ファロス財団国際現代音楽祭レポート(後編) 〜会員:深澤倫子

[前編はこちら]
演奏会場にて〜深澤倫子会員

演奏会場にて〜深澤倫子会員

 

左より、スンジー・ホン、パナヨティス・ココラス、タズル・イザン・タジュディン、今堀拓也、深澤倫子

左より、スンジー・ホン、パナヨティス・ココラス、タズル・イザン・タジュディン、今堀拓也、深澤倫子

注目作品はまず、ロシアのドミトリ・コウリャンスキのヴォーカル・トリオのための新作Voice-offで、特殊奏法を駆使する彼の 作品らしく、声に限らず口腔の様々な音を取り入れていた。地元キプロスの音楽監督エヴィス・サムーティスはオノマトペと題した作品だが、オノマトペよりはシラブルの差異に重きを置いた作品。いずれにせよ言葉の意味を削いで発音の音響のみで構成した意欲作である。

他にもディミトリ・パパゲオルギュ、デメトリス・エコノムといったキプロスの作曲家の作品は、ドイツ風の(というよりラッヘンマン風の)特殊奏法を駆使した音響を重視する作品が目立った。対してその他の国々の作曲家はそこまでドイツ風ばかりに偏らず、例えば和音の構成の変化に着目した作品なども決して少なくはなかった。特に韓国のスンジー・ホンは大胆に調性音階を取り入れつつ、タイトルのBisbiglioという名の通りビスビリャンドを多用し、クリスタルのような透明感のある響きを作り出していた。また日本でも現音作曲新人賞や武満徹作曲賞、武生国際音楽祭ゲストなどですっかりおなじみの、マレーシアのタズル・イザン・タジュディンは全曲目の中でも特に異彩を放っており、ガムランにヒントを得たという実に独特な音楽であった。

左より、今堀拓也、メインゲストのジョシュア・ファインバーグ、音楽監督エヴィス・サムーティス

左より、今堀拓也、メインゲストのジョシュア・ファインバーグ、音楽監督エヴィス・サムーティス

今回のメインの招待作曲家はアメリカのジョシュア・ファインバーグで、微分音を駆使した難曲トリオは、単に彼の得意とするスペクトル音楽だけにとどまらない風格を感じさせるものだった。実は彼のレクチャーによるキプロスの若手作曲家のコンサートというのが2日目にあったのだが、その日だけは時差ボケがピークに達してとてもコンサートに行ける体力が余っておらず、聴きに行けなかったのが残念である。

今堀拓也の作品は、フルート、クラリネット、ピアノのトリオで、Moscow Contemporary Music Ensembleによる演奏。本人は満足した出来ということである。特殊奏法はわずかしか用いられていない代わりに微分音を多く取り入れており、題名のVines(蔓)という絡み合った感じが良く現れていた。ちなみに Vinesは蔓植物全体と言うよりはブドウの木という意味が強いらしく、キプロスではドルマというブドウの葉の挽肉包み焼きが名物だそうで、彼は皆とレストランに入っては、題名にちなんでしきりにドルマを勧められていた。もっともこの蔓というのは、私がこの夏いっしょうけんめい育てたベランダの朝顔からインスピレーションを得たのだそうだ。

最終日にはMoscow Contemporary Music Ensembleのディレクター、ヴィクトリア・コシュノヴァ女史によるレクチャーがあった。ロシアの現代音楽の現状を英語で説明し、主にドミトリ・コウ リャンスキとその周辺の若手作曲家の活動についての話だった。

私たちはその最終日の午後、エヴィスに連れられて海辺の街プロタラスで海水浴を楽しんだ。何よりも素晴らしいオーガナイザーでありインヴァイターであったエヴィスに心からの感謝を表したい。

左より、オーナーのガロ氏、料理人氏、音楽監督エヴィス・サムーティス、キプロスの作曲家アンドレアス・ツィアルタス。コンサート終了後バックヤードでパーティーが行われた

左より、オーナーのガロ氏、料理人氏、音楽監督エヴィス・サムーティス、キプロスの作曲家アンドレアス・ツィアルタス。コンサート終了後バックヤードでパーティーが行われた

「チビテッラ日記」に続くイタリア企画とは…

世界に開く窓〜古往今来

世界に開く窓〜古往今来

昨年、第27回現音作曲新人賞を受賞した山本哲也です。

早いもので受賞からあっという間に1年経ってしまいました。今年の募集は三重奏なので、編成も作風もバラエティーに富んだ演奏会になるのではないかと期待しています。どのような曲が出てくるのか、また審査員の先生方がどのような判断をなさるのか、一聴衆として非常に楽しみです。

さて、昨年の受賞作であるコントラバスとハープのための《誤謬》は、3月に開催されたイタリア・ミラノの現代音楽祭〈Festival 5 Giornate〉において招待作品として上演され、私も現地に行き、音楽祭に参加してきました。そのレポートは大変遅ればせながら近々現音のウェブサイトで数回に渡って連載させて頂く予定です。

それからもう一つ近況報告と致しまして、今週末30日(日)に大学の芸術祭において個展演奏会を開催します。今年7月に完成したばかりの新校舎を使用しての初めての個展、ぜひ多くの皆さまにお聴きいただきたく思っております。

 

山本哲也個展チラシ

山本哲也個展チラシ

▼山本哲也作曲作品個展
2011年10月30日(日)14:00開演
国立音楽大学新1号館合唱スタジオ
入場無料

【プログラム】
・チャラサックス for Saxophone Quartet (2009)
・スライドホイッスル三重奏曲 (2011)
・NTER-KINESIS for Violin and Piano (2010)
・罪と撥 for Snare Drum solo (2011)
・10.5の小品 for Violin and VIola (2011・初演)
・オーバーチュアークラリネット八重奏のための (2010)
・Silent Bird … Oct.10 for Contralto Clarinet solo (2009)
・Universal Study for Clarinet Sextet (2010)
・Degradations’ Study for Bass Clarinet and Piano (2010)
・Psychedelic Study for Clarinet solo (2011・初演)

詳細はこちらをご覧ください。

福士則夫のチビテッラ日記〜第13回最終回〜

●第13回最終回「さようなら」

テントの下、最後の晩餐

テントの下、最後の晩餐

ディレクターのダーナ、お世話になりました

ディレクターのダーナ、お世話になりました

7月25日(金)は卒業式。このセッションは60日間4期に分かれていて、4月に始まり10月末まで延べ毎年30人ほどの芸術家が招聘され我々は2期目に当たる。時期としては4期の中で最も良い季節かもしれない。城の鐘の音を合図にディレクターであるダーナの家の庭先で城のスタッフも全員参加するレセプションが始まる。

夕食後はスカラベオと呼ばれている3階の談話室で証書を受け取るのだがその後に3~5分のプレゼンがある。こんな話は佐藤聰明君から聞いていないが今年から始まった儀式なのだろうか。仕方がないので出来たての合唱作品の下書きを見せ、城をスケッチした絵を見せ、最後にデーヴィー直伝のなんでも顔に貼り付ける芸当で腕時計を使ってマジシャンもどきにオデコに貼り付けたらこれが受けた、何が幸いするかわからない。

26日はベスとデーヴィーの奥さんとクラリネット二重奏のミニコンサートがあり、夕食前の演奏を夕食後と聞きちがえて残念がったら、デーヴィーが動画で一部をメールしてくれた。夕食後、ダーラと奥さんの幸江さんを招待する。日本から持参したカキピーとサキイカはどちらもダーラが好物らしく、どんどん食べて無くなっていくのが気持ちよかった。結局は食べる機会のなかったチキンラーメン、サトウのレンジで温める米と、レトルトカレーのこくまろ、醤油、ソースを彼らにプレゼント。ダーラは日本食も車も大好きでもちろんスカイラインGTRも知っていたが、彼が現在住んでいるベルリンでは最低速度225キロの道路もあるとか。思わず聞き直したのであるがカード一枚で簡単に車が借りられるので今度一緒に走ろうという話しに食指が動く。近々沖縄でダーラのインスタレーションが行われるそうで日本での再会を約する。

ゲストのそれぞれが奥さんや旦那を迎えてパーティーで盛り上がった翌日は彼らとの別れである。この小さな町から続けて次の招待地に向かう猛者もいる。フランス語で度々話しかけてくれたジェシカも去り今日はジョーとの別れ。彼女の詩はエルトン・ジョンも歌っていてイギリスではかなり著名な詩人らしい。図書館員と思われる物知りの旦那共々避暑地に移動するとかで途中までディエゴの車に同乗し、駅で別れる時に自分のCDを記念に渡す。素敵な声で「鱒」を歌ってくれたジョー、さようなら。

ペルージャの町に戻り自分も1か月半前に降り立ったバス停にカミさんと長女を出迎える。別れと再会が重なる一日であった。城に戻る車窓は金色に輝き、ところどころに干し草が綺麗に丸くまかれて丘の斜面にポツポツと止まっている。明日もきっと天気に違いない。

暮れ行くチビテッラ城

暮れ行くチビテッラ城

★次回は編集後記を特別掲載!

全13回に亘る「福士則夫のチビテッラ日記」をご愛読下さりありがとうございました! 次回は特別企画として、執筆を終えた福士則夫会員による編集後記をお届けします。なんとイタリア滞在中に福士会員自ら描いた水彩画も登場!

更新は11月2日(水)です。お楽しみに!

震災義援音楽配信プロジェクト「ヒバリ」

hibari

日本国内のみならず世界各国の現代作曲家と連携して、東日本大震災の被災者のためにネット配信を利用した新しい形のチャリティー・プロジェクト「ヒバリ」を始められたmmm…(エムエムエム・スリードッツ)の演奏家メンバー3人にお話を伺ってきました。

mmm...

mmm…

現代音楽を専門とするユニットとして最近活躍目覚ましいmmm…については既にご存知の方も多いと思われますが、共に「競楽」の優勝者として朝日現代音楽賞の受賞者でもあり、日本現代音楽協会の様々な演奏会でもお馴染みのフルーティスト間部令子さんとピアニスト大須賀かおりさん、そして〈現音・特別音楽展2010〉での熱演が記憶に新しいヴァイオリニスト三瀬俊吾さんという演奏家3人に、カナダ出身で日本在住の作曲家ダリル・ゼミソンさんが加わって活動していらっしゃいます。mmm…の定期公演シリーズである「ともだちのわ」は、世界各地の現代作曲家が、友人の作曲家とその作品を国境を超えてリレーの様に紹介して行き、彼らからmmm…に届けられた作品については「どのようなな作品がきてもとにかく演奏する(三瀬さん・大須賀さん)」、つまりは主催者である演奏家がプログラムの選曲権を自ら放棄するユニークな企画として、大きな注目を集めています。

今回、震災被災者のためのチャリティとして考え出された「ヒバリ」プロジェクトは、震災直後より殆どの演奏会がキャンセルされ、演奏会場もその多くが閉鎖されて音楽界の日常が失われた状況の中で、「自分たちに一体何が出来るのか?」という問いの中から、ユニットのリーダーである間部さんが思いつかれたのだそうです。そしてそれは、前述の「ともだちのわ」というmmm…と世界中の作曲家の間に広がるネットワークを十二分に活用しつつ、その意図に賛同する国内外の100人の友人現代作曲家からそれぞれ3-4分程度の新作や未発表曲を提供してもらい、それらをmmm…が録音、ネット配信することによって義援金を募るというものでした。そしてその趣旨に賛同するジパング・プロダクツが録音と楽曲配信に無償で協力する他、デザイナーから調律師に至る多くの賛同者を得てプロジェクトは動き始めました。

このプロジェクトのオリジナリティは「単なるチャリティだけではなく同時に文化交流でもあり、プロジェクトを通じて世界と日本の作曲家が心を一つにする(間部さん)」というその性格にあります。また現実社会と自らの芸術を通してどう関わって行くかという問題を抱える多くの現代作曲家に、社会の側にも芸術家の側にも共に有意義な機会を提供し得る企画として、注目に値する企画なのではないかと思われます。実際、少なくない演奏家が国内外で多くのチャリティ・コンサートを既に実施していらっしゃる(実際メンバーの三瀬さんも滞在先のフランスでこうしたチャリティ・コンサートに参加されたそうです)のは周知の事実ですが、現代作曲家がこのような災害と被災者に対してどのような貢献が出来得るのかという疑問は、当協会会員作曲家や多くの皆さまが共有なさった想いなのではないかと思います。そのような中で今回のmmm…のチャリティ・プロジェクトは、現代作曲家が普段の創作活動やそのポリシーを何ら曲げることなく、同時に社会に貢献することが可能な試みとして画期的なものと言えるのではないでしょうか?

mmm…の元には既に多くの作品が世界中の作曲家から寄せられ、その中には少なくない数の現音会員の作品も含まれるということです。6月よりは録音も逐次始まり、この度いよいよネット配信が始められました。震災とその後遺症に今なお苦しめられている日本の被災者と、世界に広がる現代音楽界を結ぶmmm…のチャリティ・プロジェクト「ヒバリ」を、当協会としても是非応援して行きたいと思いました。このプロジェクトについての詳しい情報についてはこちらをご参照下さい。

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深澤舞*ボストン便り (7)

ボストンの紅葉

ボストンの紅葉

ボストンも紅葉が見頃で、街全体が美しく秋色に染まっています。マーケットにはリンゴやクランベリー、そしてハロウィンに向けて巨大なカボチャが並び、これから10月のハロウィン、11月の感謝祭、12月のクリスマス・・と、寒さと共にお祭りムードが高まってくる時期です。

昨年末まで1年半、バークリー音楽院でFilm Scoringを専攻していたのですが、授業内容はもちろんのこと、授業以外にも様々に勉強になることがありましたので、少しずつ書かせて頂けたらと思います。

1. カリキュラム
私はディプロマコースに在籍していたのですが、ディプロマコースも大学コースと同じようなカリキュラムがしっかりと決まっていました。専攻したいコースに進むために、必修の授業を履修するか、該当する免除試験に受かることが必要でした。(音大出身者は初めから免除される授業もあります) 日本とイギリスで私が学ばせて頂いた大学卒業後のコースは、専攻の個人レッスンやグループレッスン、ワークショップなどが中心だったのですが、こちらは皆がソルフェージュや和声、理論など、基礎的なことを改めてきっちり学んでから各自の専攻に分かれていくようになっています。確かにバークリーは様々な国から、あらゆる音楽のバックグラウンドを持った学生さんが集まっているので(留学生は1/4近くを占めるそうです)、1度皆で共通の音楽言語を共有することの大切さを実感しました。美大でも、イギリスの大学院は実践・制作中心なのと違って、アメリカでは大学院も基礎のデッサンから学ぶと聞いたことがありますので、アメリカの単科大学院にはそうした傾向もあるのかもしれません。

バークリー音楽院

バークリー音楽院

2. 入学試験
入試は、大学コースもディプロマコースも共通の内容で、願書・小論文の提出、その後に実技オーディションと面接でした。実技オーディションは各自の専攻の楽器で行われ、自由曲/自作曲(がある受験生のみ)/初見(大譜表・コードネーム)/リズム打ち/弾き返し(先生が弾いたものと同じものを弾き返す、聴音に該当するようなものでした)の5つで行われました。また、入学後に4つの試験(Arranging/Ear Training/Harmony/Music Technology)があり、それぞれ4段階のクラスに振り分けられます。

3. コース
学期は4ヶ月ごとに、春、夏、秋学期と分かれており、次の学期も継続して登録するか、翌学期は休みにするかなど、各自に委ねられています。(普段は自国でお仕事をしており、毎年長めに夏休みをとって、夏学期に履修にしにくる方もいました) 3学期目の終わりまでには自分の専攻を決めて申請します。専攻はComposition、Electronic Production and Design、Film Scoring、Music Education、Music Production and Engineeringなど、12コース用意されています。また、専攻とは別に楽器の個人レッスンも必修です。学期のちょうど折り返しの頃にMidterm、学期末にFinalと、2回の試験週間があります。提出、演奏、試験など形は様々ですが、この時期は図書室もコピー室もコンピュータールームも大混雑。皆楽譜や楽器を持って、忙しくも元気に駆けまわります。作曲/編曲作品の音源を提出する課題もあるのですが、このためにproject bandという演奏専攻の学生さんたちと、Music Engineeringを専攻し、録音技術を磨いている学生さんたちが予約制で録音スタジオで待機してくれています。こちらも興味深いシステムでしたので、また次回、このproject bandや授業について書かせて頂きます。

最後に、先日教えてもらったBobby McFerrinのステキな動画を・・♪

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(2011.10.22.)