このたびは「朝日現代音楽賞」を受賞させていただくことになり、大変嬉しく思っています。
私が出来たての“現代音楽”を初めて演奏したのは、大学に入学した1963年に池辺晋一郎さんのピアノ曲を弾いた時でした。それ以後、上級生だった三枝成彰さん、内田勝人さん、平義久さん、同級の池辺さんや福士則夫さんなどの作品が出来上がると学内でよく演奏したものです。そして1968年、大学院1年の時に、石井真木さんから突然「日独現代音楽祭」で武満徹さんと篠原真さんの作品の演奏を依頼され、以来ずっと今日まで“現代音楽”をメインに演奏を続けてきました。
当時は現代音楽のコンサートというと、アメリカ文化センター後援の「クロストーク」シリーズもあり、「日独」のすぐ後にこちらでも演奏を頼まれました。その後「現音」のコンサートにも出演するようになり、1970年代には毎年のように顔を出す常連の演奏家の一人になっていました。でも最初の頃は、当然私が一番新米でしたから、ある時イイノホールの楽屋に入ろうとしたら、小学生の頃母に連れられて行った、初めてのオーケストラ演奏会でコンチェルトのソリストだった巖本眞理さんなど、錚々たる演奏家の方たちが座を占めていて、緊張のあまり中に入れず寒い外の廊下でたったひとり、じっと出番を待っていた思い出もあります。
「現音」ではいろいろな作曲家のさまざまな作品を演奏しましたけれど、実は1回だけ“指揮”をしたこともあり、懐かしい思い出のひとつです。曲は、松平頼曉さんの《What’s next?》というシアター・ピースでした。当時、私はNHKでよく劇伴の仕事をしていて、ちょっと手が足りない時に、もちろん小さな編成ですが、指揮をしたこともありました。でも、まさかコンサートで指揮することになるとは思ってもいなかったので、さすがに演奏仲間のフルートの小泉浩さんに頼んで、腕の振り方などを一から教わって本番に臨んだものです。私は左利きなので左手で棒を振ったのですが、NHKで放送された際、上浪渡さんが「あの曲は左手で振れという指示があるの?」と訝っていらしたのが可笑しかったです。
この「朝日現代音楽賞」についてはあまり詳しくなかったのですが、“競楽”コンクールの優勝者と現代音楽に携わる演奏家が交互に受賞するという仕組みになっているそうで、そのユニークな趣向は素晴らしいと思います。そして、一昨年に初めて審査を経験した“競楽”コンクールへの参加資格についても改めて読んでみると、最初に「国籍及び年令を問いません」と書かれていて、これにも感心しました。実を言いますと、受賞を知らされた時、驚くと同時に「こんな年令で頂戴してもいいのかしら?」と戸惑いもしました。でも、そういう事実を“不問”にして選んでくださった皆様に心から感謝いたします。どうもありがとうございました。