日本音楽コンクール委員会への文書送付について

日本現代音楽協会は、2018年10月30日付で、日本音楽コンクール委員会に対し「日本音楽コンクール作曲部門の審査会に係る変更について弊協会の要望と質問への再回答のお願い」を送付しましたが、回答が得られませんでしたので、2019年5月26日付けで、日本音楽コンクール委員会に対し、以下の文書を送付いたしました。

 


 

2019年5月26日

日本音楽コンクール委員会 御中

特定非営利活動法人
日本現代音楽協会
理事長 近藤 讓

抗議文

昨年度からの貴コンクールにおける作曲部門の実質的な縮小に関して、本協会は昨年5月5日付で、貴委員会に質問と要望を差し上げましたことは、ご承知の通りです。それに対して、半年近く後の10月30日に、ようやく貴コンクール事務局からご回答をいただきました。
しかし、ご回答の内容は、当方が提示した貴コンクール作曲部門の諸変更の理由についての疑問に関しては何一つとして答えておらず、実質的に回答拒否と受け取らざるを得ないものでした。それを受けて、本協会から再度、11月26日付で再回答のお願いを差し上げましたが、その後現在に至るまで、貴委員会からは何の回答もいただいておりません。
10月30日付の貴事務局からのご回答には、貴コンクールが「音楽文化の向上に寄与することを目的として」いることをコンクール規約から引用したうえで、「今回の作曲部門の審査・選出方法の変更もこの趣旨に沿うものであり、詳細についてはご指摘の毎日新聞紙面[2018年3月6日東京版夕刊掲載の梅津時比古氏による署名記事]でお伝えしたことがすべてです」とありました。本協会からの要望と質問は、作曲部門の審査・選出方法の変更(特に、本選における演奏審査の廃止)が、コンクールの教育的意義を大きく損なうものであり、それが、貴コンクールが目的として謳う「音楽文化の向上」をむしろ妨げることになることを指摘して、善処を求めたものです。そして更に、その変更に関して、毎日新聞紙面で梅津時比古氏が述べられた理由説明が、まったく非論理的なものであることを指摘し、納得できる理由をお示し下さるようにお願いいたしましたが、それらのいずれにつきましても、きちんとしたご回答をいただくことができないまま現在に至っております。
昨年度からのコンクール作曲部門の審査・選出方法の変更は、実質的に、作曲部門の縮小を意味しています。そのことは、本選演奏会の取り止め、そして、審査委員の人数の大幅削減からも明らかです。しかもそうした縮小は、コンクールの他の部門においては行われず、作曲部門だけを対象としたものでした。もしそうした変更が、公に示し得る論理的な理由もなしに実施されたとすれば、それは、単に「音楽文化の向上に寄与する」という目的を裏切るものであるばかりか、作曲部門の軽視、ひいては、作曲というものに対する差別であると言わざるを得ません。
当然のことながら、音楽コンクールという公的事業を実施しておられる機関には、その事業に関して、公的な説明責任があります。ましてや、貴コンクールは、毎日新聞と日本放送協会という、日本のジャーナリズムを代表する組織の主催で行われています。公的責任の重要性を深く認識しておいでであるはずのジャーナリズムが主催する事業において、説明責任を果たせない事態が生じているとすれば、それは社会的に由々しき事態です。
本協会の真摯な要望と質問に対して、貴委員会は、これまでひたすら沈黙を守ってきました。10月30日付のご回答も、コンクールの運営組織である委員会からではなく、事務局から、謂わば、代理回答の形で為されたものでした。当方の要望から半年近くも経てからようやく為されたその回答に於いても、コンクール運営に責任をお持ちの委員会及びその代表者である委員長は、責任ある立場から回答することを避け、そして更に、当方からの再回答のお願いについては、再び半年近くを経た現在まで、無視する姿勢を貫いておいでです。こうした姿勢は、極めて無責任であり、糾弾されてしかるべきものです。
本協会は、日本における主要な作曲家団体の一つであり、「音楽文化の向上」を共に願い、それを目指して活動を展開しております。そうした団体からの真摯な要望と質問を単に無視して、説明責任を果たさず、いたずらに時間を費やすことによって問題を曖昧なまま風化させて片付けようとする貴委員会の姿勢には、強い憤りを感じざるを得ません。
貴委員会は、主催者である毎日新聞社及び日本放送協会の知見豊かな社員と、日本を代表する優れた音楽家の諸賢によって構成されていると理解しておりますが、それらの方々が、敢えて作曲に対して、理由を公に説明することもできないような不当な差別と軽視を支持なさり、実行して、それによって「音楽文化の向上」が図られるとお考えになられたことは誠に遺憾であり、本協会としてはここに強く抗議するものです。

日本現代音楽協会2019年度事業予定

日本現代音楽協会2019年度事業予定

事業部長:佐藤昌弘

日本現代音楽協会ではこれまで、年度内に〈現音・秋の音楽展〉〈現代の音楽展〉という2シーズンの演奏会シリーズを開催してまいりましたが、2019年度より〈現音 Music of Our Time〉と銘打ち、一つの音楽祭として数公演を集中開催することとなりました。

■現音 Music of Our Time 2019(全7公演)
[1]フォーラム・コンサート第1夜 2019年11月28日(木)
[2]フォーラム・コンサート第2夜 2019年11月29日(金)
[3]現音・音楽づくりワークショップVol.6 “声”のさまざまな可能性にチャレンジ!(仮)
2019年11月30日(土)
[4]公募リサイタル(1) 2019年12月3日(火)
[5]公募リサイタル(2) 2019年12月5日(木)
[6]公募リサイタル(3) 2019年12月9日(月)
[7]第36回現音作曲新人賞本選会 2019年12月18日(水)
【会場】[3]以外=東京オペラシティリサイタルホール/[3]東京音楽大学

二夜にわたる[1][2]「フォーラム・コンサート」は現音会員の自由出品をプログラムとする演奏会です。

[3]「現音・音楽づくりワークショップVol.6 ~“声”のさまざまな可能性にチャレンジ!」では、現代音楽の代表的な声楽作品と唱法についてのレクチャー・演奏と、“声”をテーマとした音楽づくりワークショップを実践します。

[4]〜[6]「公募リサイタル」は、現代音楽のレパートリーに積極的な演奏家を支援する新企画です。当協会主催公演にて自身のリサイタルを企画・出演する演奏家を広く募ります。詳しくは募集要項をご覧下さい。

[6]「第36回現音作曲新人賞本選会」は、当協会事務局長の渡辺俊哉会員が審査員長・プロデューサーを務めます。音楽における「新しさ」をテーマとし、演奏会の第1部では今、現在の新しさの表現として作曲コンクール「現音作曲新人賞」の入選作を、第2部では全く対照的な二人の作曲家 H.ラッヘンマンとM.フェルドマンの作品を取り上げ、新しさや価値観の多様性を提示するとともに、聴き手に音楽の“聴取の多様性”ということについて問いかけることを企図しています。

2019年度の当協会音楽祭〈現音 Music of Our Time 2019〉にどうぞご期待下さい。

 

 

※企画内容は2018年12月現在のものであり、変更となる場合があります。

特定非営利活動法人日本現代音楽協会(国際現代音楽協会日本支部)

日本現代音楽協会は、2019年4月4日(木)に特定非営利活動法人となりました。
これに伴い「会長」が「理事長」、「副会長」が「副理事長」、「会計監査役」が「監事」となりました。
役員、会員一覧はこちらをご覧ください。

 

特定非営利活動法人日本現代音楽協会(国際現代音楽協会日本支部)

▼住所
〒141-0031
東京都品川区西五反田7-19-6-2F

▼電話番号
03-6417-0393

▼FAX番号
03-6417-0394

開局時間:月〜金10〜17時(祝祭日除く)

卑弥呼とホームズのヴァイオリン事件簿〜第20回「松下功先生と卑弥呼」

「君が原田さんか! 僕の曲を弾いてくれるんだってね」

2012年のことです。銀杏の葉が色づき始める頃、大学1年生のわたしは入学祝いに買ってもらったステンカラーコートを着てヴァイオリンを背負い、1冊の楽譜を手に大学の中で初めての場所に向かっていました。校舎が改装工事中で、講義用の部屋に仮設された“演奏藝術センター”の扉を開け、恐る恐るお尋ねしたのはとある作曲家。その冬に出るコンクールで弾く曲を作曲をした人にお話を聞きにいこうと思い訪ねたのでした。

これが、昨秋に急逝された東京藝大副学長の松下功先生とわたしとの出会いです。このとき抱えていた楽譜はその年の12月に、代々木上原のけやきホールにて5つの譜面台の上に並べられました。これはわたしが審査委員特別奨励賞をいただいた「現代音楽演奏コンクール“競楽”」の本選で弾いた曲《マントラ》の譜面であります。

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第35回現音作曲新人賞受賞の言葉〜波立裕矢

第35回現音作曲新人賞受賞:波立裕矢

表彰状を授与される波立裕矢さん(左)と、プレゼンターの森垣桂一日本現代音楽協会副会長(右)。

この度は、拙作が日本屈指の現代音楽プラットフォームであるアンサンブル・コンテンポラリーαの演奏家の皆様によって、非常に熱心な取り組みのもと初演の日の目を浴びることができたこと、そしてその結果としてこのような賞を頂けたことを本当に嬉しく思います。先達の皆様は、日頃から尊敬する憧れの先輩ばかりで、その末席を汚すことになり、大変身の引き締まる思いです。
今回本選会でご一緒させていただいた皆様も、それぞれ独自のスタイルを持ち、したたかに作曲活動を続けるひときわ意思の強い方々でした。会話する時間こそあまりなかったものの、作品から大いに勉強させていただきました。中には近年国際作曲賞で躍進を続ける中国の方もおり、国際的な情報交換も含め、有益な会話を交わすこともできました。

このような素晴らしい企画の一方で、作曲家として、様々な出来事が象徴する現代音楽界の経済的な衰退について憂慮の念を抱かずにはいられぬところです。
経済的な安定性は、芸術を評価する第一次的な指標でないことはごく当然であるとしても、やはりその活動規模に影響しないとまでは考えることができません。今回の受賞で油断するなということを、本当にたくさんの人から真摯にご指摘いただきました。それは私への教育的忠告としてのみならず、この世界の厳しい状況の宣告としても受け取れるものでした。
この状況を現実的にどう打開するか、現段階でのはっきりとした策は打ち立てられていないというのが正直なところです。しかし、今自然にふつふつと湧いてくる作曲への意欲は、私にとって現代音楽の終焉はまだ訪れていないことを意味しており、それが失われぬ限り、私は生涯つづくであろう関心対象として、西洋音楽のマイルストーンとのささやかな対話を愚直に続けていくつもりです。

また、最後にはなりますが、ここまで私が成長できたのは、高校3年次に作曲を始めてからというもの、私を支えてくれた方々のおかげに他ありません。特に本年度、私を取り巻く環境が大きく変化する中、ある意味で途中参加的な入学となった私を暖かく歓迎してくれただけでなく、大きな刺激を与えてくれた藝大の皆様、卒業後も連絡を欠かさず関心を共有してくれる愛知県芸の皆様、また愛知から戻った私をあたたかく迎えてくれた地元の皆様には、本当に頭が上がりません。
未だうだつの上がらぬ私ですが、将来に向けさらなる努力で期待に応えたいと思っています。今後とも宜しくお願い致します。
これまでお世話になった愛ある先生方、女手一人で私を支えてくれた母、物心ついたときから一番長くの時間を共有している祖母、そして少年時代を共に過ごし、今まさに病に侵され先立とうとしている我が家の犬へのひとしおの感謝の意をもちまして、本文の結びとさせていただきます。

▼第35回現音作曲新人賞審査結果はこちら