“競楽”2位 箏・マクイーン時田深山さんインタヴュー「箏で世界へ!」

「現代音楽演奏コンクール競楽“XII”本選会」12月4日(日)13:00よりけやきホールで無料開催!

「現代音楽演奏コンクール“競楽X”」同率2位、フルートの若林かをりさんと、箏のマクイーン時田深山さんへのインタビュー第二弾はマクイーン時田深山さんです!

 

miyama——6年ぶりとなるリサイタルを開催されるそうですね!内容を教えて頂けますか?

 

マクイーン時田深山 今回は低音箏である十七絃のみのプログラムとなります。2011年のリサイタルは現代邦楽の名曲ばかりでしたが、今回は大半が自分のために新しく作ってもらった曲です。2曲は海外作曲家に書いてもらい、日本初演です。イタリア人が書いたKoto.Lengōはオーボエと十七絃二重奏で、日本初演はサックスで演奏します。イギリス人が書いたAfter Michioは、独奏十七絃で、珍しく弓を使う曲です。この曲のために弓を購入し、必死で弓の練習をしています(笑)。

新作の委嘱は去年出会った若手作曲家の服部伶香さんにしました。彼女は去年十七絃とヴァイオリンの曲を書き、とても良い曲で、楽器もセンス良く使われたと思ったのでお願いしました。

賛助出演や新作委嘱は、年上の尊敬する方にお願いすることも考えたのですが、同年代の仲間と新しい音楽を一緒に創り上げるというコンセプトに惹かれ、同年代やそれに近い人にばかりお願いしました。海外の作曲家も同年代の仲間です。これからも意見を言い合える仲間と一緒に音楽をし続けたいという気持ちからこのようなプログラムにしました。

また、十七絃のみにしたのは私の活動が最近は十七絃メインになっていることもあり、自然なことでした。おそらく十七絃の響きの長さ、深さが私の弾きたい音楽に合っているのだと思います。

 

——十七絃のみのコンサートというのは興味深いですね! オーストラリアのご出身ですが、箏を始められたきっかけはどのようなことだったんですか?

 

私の師匠は25年以上前に東京からオーストラリアへ活動の拠点を移し、日本音楽の研究家である母が日本音楽や箏を広める活動もしていて私も箏を始めたのです。当時7歳の私は音楽が好きでピアノもやっていました。高校までずっとピアノとオーボエもやりながら箏を続けて、高校を卒業したら箏で大学の音楽学部に入学しました。大学で箏専攻はもちろん私しかおらず、入れるアンサンブルは「ワールドミュージック」グループだけでした。それまでは箏の曲しか弾いたことがなかった私は、いきなりジャズミュージシャンとのセッションをしながら曲をアレンジすることなりました。何がなんだかわからなくて最初は苦痛でしたが、段々即興もできるようになり、こうしたら合うんじゃないかというのがわかってくると、それまでは経験したことのなかった音楽の楽しさを発見できました。その時に、真剣に箏でやっていきたいと思い始めました。始めたきっかけは母でしたが、続けたいと思ったきっかけは他ジャンルとのコラボ、そしてそれまでの枠から外れることでした。

 

——古典の邦楽だけでなく、箏でジャズまで演奏していたというのはビックリです!昨年十七絃箏をかついでオーストリアに行かれたとか!?

 

日本とベルリンで知り合った作曲家を通して、オーストリアのグラーツで開催されるimpulsという現代音楽アカデミー&フェスティバルのことを知り、箏でも参加できるんじゃないかと勧めてくれました。世界中から作曲家と演奏家が集まり、ワークショップやレクチャー、コンサートが開催され、とても刺激になりました。友達の輪も広がり、仕事としてではなく、世界中の人たちと楽しく音楽を創るというとても幸せな空間でした。また、箏を全く知らない作曲家にどのようにして楽器の説明をするかを考えさせられる貴重な体験でもありました。

リサイタルの海外作曲家による曲はimpulsの繋がりですし、賛助出演の日下部さんもimpulsで出会いました。自分から楽器を持って、全く未知の環境へと入って行ってできた繋がりで、これからもこのように繋げて広げて行きたいという思いからリサイタルにもこうやって入れました。

 

——「競楽」はエントリーする楽器の種類や作品も自由で、国籍年齢も問い合わせん。箏で参加されての感想はいかがでしたか?

 

申し込んだ時は特に深い意味もなく、楽器を問わないならやってみよう、という感じでした。でも受けてみて、2次予選になると周りは西洋楽器だらけ。妙に落ち着きました。私のやっていることは邦楽でも西洋音楽でもない、音楽。今私ができる一番良い音楽を演奏して皆さんに聴かせれば良いんだ、と思いました。その演奏を受け入れてもらえたのでとても励みになりました。

 

——最後に、今後の目標や、夢を聞かせてください!

 

身近な目標としてはリサイタルが終わったらCDを出したいと思っています。

大きいスケールで言うと、海外へ箏を持ち出してどんどん新しい音楽を書いてもらうこと。もっともっと色々な人と出会い、自分と気の合う人たちと一緒に音楽を創り上げていくこと。

日本では、東京だけでなく国中にできるだけ回って、人に今を生きている、生き生きした和楽器に触れてもらうこと。「和楽器」はまだまだ難しくて堅苦しいイメージが強いようです。でも、和楽器は現代人が古典だけではなく現代の音楽を弾いているんです。古くて難しい音楽だけじゃない。和楽器に携わっている人にもこれを自信を持ってそう思って欲しいですね。

また、日本の和楽器奏者がもっと自信を持って海外でコミュニケーションを取れるようになればもっと輪が広がっていくと思うんです。言葉の壁は大きい、とよく言われますが、逆にじゃあ英語でなんとかコミュニケーションが取れればいい、ということではないでしょうか。近い将来、音楽家専用の英会話みたいなのを始めたいですね。

 

——箏の国際的な橋渡し役、期待しています!どうもありがとうございました!

 

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◼Miyama McQueen-Tokita Bass koto recital -encounters-
2017年1月20日(金)19:15開演
会場:MUSICASA

“競楽”2位フルート若林かをりさんインタヴュー「来年はシャリーノを!」

「現代音楽演奏コンクール競楽“XII”本選会」12月4日(日)13:00よりけやきホールで無料開催!

「現代音楽演奏コンクール“競楽X”」で同率2位となった、フルートの若林かをりさんと、箏のマクイーン時田深山さんに、それぞれインタビューをさせていただきました。競楽の思い出や、今後の活動について語って頂きました。第一弾は若林かをりさんです!

 

kaori_wakabayashi——ご自身のフルートコンサートシリーズ「フルーティッシモ!」の4回目、5回目を来年企画されているそうですね!内容を教えて頂けますか

 

若林かをり 来年の4月4日は、私が「現代音楽演奏コンクール“競楽”」でも演奏し、大好きな作曲家であるサルヴァトーレ・シャリーノ氏の70回目の誕生日ということで、彼のフルート独奏のための作品集第I巻、第II巻の全12曲を、2回にわたって演奏します。

 

——凄く意欲的なプログラムですね!「フルーティッシモ!」の1回目は様々な作曲家の作品を集めたプログラムでしたが、次回はシャリーノ一人ににスポットを当てるんですね。

 

はい。私は美術館によく行くのですが、絵を観るとき、一人の作家に絞った個展が好きなんです。その作家の感性にどっぷりと浸れて『若いときはこういう作風で晩年はこんな感じになったんだ…』という風に、一人の作家の感性や考え方の変化のようなものまで感じ取ることが出来るような気がするんです。音楽も同じような側面があると思ったので、今回はシャリーノのフルート作品の魅力を全部知ってもらえたらな!と思って企画しました

 

——「フルーティッシモ!」というネーミングは造語なんですか?

 

はい。「フルート1本で勝負するぞっ!」という想いを込めています。後々調べたら、イタリアでも同じネーミングのイベントがあるそうで、私の師匠であるマリオ・カーロリ先生も出演している大きなフルートイベントみたいです。

カーロリ先生も、数年前にアメリカの大学の企画でシャリーノのフルートソロ作品を全曲演奏したことがあったのですけれど、尊敬する先生がなさったことを私もチャレンジしたいと思ったことも、今回の企画のきっかけのひとつです。

私がシャリーノ作品を一番最初に聴いたのは、2004年に東京で行われたアルディッティ弦楽四重奏団の演奏会で、アルディッティ氏が演奏されたヴァイオリン独奏のための《6つのカプリッチョ》だったのですが、『ヴァイオリンでこんな音が出せるんだ!』って衝撃を受けて。その後、カーロリ先生がフルート作品を演奏されているのを聴いて、やっぱりビックリしたんです。それまでの“現代音楽”というイメージが覆って、現代作品の楽しさや面白さを知ったんです!

ただ、演奏するのはとても難しくて…(苦笑)。シャリーノの楽譜は、フルートソロなのに3段になっているものとか、実音以外の音も沢山記されています。なんと、フルート独奏のための作品集では、第I巻、第II巻を通して、いわゆる普通のフルートの音を出すところは一カ所しかありません!!そう言ったこともあって、シャリーノの楽譜とフルートの特殊奏法についてのレクチャーもコンサートと同時期に開催したいなと考えています。

 

——「フルーティッシモ!」は毎回ランチタイムに1時間の開催でしたが、次回は初の夜開催なんですね?

 

そうなんです。ヨーロッパで勉強していたとき、土日の午前中にコンサートを聴きに行って、ランチを食べて、お昼からは遊びに行く、というスタイルをよく目にしました。ヨーロッパから帰国して、リサイタルを開催しようと考えたときに、日本でも、東京だったらこのスタイルは良いんじゃないかな?と思ったんです。3回目まではランチタイム公演でしたが、シャリーノの作品集第I巻は1時間ではプログラムが収まらないので「フルーティッシモ!vol.4」は初めて、夜に2時間弱のコンサートを開催することにしました。第II巻の方は演奏時間も短いので、「フルーティッシモ!vol.5」は、今まで通り土曜日の11時から行う予定です。

本来「フルーティッシモ!」では邦人の作品を演奏したいという想いはあるんですけど、2017年はシャリーノのアニバーサリーですし、今回は是非、シャリーノの音の世界を日本のみなさんに聴いていただきたいと思いました。

 

——「フルーティッシモ!」の3回目では、武満徹さんを中心とした邦人作曲家特集でしたよね。副題が「ゲンダイの古典」と題されていましたが、これはどういった想いを込められたんですか?

 

まず、邦人作品の特集にしたことに対しては、私がヨーロッパで「自分は日本人なんだ」ということを再認識したことが大きかったです。現代の日本を代表する作品を沢山生み出されていた武満徹氏や実験工房メンバーの作品は、是非とも取り上げたいコンテンツでした。邦人作品には今後も沢山取り組んでいきたいと思っています。

「ゲンダイの古典」という副題をつけるにあたっては、新しい作品に対して「古典」と言ってしまうと失礼にあたるかな…と、とても迷ったんですが、尊敬の念を込めてこのタイトルにすることにしました。例えば武満徹さんの《Voice》は、国際コンクールの課題曲として何度も取り上げられていて、ヨーロッパの二十歳ぐらいの学生さんでもレッスンで吹くぐらい、今ではスタンダードなレパートリーになっています。そういう意味では、「現代音楽だけど、もうすでに古典だな。」と思って。L.ベリオの《セクエンツァ》なんかもそうですね。

 

——競楽でも《Voice》を吹く方は多いですね。

 

そうですよね。競楽の選曲は、まさに現代の古典!と言った曲目が並んでいる印象があります。審査委員の先生方の世代の作品でエントリーして、既に沢山の演奏家が演奏してきた作品に真正面から取り組んで、自分のパフォーマンスを見ていただきたい!というマインドがあるのかなって思います。

一方で、以前、打楽器の方に「今度1980年の曲を吹くんです。」と言ったら「それは古い作品ですね。」と言われてハッとしたことがありました。打楽器のソロ楽器としての確立は、フルートと比べれば近年のことですしね。“現代作品”とはいっても、とても幅広いので、ものすごく新しい斬新な作品でエントリーして、バチッと演奏して魅せる!という事が出来るのも競楽の魅力だな、と思います。

私が留学をしたのは、現代奏法を学びたかった事と、レパートリーを増やしたいという思いがあったためです。留学中の数年間でいろんな作品に触れてみて、自分と相性がいいと思う作品にもたくさん出会うことができました。その成果を発表する場があったらいいなと思って競楽にチャレンジすることにしたんです。競楽は参加者自身が自分のカラーを出せるような選曲ができるのが良いですよね。

 

——昨年の「フルーティッシモ!」は地元・滋賀県でも開催されてましたね。

 

滋賀県は、ラ・フォル・ジュルネが開催されるなど、最近コンサートが増えてきていています。演奏に携わっている者としてはとても嬉しい環境ですが、コンテンポラリーはまだまだ少ない印象ですね。「フルーティッシモ!」の滋賀公演では、陶芸家の方のご協力で光る陶器の作品を会場内に設置して、暗闇の中で現代作品を演奏したり、湯浅譲二先生をゲストにお迎えしトークをしていただきました。今回は第一回目という事もあり、また美術作品とのコラボレーションが「珍しい企画」という印象も与えたようで、地元のフリーペーパーで取材をしていただけたり、新聞にも取り上げて頂くことができました。そのおかげで、県内はもとより、京都や大阪、兵庫からも多数のお客さまがご来場くださったのですが、今後定着させていくためには、広報の仕方やファンの獲得など、まだまだ課題があるなと感じています。

 

——最後に競楽について一言いただけますか。

 

競楽にエントリーするにあたり、プログラミングや構成を自分なりに考えて選曲するというプロセスを踏めた事は、私にとって大きな財産になりました。また、予選・本選を通して、楽器の垣根を越えて、興味深い作品や素晴らしいパフォーマンスを聴くことが出来、沢山の刺激を受けました。そのような中で、入賞させていただけた事は、「フルーティッシモ!」を企画するにあたって、大きな原動力につながっています。競楽を受けていなかったら「フルーティッシモ!」はやってなかったかもしれません(笑)。

今回の競楽でも、素晴らしい表現者達がバリエーションに富んだ作品に挑戦され、お客さまを魅了させてくれることを期待しています!

 

——今後のご活動を楽しみにしています!どうもありがとうございました!

 

 

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◼ 若林かをり フルーティッシモ!〜フルートソロの可能性〜
第4回 2017年4月14日(金)19:00開演
第5回 2017年10月21日(土)11:00開演
会場:東京オペラシティ3階 近江楽堂

競楽XII本選出場者紹介〜鈴木真希子(ハープ)

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▼本選演奏曲
Betsy JOLAS/TRANCHE pour harpe seule(1968)
棚田 文紀/Mysterious Morning I pour harpe solo(1995)
Luciano BERIO/Sequenza II per arpa sola(1963)

 

競楽の本選会にて演奏する機会をいただき、大変嬉しく思います。

本選会では恩師F.ピエールへの委嘱2作品と、パリを拠点にご活躍中の棚田文紀氏の作品を演奏致します。
1曲目《TRANCHE》は、エトフェと呼ばれる響きを止める奏法がいかされた作品です。エトフェによりフレーズは刹那に消え去りますが、幾重にも溶け合った儚いフレーズは、まるで長い吐息のように豊かな時間を描きます。
2曲目《Mysterious Morning I 》は、ハープらしさが際立った作品です。朝の風が吹き抜けるような心地よさ、そして美しくも魅惑的なハープの世界を表現したいと思います。
3曲目《Sequenza II 》は、ベリオと親交の深かった恩師、二人で創り上げたというこの作品は、現代音楽におけるハープ奏法のもととなる特殊奏法とハープの多くの可能性を示しています。

紀元前3000年頃に原型があったとされるハープ。長い歴史を経て、この現代まで繋がった響きをお楽しみください。

◎プロフィール

洗足学園音楽大学卒業。パリ・エコール・ノルマル音楽院高等演奏課程を満場一致で卒業。パリ国立地方音楽院を満場一致で卒業。クレ・ドール国際コンクールにて1位。留学中アンターコンテンポランのアトリエに在籍。これまでに信国恵子、杉山敦子、F.ピエール、G.プチ・ヴォルタ氏に、現代音楽をB.シルベスター、J-Mコッケ、F.カンブルラン氏に師事。

 

▼予選演奏曲
Raymond MURRAY CHAFER/The Crown of Ariadne for solo harp with percussion(1979)より1、2、3、4楽章

第33回現音作曲新人賞入選者発表

2016年11月25日(金)午後5時より、第33回現音作曲新人賞の譜面審査を行いました(作品募集テーマ:邦絃楽器)。
全18作の応募の中から、山本裕之審査員長、新垣隆・福井とも子審査員による厳正な審査の結果、新人賞候補作品(入選作)に下記の4作が選ばれました。
2017年3月3日(金)渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホールにて行われる〈現代の音楽展2017〉「邦楽・絃楽プロジェクト」内の第1部「第33回現音作曲新人賞本選会」に於いて、演奏審査により新人賞受賞作を決定します(開演時間未定)。

 

■入選作(作曲者名五十音順に表記)

池田 萠(Moe IKEDA)
《硝子妄想(と、その解決)》地歌三味線(中棹三味線、歌唱を含む)
1986年石川県生まれ。愛知県立芸術大学作曲専攻卒業。IAMASメディア表現研究科修了。作曲を小林聡、寺井尚行、三輪眞弘他の各氏に師事。

伊藤 彰(Akira ITO)
《好奇心ドリブン》ギター、ヴィオラ、二十絃箏
1991年福岡県生まれ。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。同大学院後期博士課程在籍中。作曲を菊池幸夫、北爪道夫、川島素晴の各氏に師事。

原島拓也(Takuya HARASHIMA)
《極彩ドロップ No.2》中棹三味線、十七絃箏、フルート
1993年生まれ。現在桐朋学園大学作曲専攻研究生。作曲を山内雅弘、山根明季子、金子仁美の各氏に師事。

増田建太(Kenta MASUDA)
《樹に窓を見る》十三絃箏、クラリネット
1990年生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻音楽コース作曲専攻卒業、同大学院修了。物部一郎、北川文雄、猿谷紀郎の各氏に師事。

競楽XII本選出場者紹介〜中山加琳(ヴァイオリン)

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▼本選演奏曲
藤倉 大/Samarasa for violin(2010/new version 2014)
Pierre BOULEZ/Anthèmes 1 pour violon seul(1992)

 

この度、競楽本選会に出場させていただけること、大変嬉しく、光栄に思っております。

藤倉大氏の作品名「Samarasa」には、氏によると、サンスクリット語で「心の平衡(mind at rest)」という意味が込められています。一音ごとの弦の移動や普段使われないポジションによって、その不自然さがメロディに美しい揺れを引き起こします。不自然な運動によって、生みだされる音楽からは、不安や焦りの感情も見え隠れします。エネルギーをふつふつとため、後半、一気に激しさを増し、爆発したあとは静かに落ち着いて、遠くに消えて行ってしまいます。その心の様を表したいと思っています。

今年(2016)に亡くなられたブーレーズ氏の「Anthèmes 1」は、メニューイン国際コンクールのために書かれた技巧的に難しい曲ですが、瞑想的であったり、急にアップテンポになったり、不規則なリズムになったりと、パッセージやテンポがコロコロと変わって、あたかもフランス語の詩や会話のように聞こえます。まるで誰かが何か言いたいことがあるのに、言いかけては途中でやめて、別の人が割って入ってくる、そんな風にせわしなく場面が変わって進んでいくようなイメージを膨らませてくれる作品です。

作曲家の込めた想いやメッセージが皆様に届きますように。

◎プロフィール

桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部卒業。ドイツ国立フォルクヴァング芸術大学演奏家修士課程を最優秀の成績で卒業後、現代音楽科(同大学修士課程)へと進む。石井志都子、Jacek Klimkiewicz, Günter Steinke, Hannah Weirichの各氏に師事。第16回Luigi Nono国際コンクール第1位、第4回Maria Grazia Vivaldi国際コンクール第1位、第9回大阪国際音楽コンクール第2位。現在ドイツ拠点の現代音楽アンサンブルEnsemble CRUSHの一員としてソロ、アンサンブルで活躍中。http://ensemble-crush.com/

 

▼予選演奏曲
Salvatore SCIARRINO/Sei Capricci Per Violino(1976)
Adriana HÖLSZKY/Klangwaben-Signale für Violine Solo(1993)