この度は、第40回現音作曲新人賞を受賞し、大変光栄に思っております。今回は、クラリネットとサックスのための二重奏という編成で作品を創作しました。以前にはクラリネットソロやサックソフォン四重奏の編成で作曲した経験がありましたが、今回は初めてデュオの形式で作曲し、クラリネットとサックソフォンの組み合わせの可能性を探求しました。クラリネット奏者の菊地秀夫氏とサックソフォン奏者の坂口大介氏と共に、リハーサルを通じて奏法と音響の組み合わせの実験を行い、多くの貴重な意見を頂きました。他の方々の作品や審査員の先生方の講評を拝聴し、たくさんの勉強ができて、嬉しい限りでした。
私は作曲家として、最近関心を持っている分野の一つは、伝統的な音楽形式の拡張です。子供の頃から耳に馴染んでいた「タンゴ」に着目し、この賞に応募して作品を書きました。作中では、リズム以外に、「タンゴ」の音楽形式を想起させる音楽要素は殆ど使いませんでした。一方、この作品で一番探求したのは、「タンゴ」という単語に含まれる、音楽以外の意味です。「タンゴ」という単語の発音を聞く度に、ピアソラなどのタンゴの名曲が頭に響くかもしれませんが、よく考えてみれば、「タンゴ」は舞曲のジャンルとして、視覚的な要素も含んでいるかもしれません。例えば、タンゴに関するコンサートチラシ、アルバムの表紙、ファインアーツ、あるいはアニメ風のイラストには、よく舞者の二人が少し大げさなジェスチャーで踊る様子が描かれています。私はこの作品に、音楽慣習としてのタンゴを再現するのではなく、むしろ「タンゴ」が持つ他の側面や象徴的な意味を模索し、音楽を通じてその表現を試みました。具体的には、2人の舞者(ここでは、2つの性格の近い楽器によって象徴されています)が身体のジェスチャーを通じて、互いに配合する様子を音楽で描きました。
ちなみに、この作品のタイトルが単に「タンゴ」(Tango)ではなく、スペイン語の定冠詞エル(El)が付いた、「エル・タンゴ」(El Tango)、つまり英語の「The Tango」の意味となっています。その理由は、この作品は音楽としてのタンゴではなく、象徴としてのタンゴを追求する作品であるためです。
私は、どの音楽のジャンルの背後にも、その音楽以外の象徴があると考えます。異なるアプローチで既存のジャンルを探求することは、私にとって大変有意義だと思います。すでに耳に馴染んでいた伝統音楽を解体し、その中の象徴するものを探求し、または「脱構築」することは、現在の私の音楽の思考方向の一つであり、このコンクールのお陰で、色々な実験ができました。
最後に、このコンクールに携わる方々、奏者たち、コメントを頂いた審査員の先生方と参加者・聴衆の方々に深く感謝いたします。この機会を通じて得た経験は、これからの創作の道でも活用したいと思います。
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