私にとって作曲をすることとは、自分の足を運んで見てきた風景を地図にすることに似ています。それは風景に合わせて地図を描こうとはするが、描かれた地図によってその風景にも変形が起きてしまうことと同じのようです。聴こえてくる音を譜面に書いても、書かれた音は記号であって音ではありません。長い歴史を持っている西洋音楽が「長さと高さ」という音のイデアを作り、譜面で持って音に形を与えようとすれば、私は譜面には書くことのできない音というものを想像し、それを何度でも別の音符で写そうと思いました。そして想像した音と書かれた音の差を把握するために何度でも繰り返して聴こうと思いました。
今回の作品は、その繰り返して聴く行為によって生じる「時間感覚」そのものを作品として具体化することの試みであります。具体化することによって生まれるマテリアルの意味は、マテリアル同士の関係によって生まれるものではありますが、その関係というものも「時間感覚」によって強くなったり、薄くなったりと著しく変わっていきます。だから響きの連なりを聴いている自分の中にも響きに対して集中する自分、忘却する自分、退屈する自分がいます。そして私はこの感覚こそが、この音楽を私の作品だといえるリアリティーを与えているようにも思います。そういった意味でこの作品は私の「時間感覚」の一部を示しているようでもあります。
では「時間感覚」はどのように私の中で形成されたものでしょうか。その感覚は個人的なものだと考えることもできますが、今回はコンクールのテーマでもある「地域性」も含めて考えてみることにしました。それが今回の作品のタイトルである「Unknownst-to」です。言葉の意味は「知らぬ間に少しづつ・・・」ですが、一見この言葉は個人的な意識の流れを感じさせますが、その意識の背後にある別の時間軸の存在も喚起させます。例えば秋の季節、いつの間にか地面に枯れ葉が積もる時間、自分の意識が至っていないところで少しづつ変わっていた風景を見た時「あ!枯葉が知らぬ間に少しづつ積もっていたね」と感じるでしょう。この例をみるだけだとやはり個人的な意識として感じますが、この「時間感覚」を韓国語では시나브로(シナブロ)という言葉で表すことが出来、この言葉は外来語ではない純粋な韓国語らしいです。言語で表せる「時間感覚」には、私自身も感じ取るローカリティがあるのかもしれません。では音楽で聴かせる「時間感覚」とは如何なるものでしょうか。その試みを本選会に是非聴きにいらして、体験していただきたいと思います。
〈現音・秋の音楽展2017〉
第34回現音作曲新人賞本選会
テーマ:地域性と現代性のあらたな交差の可能性
2017年11月17日(金)18:00開場/18:30開演|東京オペラシティリサイタルホール
(1) 青島佳祐/弦楽三重奏の為に(作曲2017年初演)
(2) 丹羽菜月/満たしの“ ”、繋ぎの“ ”(作曲2017年初演)
(3) キム・ヨハン/Unbeknownst – to(作曲2017年初演)
(4) 久保哲朗/Relativity by M.C.Escher(作曲2017年初演)
(5) 萩原晴子/Liquid(作曲2017年初演)
演奏:
多久潤一朗(フルート)(2) 間部令子(フルート)(5) 鈴木生子(クラリネット)(3)(4)
安田結衣子(ピアノ)(2)(4) 小倉美春(ピアノ)(5) 佐原敦子(ヴァイオリン)(1)(3)(4)
阿部哲(ヴィオラ)(1)(3)(5) 豊田庄吾(チェロ)(1)(2)(3)(4) 松川智哉(指揮)(4) 石川星太郎(指揮)(5)
▼第二部:日本現代音楽協会会員作品上演
(6) 南 聡/2つの余禄の心得(作曲2005/06年)
(7) 斉木由美/歓/JOY~ピアノのための(作曲2014年)
(8) 久留智之/人と樹と(作曲2011年)
(9) 久留智之/オーム貝の歌 (作曲1988年初演)
演奏:
井上ハルカ(サックス)(6) 小倉美春(ピアノ)(6)(7) 古川玄一郎(マリンバ)(8)
中山加琳(ヴァイオリン)(9) 鈴木真希子(ハープ)(9)
▼講評・結果発表・表彰式 20:45頃〜
審査員:南聡(審査員長)、斉木由美、久留智之
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮下さい。演奏順は変更となる場合があります。
チケット:全自由席 一般2,000円 学生1,000円
東京オペラシティチケットセンター インターネット予約 電話:03-5353-9999
日本現代音楽協会 電話:03-3446-3506 aki2017(a)jscm.net www.jscm.net
主催・お問合せ:日本現代音楽協会(国際現代音楽協会日本支部)
TEL: 03-3446-3506 E-Mail: aki2017(a)jscm.net
助成:一般社団法人私的録音補償金管理協会 一般社団法人日本音楽著作権協会
後援:一般社団法人日本作曲家協議会 一般社団法人日本音楽作家団体協議会