この度、第41回現音作曲新人賞および全音賞を受賞いたしました奥田也丸と申します。拙作がバリトンの松平敬様、ヴァイオリンの佐藤まどか様、ピアノの及川夕美様という素晴らしい演奏家の皆様により演奏していただきましたことを、心より嬉しく存じます。また、このような機会を賜りましたこと、事務局や全音楽譜出版社をはじめ関係者各位に深く感謝申し上げます。
本選会に選ばれた御三方の作品を拝聴し、大変刺激を受けました。私は大学でも大学院でも声楽を専攻しておりましたため、古典的な歌曲の技法以外の声楽の使用法について考えたことがありませんでした。しかし、御三方の作品は、声楽を他の楽器と対等な関係で扱い、自由な形式で書かれていました。そのうえ、歌詞も誦文、意図的に平易で短く書かれた文章のリフレイン、ヴォカリーズなど、私では到底思い付かないような新鮮なアイディアに満ちており、非常に良い刺激を受けました。
「現音」作曲新人賞という名の通り現代音楽の作曲賞ですが、拙作にはラヴェルや原始主義時代のストラヴィンスキー、メシアンの影響が随所に見られ、意図的に保守的な書法を採用しています。本作品の詩が上梓された1925年頃の音楽に少し合わせたという理由もありますが、最も重要なのは、音の鳴っていない瞬間を印象付けるために鳴っている音のインパクトを抑えたことです。
採用した詩は萩原恭次郎の『死刑宣告』に収録された「ラスコーリニコフ」です。この詩に登場するラスコーリニコフは、ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公であり、高利貸しの老婆を斧で殺害する人物です。音楽を奏でる際も斧を振りかざす際も予備動作が生じますが、両者にはその意義に大きな違いがあります。音楽の予備動作は一般的に「ブレス」として肯定的に捉えられるのに対し、斧の予備動作は気付かれると目的を果たせません。本作品では意図的に予備動作を減らし、不規則な休符や前触れのないテンポの変化、演奏しにくい音型などを通して、演奏者や聴衆に違和感や不快感を喚起するよう工夫しました。
また、今回の作曲賞を通じ、多くの刺激を受けただけでなく、作曲家同士や演奏家の方々との交流が生まれたことも、大きな収穫でした。公正かつ質の高い作曲賞を実現された事務局や審査員の皆様に改めて感謝申し上げます。本作品は全音楽譜出版社から出版される予定ですので、楽譜を通じてその意図や構造を感じていただければ幸いです。また、この作品が再び演奏される日を心待ちにしております。
今回新設された全音賞を最初に受賞するという大変な名誉を頂戴し、より責任を持って作曲活動に励む所存です。現代音楽の可能性を追求しつつ、多くの方々にその魅力をお届けできるよう、引き続き努力してまいります。この度は誠にありがとうございました。
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