福士則夫のチビテッラ日記〜第10回〜

●第10回「地獄の買い出し」

7月17日(木)、このところ買出しに出掛けるのがいつなのか全く情報がない。城での生活も1ケ月が過ぎ、慣れてきた連中は勝手気ままに車を借りて町のスーパーに行っているのであろう。城の4階にある小さなキッチンにはミルク、珈琲、紅茶、バター、シリアルなどが用意されていて勝手に使えるのであるが、パンやジャム、チーズなどは自分で調達しなければならない。散歩がてら町に買出しに行かないかとのセルジオから声がかかる。他の二人といえば運動が欠かせない巨大な胴回りのジェシカとコーラが手放せないチカ。

ジェシカとチカに支えられて

ジェシカとチカに支えられて

ウンブリアの丘を一望しながら城から一気に下りる往きの道はセルジオが絶賛するだけのことはある景観なのだが、トウモロコシ畑を過ぎ、ひまわり畑近くのアップダウンを繰り返すうちに陽射しの強さにだんだんと不安になる。これで帰りはどうなるのか想像がつかぬまま45分ほど歩いてCOOPスーパーにたどり着く。涼しい店内に入ると帰りのことはすっかり忘れてパンにヨーグルトにチョコレートにプリンにビスケットを袋に詰め込み出発。因みにスーパーの袋は有料で皆ポケットに予めビニール袋を突っ込んでジャワジャワいわせている。店を出ればすぐだらだらと道は上り始めるのだが、歩道の照り返しがきつい。アスファルト道に街路樹はあるが、畑道に入ると木陰はなし。途中で3人ずつ撮ったデジ写真を見ると、地獄を見てしまったたような、こわばった顔のサングラス男がジェシカとチカのこぼれるような作り笑い顔の真ん中で二人に支えられている。二度と見たくない代物である。

結局皆に置いていかれて、ほんの小さな灌木の木陰を見つけては休憩しつつ疲労困憊して城に近づくが、城の外側の塀が見えても、ここからがまた一苦労なのである。防衛上のためもあるだろうが城への道は突然勾配がきつく作られている。本当に死ぬ思いで一歩一歩前進しながら帰りは一時間以上かかったろうか。まずは冷蔵庫に品物を放り込むがチョコレートが薄く広がってグンニャリ融けていた。これが再び固まるとどういう形になるのだろうか想像すると恐ろしい。シャワーを浴びてしばらく身体の回復を待つ事にする。

今日のプレゼンテーションはデーヴィッド通称デーヴィーのピアノエチュード作品とピアノコンツェルト。いつもTシャツの彼が此処に来て以来始めて見るネクタイ姿と作品の内容が共に大真面目だったのは全く予想外の出来事だった。18日はノルチアに小旅行。四方を山に囲まれた盆地の小さな町で、シーズンにはスキーやトレッキングでにぎわう町らしい。いたる所に猪の首や猪そのものが看板になっていて猪のサラミや珍しいチーズが置いてある店が立ち並ぶ。参加者は皆名物品をそれぞれ土産に買っていたが、獣特有の臭い匂いがたまらずここは見物だけで済ます。

デーヴィがネクタイを!

デーヴィがネクタイを!

ウォーッ本物

ウォーッ本物

ノルチアのMonti Sibillini国立公園

ノルチアのMonti Sibillini国立公園

2,000メートル級の裸山を見ながらレストランでミルクソース味のノルチアパスタを食べたが味が曖昧で名物に旨いものなしのお手本、城のオリーブで味付けたパスタのほうがよほど美味い。20日には此処に来て書き始めた女声合唱がようやく終了。ディエゴに聞いて伊訳したタイトルは「BREZZA D’UMBRIA」に決定する。

★次回第11回「カップルのガイド現れる」予告

22日(火)の遠足は城から最も近い街ペルージャに向けて出発。この日と24日にトスカナ地方へ行く旅行のガイドに何故かイタリア人の男女のカップルが雇われてわれわれに同行する。以前ペルージャで活躍していた中田英寿が駆け回ったサッカー場の広い駐車場に車を置き、中心街には自動で運行されているミニモノレールで小高い丘を登っていく…

更新は10月12日(水)です。お楽しみに!

深澤舞*ボストン便り (6)

★『現音ブログ』で連載してきた「深澤舞*ボストン便り」をこちらに引っ越して連載致します!

ご無沙汰しております。

昨年末に寄稿させて以来、春が訪れ夏になり、そして秋!この夏アメリカでは、ほとんど地震が起こらないと言われている東海岸で93年ぶりの大きな地震が起こり、大型ハリケーンで避難勧告が出され(それでもカテゴリーは1、カテゴリー最大5を記録した2005年のカトリーナはどれほど大きかったのでしょうか・・!)、西海岸広域でも大きな停電が起こりました。そして日本の東日本大震災、原発と放射能・・今も、直撃し終えたばかりの台風のニュースを見ながら画面に向かっています。今年は改めて、様々なことを問い直すきっかけを自然から与えられていることを実感いたします。どうか皆さまがご無事でありますように・・

蓄えの準備を始めるリスたち

こちら、ボストンは秋雨が続いて少しずつ冷え込み始め、リスも蓄えの準備を始めて駆けまわっています。私は初夏に息子を出産いたしまして、新しい驚きと発見を与えてもらう毎日です。4ヶ月になった息子の目の前でピアノを弾いたり、音楽をかけたりすると、じっと聴き入ったり、一緒に歌うようにして大きな声を出すようになりました。しばらくは音楽会のレポートなどさせて頂けないのですが、昨年末まで通っていたバークリー音楽院で、興味深かった授業内容や音楽院のカリキュラムなど、また次回書かせて頂けたらと思っております。

どうぞ皆さま、よい秋の季節をお迎えくださいませ。

(2011.9.22.)

福士則夫のチビテッラ日記〜第9回〜

●第9回「いよいよ出番」

15日(火)、運命のプレゼンテーション当日、ディエゴがウンブリチッドの駅まで通訳の藤谷奈穂美さんを迎えに行くので車に同乗する。13:38到着の一両編成の電車はイタリアにしては珍しくオンタイムで到着。彼女は城の近くのペンションをインターネット予約したそうで興味がてらそこまで付き合うが、ウンブリアの丘を一望する素晴らしい眺めではあるものの、この田舎にして100ユーロはプール付きでもチト高い。普段はプレゼンテーション直前に会場に滑り込むのだが今日はTシャツを脱いで早めに会場へ入る。

 

今回の滞在中最も緊張した1時間

今回の滞在中最も緊張した1時間

今日の本番に備え事前にジェシカに英文原稿の発音をチェックしてもらい、鏡の前でも練習したのだが聴衆という相手が居るとすんなり口が動かず、英語力の貧しさをつくづく痛感する。CDで音を流している間に呼吸を整え、次の原稿に目を通し、本番がまずは順調に終わったという感触を得たのであったが、その後の時間が実はいつもと様子が違った。普段行われるプレゼンテーションは英語による2、3の質問の受け答えが有るだけで型どおりに終わるのだが、この日は英語の質問がイタリア語に訳されてディエゴから通訳の藤谷さんに行き、私と日本語で受け答えをしている間に、質問に対して横からフランス語が入りで英・日・伊・仏の4ヶ国語が乱れ始める。笙と能管とオーケストラの作品「時の橋」がホラー映画の音楽みたいとの発言に対してイタリアの絵描きサンドラが「始めてこういう現代音楽を聴くからだ」とややヒステリックに声高にしゃべりはじめ(藤谷さんが後でそう話してくれたのだが)芸術とは何か、から現代とは、に至るまでもう混乱のほかない状態で終わる。最後は事の成り行きをただ呆然と見ているだけの状況で、参加できない自分としては不本意だったがとにかく唯一の義務からは解放されたわけである。

 

ようやく終了

ようやく終了

スカGは速いよネ!

スカGは速いよネ!

夕食は打って変わって藤谷さんも交えて珍しく遅い時間まで皆と談笑するが、地元のワインはもちろん、蒸留した辛めのグラッパが殊のほか旨かった。こちらに来て最初の自己紹介のような短いプレゼンテーションの時、「クラッピングリズム」が好評だったので、シリアスな作品の代わりにクラッピングリズムを下敷きにしたノマド版「ケス・キス・パス」にすれば映像も見られて楽しかったかもしれないなと思いつつ、なかなか寝付けないまま一日が終わる。

★次回第10回「地獄の買い出し」予告

7月17日(木)、このところ買出しに出掛けるのがいつなのか全く情報がない。城での生活も1ケ月が過ぎ、慣れてきた連中は勝手気ままに車を借りて町のスーパーに行っているのであろう。城の4階にある小さなキッチンにはミルク、珈琲、紅茶、バター、シリアルなどが用意されていて勝手に使えるのであるが、パンやジャム、チーズなどは自分で調達しなければならない…

更新は10月5日(水)です。お楽しみに!

2011年度国際交流基金賞受賞記念コンサート

打楽器合奏の雄、メキシコの打楽器アンサンブル=タンブッコが、このほど国際交流基金賞を受賞することになり、急遽来日が決定、受賞記念コンサートが来る10月8日(金)に開催されます。

2005年<セルバンティーノ国際芸術祭>委嘱作品で、タンブッコがメキシコで初演した作品、松尾祐孝<SOUND SOUND IV>や、三木稔<マリンバ・スピリチュアル>の他、様々な国や分野の
作品がプログラミングされています。

<ISCM世界音楽の日々1993メキシコ大会>での鮮烈な演奏以来、世界的に注目され、アメリカのグラミー賞にも何度もノミネートされているTAMBUCOの演奏に、期待が高まります。

チラシはこちら

▼2011年度 国際交流基金賞受賞記念コンサート
~TAMBUCO PERCUSSION ENSEMBLE~

10月7日(金)19:00開演
トッパンホール

●曲目
松尾祐孝/<SOUND SOUND IV>~尺八、二十絃箏、打楽器の為に~
(2005/セルバンティーノ国際芸術祭委嘱作品日本初演)
三木稔/マリンバ・スピリチュアル(1983-84)他

出演:Tambuco Percussion Ensemble
リカルド・カシャルド アルフレッド・フリンカス
ミゲル・ゴンザレス ラウル・トゥドン
共演:三橋貴風(尺八) 吉村七重(二十絃箏)

◎全自由席2500円(学生1500円)

トッパンホールチケットセンター
TEL 03-5840-2222
http://www.toppanhall.com

e+(イープラス)
http://eplus.jp

福士則夫のチビテッラ日記〜第8回〜

●第8回「陶器の町デルータと城壁の町モントーネ」

7月11日(金)、今日は朝9時に出発し、わが町ウンブリッチッドからそれほど遠くない陶器の町デルータに遠足。途中SANTUARIO教会に寄る。ジェシカの説明によると16、7世紀、人が事故や若くして亡くなった折、そのことを陶板に描いて教会に奉納し祈る伝統があるとか。壁、柱一面に当時の陶板がそのままじかに貼り付けてあるのだが、1900年代に入ると交通事故の絵など、かなり生々しい描写になる。

いたる所に貼り付けられた陶版画

いたる所に貼り付けられた陶版画

絵付けの前の鶏型のピッチャー

絵付け前の鶏型のピッチャー

ここから5分もかからぬデルータの街に入ると、何処を見回しても陶器の店しかない。毎晩われわれの食卓の上におかれる鶏型のピッチャーはデルータ産だそうで、ほとんどの連中が買ってはお互いの品物を見せ合っていた。今日の遠足は午前中の早い時間に設定されていて、昼食は城でというスケジュールだったので途中ウンブリチッドのスーパーを横目に見るだけで車は城へ。食物に関して敏感に反応する三人の作曲家は示し合わせて夕方ベスの運転で、あらためてスーパーへ買出しに行く。

今回の滞在中最も緊張した1時間

一つ一つ手書きをしている職人は若い女の人が多い

12日夕食後に隣町モントーネで行われている映画が話題になり車でドライヴ。此処も古い歴史を城砦の壁が物語っていて何層にも色が変わって積み重なっているのは幾多の戦いがあった事を示しているのだろうか。この、さほど大きくもない町のごく小さな広場で行われる野外映写会にピーター・ロードが来て彼の短いアニメを6本楽しんだが、その後に見たアフガンの少女の映画は辛かった。アフガン社会における女性の位置と貧困とテロ抗争を子供の視線で表現しているのだが、これがまだ今も現実なのが重い。いつも明るくて身体の大きなジェシカも沈んでいた。

13日は待ちに待ったメールがようやく復旧したのは幸いだが160通以上の着信メールをチェックする事になり、浮世離れした世界に溶け込んでしまっている自分を思い知らされる。

★次回第9回「いよいよ出番」予告

15日(火)、運命のプレゼンテーション当日、ディエゴがウンブリチッドの駅まで通訳の藤谷奈穂美さんを迎えに行くので車に同乗する。13:38到着の一両編成の電車はイタリアにしては珍しくオンタイムで到着。彼女は城の近くのペンションをインターネット予約したそうで興味がてらそこまで付き合うが、ウンブリアの丘を一望する素晴らしい眺めではあるものの、プール付き100ユーロはチト高いのではないだろうか?…

更新は9月28日(水)です。お楽しみに!