると難しそうな内容なのですが、参加対象が音楽的な技術の有無を問わないとあるので、どのような内容で行われるのかということにも興味がありました。

実際に参加してみると、まず初めにテンポやリズムなどのズレに重点をおいた幾つかの簡単なエクササイズ(各々が手拍子でタイミングをズラすもの、各々がカスタネットを用いて拍子をズラすもの等)が行われました。ただ単にズラす作業だけが目的ではなく、そのズレによってどのような響きとなっているのか「聴くこと」も大事にされていました。ズレ合った音同士の奏でる響きにはある種の一体感のようなものを感じることが出来ました。
このズレにより生じた一体感を聴き、感じることは演奏する際にも大事な事で、今後の演奏に活かしたいと思いました。

グループに分かれて音楽をつくり作品を発表

ワークショップの後半では5つのグループに分かれて、前半のエクササイズを元にズレをテーマにした作品を各々の楽器を用いて作成し発表しました。それぞれのグループに個性が有り、それぞれ異なる作品が完成して面白かったです。

ワークショップの最後には北爪道夫先生の《サイド・バイ・サイド》を打楽器学生の石田湧次さんによって演奏されました。この作品は2連と3連のリズムのズレを用いた作品で、石田さんの演奏はその意図がとても良く表現されていて、とても素晴らしかったです。

音楽づくりワークショップには今回初めて参加させていただきましたが、参考になることが沢山あり、次回以降も是非参加したいと思いました。

ワークショップリーダーの味府美香(左)と《サイド・バイ・サイド》について語る北爪道夫(右)

第33回現音作曲新人賞に伊藤彰さん

前列左から、原島拓也(入選)、池田萠(入選)、増田建太(富樫賞)、伊藤彰(第33回現音作曲新人賞・聴衆賞)。後列左より、佐藤昌弘日本現代音楽協会事務局長、福井とも子審査員、新垣隆審査員、富樫敏子さん、山本裕之審査員長、福士則夫日本現代音楽協会会長。

 

審査結果の発表をする山本裕之審査員長

日本現代音楽協会(会長:福士則夫)は、2017年3月3日(金)18:00より、渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホールに於いて〈現代の音楽展2017〉「第33回現音作曲新人賞本選会」(審査員長:山本裕之、審査員:新垣隆、福井とも子)を開催し、譜面審査会において入選した4作品の演奏審査を行いました。
厳正な審査の結果、伊藤彰(いとう・あきら/1991年福岡県生まれ)さんの《好奇心ドリブン》が2016年度「第33回現音作曲新人賞」に選ばれました。
演奏、審査に続いて表彰式が行なわれ、福士則夫日本現代音楽協会会長より、賞状と賞金15万円が授与されました。
「富樫賞」は増田建太(ますだ・けんた)さんの《樹に窓を見る》が選ばれました(賞金10万円)。
また聴衆賞には伊藤彰さんの同作品が選ばれました。
なお、来年度の「第34回現音作曲新人賞」は、南聡日本現代音楽協会理事が審査員長を務め、募集要項は後日当協会ウェブサイトで発表します。

 

「富樫賞」…審査員が今後に期待する新人に贈る審査員特別賞。2005年度、音楽評論家であり、日本現代音楽協会賛助会員でもあった故・富樫康さんの業績を讃え、ご遺族の篤志により日本現代音楽協会が設立しました。2016年度をもって終了。

 

※応募総数18作。一次審査:2016年11月25日(金)17時〜

 

伊藤彰(左)福士則夫日本現代音楽協会会長

第33回現音作曲新人賞本選会結果
2017年3月3日[金]18:00開演 渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホール

■第33回現音作曲新人賞
賞状、賞金15万円、現音入会資格の認定
伊藤 彰(Akira ITO)
《好奇心ドリブン》
演奏:田村法子(二十絃箏) 山田岳(ギター) 甲斐史子(ヴィオラ)

■富樫賞(賞状、賞金10万円)
増田 建太(Kenta MASUDA)
《樹に窓を見る》
演奏:吉原佐知子(十三絃箏) 岩瀬龍太(クラリネット)

■入選(表彰状)
池田 萠(Moe IKEDA)
《硝子妄想(と、その解決)》
原島 拓也(Takuya HARASHIMA)
《極彩ドロップ No.2》

■聴衆賞(賞状)
伊藤 彰(Akira ITO)
《好奇心ドリブン》

※入選者は本選演奏順に記載してあります。全作新作初演。