〈協創 新しい音楽のカタチ—現音・特別音楽展2010〉
「創立80周年記念シリーズオープニングコンサート~現代ハープ音楽の領域〜現代ハープ音楽の領域」
第一部:第27回現音作曲新人賞本選会
2010年10月4日(月)東京文化会館小ホール
報告:現音広報部長 中川俊郎
現音創立80周年記念シリーズオープニングコンサート「現代ハープ音楽の領域」が2010年10月4日に東京文化会館小ホールで開催された。第1部はハープを中心とした編成による、第27回現音作曲新人賞本選会。第2部は篠崎史子リサイタルというかたちで、ハープ音楽への様々なアプローチが開示された。
第1部の新人賞は糀場富美子審査員長、北爪道夫、松平頼曉両審査員のもと応募総数20曲あまりの中からこの日演奏される5曲が選出され、演奏審査が行われた。さらに当日オブザーバーとして篠崎史子氏、ミラノ・コンテンポラリーセンター長であるロッセッラ・スピノーザ氏が迎えられ、翌年ミラノで開催される音楽祭での作品の選出も同時に行われた(またこの作曲コンクールのために、春に東京音楽大学で糀場、篠崎両氏によるワークショップが開かれた)。
ダニエーレ・ヴェントゥーリ《天使の弦(いと)》は、チェロとの二重奏。いわゆる現代的というのとは違う、穏やかな作風の中で、旋律の断片、アタック、和音などの素材が、時間の流れが停滞しないよう周到に配列されていた。論理的なモチーフ操作も空論に陥らず、全体をほどよく引き締めていた。そしてイタリア人らしい魅力的な色彩感(Hp.篠田恵理、Vc.松本卓以)。
田口和行《in the dark》はハープに闇、いいかえればオーボエの旋律が生まれ出て、やがて帰っていく場所(時に苦悩しながら)としての役割があたえられているという。この関係を明瞭にするため、オーボエとハープは舞台前方から後方へ直線上に並ぶ。変化に富んだ大胆な「旋律的創意」が、さまざまな音形・奏法(たとえばオーボエの重音とハープのトレモロとのからみ等)を包み込んでいる(Hp.片岡詩乃、Ob.林憲秀)。
竹岡智行《レゾナンスランデブー》はチェロとの二重奏。個性的な全音音階的発想(ジョージラッセルのリディアンクロマティックコンセプトを取り入れているという)が、脈絡のなさとギリギリのバランスで(ミニマル的な挿入句も含め)スリリングに成立していた。が、決して破綻することがないのは見事(1曲目と同じ奏者)。
山下創太《マズローの欲求段階説による組曲》は、5段階に分けられた人間の欲求と、そこでの他者との関係性をいわば2台のハープにシミュレートした5楽章の組曲。1曲毎のハープの役割が限定されることで、各楽章の性格が明確に描きわけられている(Hp.篠田恵理、片岡詩乃)。
山本哲也《誤謬》コントラバスとのデュオ。この2つの楽器で可能なフィギュレーションをすべて羅列していくという形で、曲が進んでいき、古典的な構成つまり再現性、のことを何も考えていない(作曲者述)。従ってモチーフ操作のようなものも全くない。しかしその羅列が結果として、大変「有機的」に感じられた。これはどういうことだ…? と考えこんでいたら、舞台上で彼が受賞者となっていた。納得。また、重ねてこの作品がスピノーザ氏によってミラノで演奏される作品に選出された(Hp.片岡詩乃、Cb.溝入敬三)。
作曲とは、パート間の関係を洞察する、いわゆる広義の「対位法」である。この日の5曲に、若い新たなその可能性を見た!