現音アンデパンダン展に参加して〜久行敏彦

現音アンデパンダン展に参加して〜久行敏彦

昨年のいつ頃だったか忘れたが、現音のある理事の方から「来年のアンデパンダン展のプロデューサーをやってみませんか」というお話をいただき、快諾した。

年度が変わり、春が過ぎ夏雲の消えるころ、現音事務局から「曲目リストを送ります、プログラム曲順を決めていただけませんか」との連絡をいただく。作曲者名と曲名、編成、演奏予定時間が添えられていた。プログラムの殆どが新作初演であるため、チラシを作成する頃にはまだ楽譜はない。

「楽譜なしで(音楽の中身を知らずに)プログラム決めなければならない」という、このような重い仕事を安請け合いしてしまった自分を恨んだ。譬えるならば、日独伊西墨印仏露韓中10人の料理人に「なんでもいいから自慢の一皿を作ってください、それらをうまくまとめてコース料理を考えてみます」と宣言するに等しい行為なのだ。私を除いた作曲者9名のリストを眺めると、演奏時間だけ見るとメインディッシュになりそうな曲が過半数。あかん。プロデューサーとしての私の命は終わった。

ここで私の作品のコンセプトは固まる。「メインディッシュの狭間でお客様に箸休めをしていただけるような曲にしないと」

浦壁信二

久行敏彦作曲《Action III》ピアノ:浦壁信二

幸いなことに、この段階では一音符も書いていなかった。実際その通りの曲が仕上がった。演奏者の浦壁信二さんにも初リハの時、そのコンセプトをお話しし「そうですか、プロデューサーお疲れ様です。そのコンセプト了解しました!」と共感いただいた。

自分の曲のことはまあどうでもいいとして、残りの9皿をどう並べるかだ。以前に発表された作品を存じ上げている方も何人かおられた。この方々は「多分こんな感じの作風だろう」と予想がつく。そうでない方々についてはプロフィールに頼るしかない。「○先生の生徒さんか、かなり胆汁質の作風だろうな」「師事歴、受賞歴何も書いていらっしゃらないな、かなりご自身の作曲には自信とこだわりがおありだろうな」等々。

これらの紆余曲折(私の中だけだが)を経て熟考の結果、あのようなプログラムになった。さあ本番。

実際に全作品通して聴いてみると、皆さんそれぞれ、本気で書かれていることが功を奏したのか、料理と違ってちゃんとした作品ならば、いくらメインディッシュを並べられても「お腹一杯にはなっても、もう食べられない」にはならないのだな、ということを教えられた。これは大きな収穫であった。

 

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第30回現音作曲新人賞受賞の言葉〜伊藤巧真・川崎真由子

第30回現音作曲新人賞受賞の言葉 伊藤巧真
《ものろ・雲・のろぐ》(2013)[編成:Bariton, Tuba]

伊藤巧真この度、念願叶って現音作曲新人賞を受賞することができ、大変嬉しく、とても光栄に思っております。まずは感謝の言葉を述べさせていただきたいと思います。深いテーマを与えて下さり、全ての作品を審査していただいた末吉先生、藤井先生、名倉先生、私の作品に命を与えて下さった低音デュオの松平先生、橋本先生、ゼロから作曲を教えて下さった嶋津先生、これまで私の活動を支えてくれた家族、多くの友人たちに心から御礼を申し上げます。さらに、日本現代音楽協会の関係者の方々には本選会のために多くの御助力をいただきました。おかげさまで貴重な体験をすることができました。本当にありがとうございました。
受賞の感動と共に、今、はっきりと身の引き締まる想いがあります。2011年の冬の終りに、一人では受け止められないほどの強烈な衝動(そして、それは問いのようなもの)に駆られてからは、それに対する答えを無理矢理に吐き出していくかのように、夢中で作曲に取り組んで参りました。しかし、今回の作品が音として実現していく過程の中で、過去の衝動に隠されてしまい、見過ごしてしまっていた“自分に足りないもの”の存在に気づくことができました。
私たちは若い世代だからこそ、何事も恐れを知らずにチャレンジしていくことができます。もちろんこれは、作曲だけに限った話ではないと思います。しかし私の場合、今までのことを振り返ると、ただ単に無知であったからこそ成し得たチャレンジばかりだったのかもしれません。これまで、あまりにも目先のこと、あるいはその少しばかり先の未来だけを追い求め過ぎていたのではないかと反省しております。今回の受賞をきっかけとして、改めて過去の伝統的な作品を振り返っていくなどの冷静な学びが、将来の自分のためには必要不可欠となってくるだろうと感じました。恥ずかしながら、今になってあたりまえのことに気づいたということです。
最後に、作品を聴いて下さった方々に心から感謝の気持ちを述べたいと思います。皆様からも多くの課題をいただいたと思っております。現音作曲新人賞の名に恥じぬよう、これからも高い意識を持って、作曲家としての素養をより高めて参ります。

 

第30回現音作曲新人賞受賞の言葉 川崎真由子
《ピアノ~小笠原鳥類の詩による~》(2013)[編成:Soprano, Bass Clarinet]

川崎真由子このたび、東京オペラシティという素晴らしい舞台で拙作を演奏していただき、そしてこのような賞を頂きましたことを大変光栄に思います。審査員の先生方、演奏者のお二人をはじめ、関係者の皆様方、お越しくださいました皆様方、そして今回作曲にあたり強烈なインスピレーションを与え、快く詩を提供してくださった詩人の小笠原鳥類さんには心から感謝申し上げます。
私自身が聴きたい音楽を純粋に書き連ねた楽譜は、さぞかし演奏しにくい部分もあったと思われますが、ソプラノの太田真紀さんとバス・クラリネットの菊地秀夫さんが真摯に演奏に取り組んでくださり、楽譜から音楽を作っていく過程はお二人から学ぶところが多々あり大変有意義なものでした。そして本番では、自分の聴きたい音楽を素晴らしい演奏で聴くことができ、また実際に音にされることによって新たな発見もあり、至福の時を過ごすことができました。やはり、演奏家の協力があってこそ作曲家は音楽ができるということを、改めて実感いたしました。しかしそれと同時に、自分の至らなさも痛感いたしました。
また今回の本選会では、審査員の先生方の作品も含め様々な歌を聴くことができ、歌の多様性、歌の在り方、そして「日本語を歌う」ということの可能性や難しさ等、「歌」について改めて考えを巡らす機会となりました。この機会に得た課題や収穫を糧に、今後もより一層の精進を重ねて参りたいと思います。

 

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2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎

2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎
《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》(2013)[編成:Soprano, Piano]

平野一郎この度、第30回現音作曲新人賞にて富樫賞および聴衆賞を受賞致しました、平野一郎と申します。
貴賞の存在は以前より知悉しておりましたが、今回初めて応募したのには、主に二つの理由がありました。先ずは、“日本語を歌う”という課題。「日本語から何を承け、どのような新しい歌が提示できるのか」という問いに、真の今日的意義を感じた事です。貴賞始まって以来初の日本語声楽作品の募集であったと後に知り、出品への納得は一層深まりました。次いで、作品に相応しい演奏者の選定・依頼を作曲者自身で行う、という規定です。演奏者に受肉して初めて産まれる音楽、そこに直に責任を負える、という点に確かな賛意を覚えました。
本選会では、ソプラノ・吉川真澄氏とピアノ・堤聡子氏のお二人が、通り一遍でなく作品世界の内奥に踏み込み、内的共感と技術的追求を併せ持つ素晴らしい演奏で作品を送り出して下さいました。選考会という特殊な状況にも関わらず、理想的な初演を果たせた事に、歓びと安堵を感じております。
拙作〈海の幸・天平の面影 〜蒲原有明(かんばらありあけ)の詩に拠る二連画(ディプティーク)〜〉は、有明の同時代の二絵画(青木繁「海の幸」・藤島武二「天平の面影」)への讃としての同名二詩に拠る歌曲です。一見古めかしい“歌曲”という衣の裡に、歌と日本語の淵源からの来歴を誄(しの)ばせ/顕わすという企てに、どのような反応と評価が下るのか、私自身も興味津々でした。
選考の結果、由緒ある富樫賞を贈賞頂いた事は、私にとって大きな励みです。講評後、ご臨席だった故・富樫康氏の奥様と面会させて頂き、富樫氏と亡き師を巡る思い掛けぬ繋がりを慥かめ、不思議な縁を覚えました。聴衆賞も、もう一つの大切な励みとなりました。ご来聴頂いた多くの皆様から示された、作品への篤いご支持とご共感を心に刻みたいと思います。
こうして得難い祝福を受けつつ誕生した新作が、専門の領分から広い世の中に飛び出して、様々な場処で人々の心底に届き、やがて根付いていく事を希っております。

 

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第30回現音作曲新人賞に伊藤巧真さんと川崎真由子さん

後列左から、藤井喬梓審査員、末吉保雄審査員、富樫敏子さん、名倉明子審査員、佐藤昌弘日本現代音楽協会事務局長、前列左から、平野一郎(富樫賞)、伊藤巧真(第30回現音作曲新人賞)、川崎真由子(第30回現音作曲新人賞)、山下祐加(入選)

後列左から、藤井喬梓審査員、末吉保雄審査員、富樫敏子さん、名倉明子審査員、佐藤昌弘日本現代音楽協会事務局長、前列左から、平野一郎(富樫賞)、伊藤巧真(第30回現音作曲新人賞)、川崎真由子(第30回現音作曲新人賞)、山下祐加(入選)

日本現代音楽協会(会長:福士則夫)は、2013年11月6日(水)18:30より、東京オペラシティリサイタルホールに於いて〈現音・秋の音楽展2013〉「第30回現音作曲新人賞本選会」(審査員長:末吉保雄、審査員:藤井喬梓、名倉明子)を開催し、一次審査(譜面審査)及び二次審査(作曲者による作品プレゼンテーション)を経て入選作に選ばれた4作品の演奏審査を行いました。
厳正な審査の結果、伊藤巧真(いとう・たくま/福島県出身/1987年3月16日生まれ)さんの《ものろ・雲・のろぐ》と、川崎真由子(かわさき・まゆこ/神奈川県出身/1989年7月5日生まれ)さんの《ピアノ~小笠原鳥類の詩による~》の2作が2013年度「第30回現音作曲新人賞」に選ばれました。
「富樫賞」には平野一郎(ひらの・いちろう)さんの《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》が選ばれました(賞金10万円)。
また聴衆賞には伊藤巧真さんと平野一郎さんの同作が選ばれました。
表彰式は2014年1月17日(金)18時から開催する、日本現代音楽協会新年パーティの席上にて行い、福士則夫日本現代音楽協会会長より、賞状と賞金15万円が授与されます(賞金は分割授与)。
なお、来年度の「第31回現音作曲新人賞」は、審査員長に山内雅弘、審査員は、金子仁美、中川俊郎で、演奏時間15分内のピアノ作品を募集します。編成の規定は、ピアノは2台まで、奏者は3名までです。要項は、2014年1月下旬に、当協会ウェブサイト等で発表する予定です。

※ 「富樫賞」…審査員が今後に期待する新人に贈る審査員特別賞。2005年度、音楽評論家であり、日本現代音楽協会賛助会員でもあった故・富樫康さんの業績を讃え、ご遺族の篤志により日本現代音楽協会が設立しました。

※応募総数28作。一次審査:2013年7月18日(木)15時~日本現代音楽協会事務所
※二次審査:2013年7月27日(土)16時~日本現代音楽協会事務所

 

第30回現音作曲新人賞本選会結果
2013年11月6日[水]18時30分開演 東京オペラシティリサイタルホール

■第30回現音作曲新人賞
賞状、賞金15万円を分割授与、現音入会資格の認定
伊藤 巧真(Takuma ITO)
《ものろ・雲・のろぐ》(2013)[編成:Bariton, Tuba]

■第30回現音作曲新人賞
賞状、賞金15万円を分割授与、現音入会資格の認定
川崎 真由子(Mayuko KAWASAKI)
《ピアノ~小笠原鳥類の詩による~》(2013)[編成:Soprano, Bass Clarinet]

■富樫賞(賞状、賞金10万円)
平野 一郎(Ichiro HIRANO)
《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》(2013)[編成:Soprano, Piano]

■聴衆賞(賞状)
伊藤 巧真(Takuma ITO)
《ものろ・雲・のろぐ》(2013)[編成:Bariton, Tuba]

平野 一郎(Ichiro HIRANO)
《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》(2013)[編成:Soprano, Piano]

■入選(表彰状)
山下 祐加(Yuka YAMASHITA)
《ソプラノとピアノのための練習曲「五十音」》(2012)[編成:Soprano, Piano]

現音作曲新人賞本選会 記念すべき第30回 11月6日に開催 審査員作品も上演

第30回現音作曲新人賞本選会

現音人材育成シリーズ2013〈現音・秋の音楽展2013〉
第30回現音作曲新人賞本選会
テーマ:日本語を歌う

2013年116日(水)18:00開場/18:30開演|東京オペラシティリサイタルホール

 

▼第一部:審査員作品上演

名倉明子/夏〜ソプラノと十七絃箏のために〜[作曲2013年/初演
稲村麻衣子(ソプラノ)木村麻耶(箏)

藤井喬梓/清水茂の詩による3つの歌曲[作曲2011-13年]
湯川亜也子(メゾソプラノ)大須賀かおり(ピアノ)

末吉保雄/坑夫トッチルは電気をつけた—荒川洋治の詩によるバリトンとティンパニのための歌曲[作曲2006年]
鎌田直純(バリトン)會田瑞樹(ティンパニ)

 

▼第二部:入選作品演奏審査

山下祐加/ソプラノとピアノのための練習曲「五十音」
岩下晶子(ソプラノ)大須賀かおり(ピアノ)

川崎真由子/ピアノ~小笠原鳥類の詩による〜
太田真紀(ソプラノ)菊地秀夫(バスクラリネット)

伊藤巧真/ものろ・雲・のろぐ
松平敬(バリトン)橋本晋哉(チューバ)

平野一郎/海の幸・天平の面影〜蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画〜
吉川真澄(ソプラノ)堤聡子(ピアノ)

全曲2013年作曲・初演 ※演奏順は変更となる場合があります。

 

【審査員】末吉保雄(審査員長) 藤井喬梓 名倉明子

 

チケット:全自由席 一般2,000円 学生1,000円

主催・チケット・お問合せ:日本現代音楽協会(国際現代音楽協会日本支部)
TEL: 03-3446-3506 E-Mail: aki2013(a)jscm.net

後援:一般社団法人日本作曲家協議会
助成:一般社団法人日本音楽著作権協会 公益財団法人ロームミュージックファンデーション