競楽XIII本選出場者紹介〜薬師寺典子(ソプラノ)

Photo by Ayane Shindo

▼本選演奏曲
Henri POUSSEUR/Mnémosyne(1968)
Luciano BERIO/Sequenza III(1965)
日野原 秀彦/箴言集とやさいたち〜藤富保男の詞と詩による〜(2015)

プッスール《Mnémosyne》はギリシャ神話の記憶の女神の名前です。ドイツ語のテキストが入れ替わる度にフレーズが美しく変化していきます。

私達は意味のない印である
私達は無痛である、そして
言葉をほとんど異国で失ってしまった
(Text : Friedrich Hölderlin)

ベリオの《Sequenza III》は、Give me a few words →gi/ me/ woと分解された言葉と感情が極限の部分で接触する、とても情熱的な作品です。

我々にいくつかの言葉をくれ
心配事無しに日が暮れないうちに
家を建てるための真実を
女が歌えるように
(Text : Markus Kutter)

日野原先生の《箴言集とやさいたち〜藤富保男の詞と詩による〜》は、言葉を使用する人の教訓となる箴言集と、やさいたちの愛らしい響きが交互に綴られる、とてもシュールで魅力的な作品です。
心を込めて歌います。お楽しみ頂けたら幸いです。

◎プロフィール
東京芸術大学声楽科卒業。ベルギー政府給費奨学金、野村財団奨学金を得てベルギー留学。ブリュッセル王立音楽院修士課程修了。リエージュ王立歌劇場ラヴェル「子供と魔法」子供役、ロンドンにてモンテヴェルディ「ポッペアの戴冠」ヴィルトゥ役、アルスムジカ現代音楽祭など数々のオペラとコンサートに出演。これまでに玉木豊、マリアンヌ・プッスール、平山美智子、櫻田亮、ジュゼッペ・サッバティーニの各氏に師事。18/19年度イクトゥスアカデミー生。

▼予選演奏曲
Morton FELDMAN/Only(1976)
Georges APERGHIS/PUB 1(2002)
Georges APERGHIS/PUB 2(2002)

競楽XIII本選出場者紹介〜中村栄宏(リコーダー)

▼本選演奏曲
細川 俊夫/息の歌(1997)
石井 眞木/ブラック インテンション(1975)

「リコーダー」どんなイメージをお持ちですか? 多くの方は小学校で使う教育楽器、古楽がお好きな方は17~18世紀に活躍した楽器というイメージをお持ちかと思います。いずれにせよ日本人ほとんどが吹いたことがある楽器にも関わらず、知られざる魅力がたくさんある楽器であることは間違いありません。
音楽の異種格闘技戦ともいえる“競楽”本選において、初のリコーダー奏者として演奏することができて大変光栄です。
リコーダーのための現代音楽においては、日本人作曲家による作品が世界的に有名です。現代音楽が盛んなアムステルダムでは、古楽と同様の比率でこれらの作品を演奏することが必須とされます。《ブラック インテンション》は昔から多くのリコーダー奏者によって演奏されてきた大切なレパートリー、《息の歌》は新しい可能性を示した作品としてリコーダー奏者にも取り上げられつつある作品です。リコーダーの世界の中でもより見る機会の少ない現代音楽を通じて、この楽器のもつ大きな可能性を少しでも感じていただけると幸いです。

◎プロフィール
三重県桑名市出身。東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻修了。リコーダーの経歴を生かしソフトバンク株式会社にエンジニアとして入社。会社員と演奏活動の両立を続けるも、音楽家へ転向のため退社。岡田文化財団、三重県国際交流財団の助成を受け、オランダ・アムステルダム音楽院リコーダー専攻在学中。リコーダーをE・ボスグラーフ、J・イザック、W・v・ハワヴェ、日置美知代の各氏に師事。音楽理論を土田京子氏に師事。

▼予選演奏曲
中村 斉/バスリコーダーのための ムーブメント(1993)
Isang YUN/中国の絵(1993)より 3. 猿回し
Louis ANDRIESSEN/ENDE(1981)

競楽XIII本選出場者紹介〜前田啓太(打楽器)

▼本選演奏曲
松村 禎三/ヴィブラフォンのために〜三橋鷹女の俳句によせて〜(2002)

打楽器で構成されるコンサートを初めて訪れたのは、2002年に開催された「吉原すみれパーカッションリサイタル」でした。
このコンサートをきっかけに私は打楽器奏者を志しました。
その時初演された曲の一つが松村禎三氏作曲の《ヴィブラフォンのために〜三橋鷹女の俳句によせて〜》です。
奥深い響きと鬼気迫る迫力を合わせ持ったこの作品が生み出す空気は私を興奮させ、今でも鮮明に覚えています。
4年前に師の吉原すみれ氏から、現代音楽発展に貢献する意志を受け継ぐようお言葉をいただきました。そしてその意志を象徴する代表曲であり、私の原点とも言えるこの作品を現代音楽演奏コンクールの場にて演奏できることはとても光栄です。
私が感激した空気をご来場いただいた皆様にも味わっていただけると嬉しく思います。

◎プロフィール
富山県出身。武蔵野音楽大学卒業。ドイツ国立カールスルーエ音楽大学へ留学。同大学大学院修士課程にて満場一致の最優秀の成績を得て帰国。2011年バーデン文化財団主催の国際音楽コンクール「Kulturfonds Baden Wettbewerb」第1位受賞。第31回日本管打楽器コンクール・パーカッション部門第2位受賞。2017年Studio N.A.Tより打楽器独奏によるCD『I Ching』をリリース。

▼予選演奏曲
山口 恭範/Conundrum(1997)

競楽XIII本選出場者紹介〜池永健二(打楽器)

▼本選演奏曲
Kevin VOLANS/She Who Sleeps with a Small Blanket(1985)

本日はケヴィン・ヴォランズ(1949-)作曲の《She Who Sleeps With A Small Blanket》を演奏いたします。ヴォランズは南アフリカ生まれで、作曲をドイツのK.シュトックハウゼンに師事しています。70年代中頃には[Neue Einfachheit (新しい単純性)]と呼ばれる音楽運動にも関係し、後のポスト・ミニマリズムの作曲家に影響を与えます。
1979年以降、アフリカへの記録旅行から得たアフリカの曲構成を用いた作曲技法をヨーロッパにもたらしました。
1985年に書かれた《She Who Sleeps With A Small Blanket》。私はこの作品と向き合う中で、この作品を表現するために修辞学に興味を持ち、人が話すこと、喋ることを改めて感じ直す日々を送っております。
私にとって太鼓を叩くことは、喋ること。そして、伝えること。何を伝えるか。日々少しずつ変化する自身の心や身体と向き合いながら、その答えをいつまでも、何処までも探求していける人生でありますよう願います。
今日と言う名誉ある、素敵な機会を頂けましたことに心から感謝しております。

◎プロフィール
愛知県立芸術大学を経て、同大大学院修士課程を修了。在学中より数々の演奏会、音楽祭に出演。2007年度アリオン賞奨励賞を受賞。大学院修了後、富士山の麓にて山籠り。ソリストとして自分にしか出来ない世界観を思案、創造しては全国各地で披露し、自分の感性と向き合ってきた。2014年より東京を拠点に演奏活動を本格的に始動。2015年からリサイタルシリーズを企画。これまでに打楽器 マリンバを故 何森博子、今村三明、神谷百子、佐野恭一、深町浩司、池上英樹の各氏に師事。また、打楽器の原点を肌で感じるべくアフリカを旅し、ケニアにてJean Cloud氏に手ほどきを受ける。

▼予選演奏曲
一柳 慧/独奏マリンバのための 源流(1990)

競楽XIII本選出場者紹介〜土橋庸人(ギター)

▼本選演奏曲
高橋 悠治/メタテーゼ第2番 (1968)
Claude VIVIER/Pour guitare(1975)

この度はこのような素晴らしい舞台に立たせていただける事を大変うれしく思っております。
1曲目は高橋悠治作曲《メタテーゼ第2番》(1968)を演奏いたします。メタテーゼとは音位転換の意味で、弛まなく変化する音たちは感情が入り込むすきがないほど純粋な世界を構築しています。なんの匂いもない、といってもいいかもしれませんが、この真っすぐな曲に強く惹かれます。半世紀前の作品ながら1つのギター音楽の到達点です。
2曲目はC.ヴィヴィエ作曲《Pour guitare(ギターの為に)》(1975)です。バリのガムランの模した響きが特徴的で、前曲と全く違った意味をもつ空白を聴いていただけたら幸いです。

◎プロフィール
これまでにギターを松居孝行、佐藤紀雄、D.ゲーリッツの各氏に師事。エリザベト音楽大学卒業。ベルリン国立音楽大学ハンス・アイスラー大学院修了。リリエンフェルト(オーストリア)の音楽祭に招待、日独センター(ドイツ)にて内倉ひとみの個展にて、久保摩耶子のパフォーマンスと共演、ドイツ文化センターにてクリスティーネ・イヴァノヴィッチによるエーリッヒ・フリートの「イザナギとイザナミ」の講演に出演。また「秋吉台の夏2015」にて、山田岳 ギター・ポートレイトコンサートにて「コードウェルの為の祝砲」で共演し好評を博す。第一回パン・パシフィック現代音楽コンクール アンサンブルの部第一位。ウィーン・ギターフォーラム現代音楽賞を受賞。

▼予選演奏曲
Elliott CARTER/CHANGES(1983)