競楽VIII優勝者・フルーティスト増本竜士さんより、競楽Xファイナルに寄せて

第8回現代音楽演奏コンクール“競楽VIII”第一位
第18回朝日現代音楽賞受賞受賞
増本 竜士 Ryuji MASUMOTO

第8回現代音楽演奏コンクール“競楽VIII”で第一位を頂いた増本竜士です。

現在ではオーケストラへの賛助出演、ソロや室内楽のコンサートなどに加え、現代音楽協会主催コンサートにも出演させて頂く機会が増えてきました。

記念すべき第十回のコンクールが本年開催され、私が参加した第8回は早くも4年前になってしまいましたが、当時までにフルートの為のレパートリーや、奏法の拡大をテーマに現代音楽に取り組んでいたひとつの集大成としても、またその後の演奏機会を得るきっかけとしてや、自身の力試しとしてもこのコンクールに挑戦したい気持ちを持っておりました。

コンクールが一次、二次と進んでいくにつれ、異種格闘技戦であるかのようなオリジナリティのあるこのコンクールにおいて私が一番大事に考えていた事は「現代作品である楽曲にありったけの表現をのせて演奏表現の世界観を強く押し出す!」事でした。

楽器が違えば、その奏法も表現方法も当然異なるはずなので、単旋律楽器であり音量もそれほど大きくはないフルートの演奏で「どうやって勝ち進んでいけばえーんやろ?」という不安がありました。

〈現音・秋の音楽展2012〉ゲネプロ風景。梶俊男会員(左)とディスカッションして作品を練り上げて行く。

フルートは息を管(くだ)に直接当てて発音をする楽器である事から、洋の東西を問わず太古からフルート式発音原理を持つ楽器は存在しています。

フルートであり横笛である。という楽器の表現力を、多彩な楽曲レパートリーの中から「フルートソロの演奏会として映える選曲を!」と、まずは考えました。

フルートの楽音をストレートに押し出す西洋的なアプローチと、能管や竜笛の様な風音混じりに奏するアプローチ、さらには奏法の拡大による「単旋律楽器での重音奏法」「打楽器的楽音」「自身の声などによる音素材」などが散りばめられている武満、ファーニホウ作品を選びました。

一次には安定したテクニックを見せる事を大事にし、(ファーニホウ作品)二次には東洋的な間合いや音色による色彩感などを用いて独奏による立体的な表現世界観として投影する事を。(武満作品)そして本選ではその両方の楽曲を用いて洗練された「まずは美しい音!」そして超絶技巧などから編み出される狂乱を「爆発的に魅せる!」という心構えで臨みました。

楽器や編成の違いなどもありなかなか手応えの掴みにくい本番ではあったのですが(笑)、大事な事はそれぞれの奏者が楽曲とその表現世界に向き合い、高い集中力とそれぞれの楽器の核となる音素材による多彩な表現に取り組む事だと思います。

新たにどのような演奏が生まれるのか?

多くの興味と興奮を掻き立てられるこのコンクールにたくさんの参加と聴衆賞への投票参加を含めたご来場を強く願っています!

私もコンクールの出番後はすっかり一聴衆として驚愕と感嘆とに酔いしれていました。

同時性のある演奏を堪能し、このコンクール会場からたくさんの未来への可能性と奏者の煌めきが見つかるはず!

参加者の皆さん!それぞれの楽器の可能性や魅力が多面性を以ってホールに響き渡り、自身も悔いのない演奏となるよう全力で頑張って下さいね!!

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介〜若林 かをり(フルート/ピッコロ)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介
若林 かをり(フルート/ピッコロ)Kaori WAKABAYASHI

▼本選演奏曲
若林千春/うつ…原響 I(2001)
Franco DONATONI/NIDI(1979)

 

“競楽X”本選への出場の機会をいただけましたこと、大変嬉しく思っています。
留学という経験を通して、日本にいる頃よりもさらに「私は日本人である」ことを体感し、邦人作品の演奏への興味がより一層強くなったことが、今回、邦人作品の演奏に重点を置いているこのコンクールに挑戦するきっかけとなりました。
本選で演奏させていたく2つの作品は、どちらも私にとってとても魅力的な作品です。
若林千春作品「UTU…原響 Ⅰ 」は、私のそれまで持っていたフルートに対するイメージを変えてしまった作品です。作品の核となる“レ”の音をめぐって、フルートという楽器の新たな可能性を存分に引き出していて、それは同時に、奏者や聞き手の想像/創造力を試されているようにも感じます。
ドナトーニ作品、題名の「NIDI」はイタリア語で「巣」という意味です。まるで鳥たちが巣の中で繰り広げる、ちょっと異常で多動な鳥世界の様子が目に浮かんでくるような作品です。
聴いて下さる皆さまにも、それぞれの作品の魅力を“音”をとおして感じていただけるような演奏ができればと思っています。

◎プロフィール
東京藝術大学音楽学部卒業。(財)ローム・ミュージック・ファンデーションの奨学生として2009年秋より渡仏。2012年ストラスブール音楽院スペシャリゼーション課程(マリオ・カローリクラス)を修了。今年3月、同音楽院において震災メモリアルコンサート『Vers TOHOKU』を企画・開催し、邦人作品と即興演奏によるプログラムは話題を呼んだ。現在、(財)平和堂財団海外留学助成を得て、ルガーノ音楽院に在籍。2009年NHK-FM『名曲リサイタル』出演。http://fluteusagi-kawori.cocolog-nifty.com/

 

▼第一次予選演奏曲
Franco DONATONI/NIDI(1979)

▼第二次予選演奏曲
細川俊夫/垂直の歌 I(1995)
Salvatore SCIARRINO/CANZONA DI RINGRAZIAMENTO(1985)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介〜マクイーン時田 深山(十七絃箏)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介
マクイーン時田 深山(十七絃箏)Miyama MCQUEEN-TOKITA

▼本選演奏曲
高橋悠治/橋をわたって(1984)

 

私は4年近く前にオーストラリアから東京に引っ越してきました。オーストラリアではほとんど他の箏奏者はいなく、レッスンのために飛行機に乗らないといけない状況でした。東京に来たのは、邦楽の現場で他の奏者とふれあい、日本でしか学べない事や見れないこと、聴けないことに触れて、自分の音楽に磨きをかけるためでした。
日本に来て色々な場で演奏して、その中で箏曲や邦楽専用のコンクールにも出場してきましたが、思ったよりも、海外と同じように日本でも箏は演奏者や作曲者に特別視されていることがまだあるということに気づきました。今回「競楽」のコンクールで、他の西洋楽器と並んで、ただ現代曲を表現する楽器として箏で出場して演奏できることをとてもうれしく思っています。それだけでなく、立派な世代の審査員の先生方に演奏をみていただけるということも、大変貴重な経験だと思っています。
今回本選で演奏させていただく曲《橋をわたって》は、何年も前からオーストラリアで聴いていました。私の師匠の師匠にあたる沢井一恵先生の高橋悠治氏への委嘱作品ばかりのアルバムの中の一曲で、大好きな曲でした。でもその時学生だった私は、まさかこんな爪をつけずに素手で激しく十七絃の曲を私が、しかも日本で演奏する日がくるとは思いませんでした。今でも大好きな《橋をわたって》、精魂込めてお届けしたいと思います。

◎プロフィール
7歳から筝を学び、メルボルンとシドニーで小田村さつきに、東京で沢井一恵に師事。2008年インド映画「The Japanese Wife(日本人の妻)」の音楽で、箏と歌を担当。2008年にモナシュ大学音楽学部及び文学部卒業以来、日本に活動の拠点を移す。NHK邦楽技能者育成会第55期首席卒業。沢井箏曲院教師。現在文部科学省奨学金により、東京芸術大学院音楽研究科所属。第15回賢順記念箏曲コンクール奨励賞受賞。第7回ルーマニア国際音楽コンクール室内楽部門1位・日本ルーマニア音楽協会理事会賞・オーディエンス賞受賞。

 

▼第一次予選演奏曲
高橋悠治/橋をわたって(1984)

▼第二次予選演奏曲
松村禎三/幻想曲(1980)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介〜木埜下 大祐(フルート)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介
木埜下 大祐(フルート)Daiske KINO-SHITA

▼本選演奏曲
佐原洸/パラジウム(2012)*ピアノ伴奏付き

 

皆様こんにちは。フルートの木埜下です。今回私が演奏する佐原洸の《Palladium》は今年初演された新しい作品ですが、音楽性と、新しい技術(例えば、フラッタータンギングと指を合わせる、など)が見事に融合したとてもユニークな曲です。さまざまな音響と音楽が必然性をもって一体化していく様子を楽しんでいただければと思います。

◎プロフィール
1977年金沢市生まれ。洗足学園魚津短期大学、同研究科、桐朋オーケストラアカデミー、ハンブルク音楽院(石川県芸術インターンシップ在外研修員)、ブレーメン芸術大学を卒業、修了。これまでフルートを小泉浩、ユルゲン・フランツ、ハリー・シュタッレフェルト、ヘレン・ブレットソー、マリオ・カローリの各氏に師事。グイヤンシンフォニーオーケストラ首席フルート奏者を務めた後、ソリストに転出、現代音楽を中心に幅広いジャンルで活躍している。現代音楽演奏コンクール競楽に4度の入選(内2度の審査委員特別賞)の他、入賞多数。現在、アジア同時代音楽協会(ADOK)会長、平成24年度トーキョーワンダーサイト国内交流クリエーター、福山平成大学非常勤講師。
▼第一次予選演奏曲
武満徹/ヴォイス(1971)

▼第二次予選演奏曲
Brian FERNEYHOUGH/カサンドラの夢の歌(1970)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介〜佐藤 祐介(ピアノ)

現代音楽演奏コンクール“競楽X”ファイナリスト紹介
佐藤 祐介(ピアノ)Yusuke SATO

▼本選演奏曲
権代敦彦/無常の鐘 ピアノのための(2009)
鈴木純明/”Impromptu” pour piano solo(2007)

William BOLCOM/Nine Bagatelles(1996)

 

一般的に、ピアノの分野では現代音楽は特別なカテゴリーに捉えられている場合が多いと思います。

たしかに現代音楽はアカデミックかつ難解な作品が多いことは否めません。
しかし私は、多少表現の形は違えど、バロックやクラシックなどの慣れ親しんだ音楽の延長線上にあるものだと思っています。なので、この「競楽」でも、ごく普通に私自身の音楽を表現するために、現代音楽という台本を借り、バッハやシューベルトなどの名曲を演奏する時となんら変わらない気持ちで予選のプログラムを演奏しました。
その結果、ファイナリストになることができ光栄に思います。
本選会では、三人の個性的な作曲家達の作品を自分自身の言葉で表現したいと思います。

◎プロフィール
福島県出身。12歳よりピアノを始め、15歳でデビューリサイタルを開催。UFAM国際音楽コンクール第2位、三善晃ピアノコンクール、チェコ音楽コンクール第1位。第15回浜松国際ピアノアカデミーにおいて、中村紘子等のマスタークラスを受講。昭和音楽大学コンチェルト定期演奏会のソリストに選抜されプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番作品16を演奏。現在、大森ひろみに師事。これまで、故安藤友候、江口文子、杉谷昭子、平間百合子、藤原由紀乃、本尾かおる、柳川守に師事。

 

▼第一次予選演奏曲
Einojuhani RAUTAVAARA/Piano Sonata No.2 “The fire sermon” op.54

▼第二次予選演奏曲
Henry MARTIN/24 Preludes and Fugues No.3 D♭major(1990)
権代敦彦/無常の鐘 ピアノのための(2009)