佐藤昌弘事務局長回顧録―2007→2011 最終回「2011年度:80周年記念事業Vol.2」

第5回・最終回「2011年度:80周年記念事業Vol.2」

この連載ブログも最終回を迎えましたが、今回は、2011年度についてお話したいと思います。2011年度の現音の三役は、まず4月はじめに理事の互選で、前年度に引き続き、会長に坪能克裕氏が、事務局長に私が選出されました。坪能氏の会長職は4年目を迎え、一方、私の事務局長職は連続5年となり、定款により任期は今年度いっぱいとなりました。私は事務局長最終年ということを意識して、ここ10年で初めて作品を出品せず、運営に徹することにしました。続いて副会長には、坪能会長の指名で、福士則夫氏と松尾祐孝氏のお二人が就任しました(松尾氏は80周年記念事業の実行委員長も兼務)。この三役のメンバーは、私が事務局長に初めて任ぜられたときの三役と同じメンバーで、当時は会長が福士氏、副会長が坪能氏と松尾氏でした。

2011年度は、二ヵ年に及んだ協会創立80周年記念事業の第二年で、とりわけ目玉となった企画は〈新しい音楽のカタチ 軌跡と未来 2daysコンサート〉と銘打った音楽祭でした。共催は朝日新聞社で、2012年の1月21日、22日の両日に亘り、浜離宮朝日ホールで開催されたことは記憶に新しいところです。本公演は、管楽器を中心とした室内楽、コンピュータ・ミュージック、ヴォーカル・アンサンブル(先日、第21回朝日現代音楽賞を受賞した西川竜太氏の指揮!)、ピアノ・デュオ、弦楽器を中心とした室内楽、といった5つの演奏会で、さらに、これら5公演中2公演のチケットをお買い上げ頂いた方々と現音会員だけが来場出来るボーナスコンサートが付きました。この音楽祭のコンセプトは「軌跡と未来」という副題にもあるように、1945年以降の現代音楽の軌跡を今一度振り返り、若い世代に伝えて行きたい国内外の現代作品を選りすぐって上演し、あわせて、未来へ向けた創造を意識した作品を会員より募って初演、再演することで、 現代音楽の歴史の俯瞰とこれからの可能性を示すというものでした。

「若い世代に伝えて行きたい国内外の現代作品」の上演曲の選定については、そのための小委員会を編成し、様々な検討を重ねて俎上にあげた曲を、さらに80周年記念事業実行委員会、現音理事会の双方の議場で熟考し決まりました。音楽的価値と歴史的重要性が大変あり、しかも近年演奏されることが珍しくなりつつある作品、ということが選定上のポイントでしたが、諸々の条件に照合して、止むを得ず上演を見送った作品があったことが残念でなりません!

2daysコンサートの最終公演「室内楽II」の最後演目は、松平頼暁理事の企画・作曲、中川俊郎理事のピアノ独奏による、「日本現代音楽協会会員80人のワンアタック素材による80周年記念ピアノ作品」の初演でした。この作品でのピアノのためのワンアタック素材は、単音あり、和音あり(中にはアシスタントが必要な程の音数のものも!)、クラスターあり、頭突き(!!)ありと様々。現会員から58名のワンアタックの提供があって、これに元会員の故人17名(1930年の創立時メンバー16名、ISCM音楽祭に日本支部推薦として初入選した1名、歴代委員長より5名)のそれぞれの作品から松平氏がワンアタックを抽出・引用して、かくて総計80のワンアタック素材が勢揃いし、松平氏の手で作品化したのでした。これは、過去と現在の現音会員による「合作」に他ならず、その初演は大変感動的でありました。この記念作品では、まさに80人の現音作曲家がワンアタックによって手と手をつないで「協創」し、「未来をつむぐ」ことをしたのだと思います。

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今回の80周年の記念事業は、60周年や70周年記念事業の規模に比べて小振りであったかもしれませんが、記憶に長くとどまる音楽祭、記念年になったと思います。

そもそも作曲とは個人プレイです。一人ですべての音を編み出し、作品を作る…。本来は孤独な作業を続けている作曲家という人種が、個人の工房から出て、表現の方向性も作風も主義主張も異なるさまざまな作曲家と手を取り合い、社会に向けて、80年もの長きにわたって創造的発信を続けているということに、私はとてもかけがえのないもの覚えます。そして、現音の会員であることに誇りを感じるのです。

5年間、私、および、日本現代音楽協会を支えて下さった全ての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

(おわり)

■2010年度の現音演奏会

●現音アンデパンダン展全2夜
・第1夜 2011.11/8 東京オペラシティリサイタルホール
・第2夜 2011.11/9 東京オペラシティリサイタルホール

●現音・特別音楽2011

◆世界に開く窓~古往今来
2011.11/24 東京オペラシティリサイタルホール
・第1部:第28回現音作曲新人賞本選会
【審査員】近藤 譲(長)野平一郎 山本裕之
【新人賞】酒井信明
・第2部:世界に開く窓~訳あり!?

◆新しい音楽のカタチ―軌跡と未来 2daysコンサート 第1日
2012.1/21 浜離宮朝日ホール音楽ホール/小ホール(※)
・室内楽I ―winds― with JSCMユース・チェンバー・オーケストラ
・コンピュータ・ミュージック~interactive computer music (※)
・ヴォーカル・アンサンブル~ヴォクスマーナ精緻なる響き

◆新しい音楽のカタチ~軌跡と未来 2days コンサート 第2日》
2012.1/22 浜離宮朝日ホール音楽ホール/小ホール(※)
・ピアノ・デュオ~藤井隆史&白水芳枝/瀬尾久仁&加藤真一郎
・辺見康孝×ケージ《フリーマン・エチュード》全曲リサイタル(※)
・室内楽II ―strings― with JSCMユース・チェンバー・オーケストラ

◆宮本妥子パーカッションリサイタル~閾を越えて
2012.2./17 京都芸術センター・フリースペース