第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞受賞
原田真帆(ヴァイオリン)
───わたしはそこで音楽を見つけた。
颯爽と駆け巡る箏の音色。洗練された世界を作るピアノ。フルートの息遣いは竹林を抜ける風のように管を通り、サクソフォーンは音列を鮮やかになぞる。
曲が難解で、旋律がわからないと言われがちな「現代音楽」。しかし、現代音楽ほど、音そのものを楽しむ「音楽」はない と、わたしはその時強く感じた。わたしはもしかして、音を楽しむことを忘れていやしなかったか…? それは作品の時代を問わず、大切なこと。現代音楽はわたしにインスピレーションをもたらした。───
わたしの現代音楽との本当の出会いは「競楽」の舞台でした。もちろん「競楽」に向けて夏から現代曲に取り組んでいました。しかしコンクールという舞台までの道のりは、どうしたって孤独です。そして大概は本番だってどこか孤独ですが、「競楽」は違います。 会場のすべての人がこれから聴く新しい音楽に期待を募らせ、おもしろい音楽を見つけたいという目的を同じくした、こんなに一体感のあるコ ンクールは他にありません。
会場についた瞬間からその和やかな雰囲気に驚きました。それは「今日はどんな音楽が聞けるのかな?」と楽しみにしてい る人たちに由来するもので、わたしがこれまで受けてきたコンクールの極度の緊張に張り詰めた空気とはあまりに違い、とても新鮮でした。そして楽しみにしているのはお客さまのみならず、審査員の先生方や運営の日本現代音楽協会のみなさま、舞台スタッフの方々、果てはコンクール出場者すら!…つまり、その会場にいるすべての人が、好奇心に溢れていたのです。わたし自身、ファイナルの時は自分の演奏後、私服に着替えて会場に紛れ、けやきホールに響く音の渦の中にいました。
このコンクールはお客さん役もとても楽しいのです。聴衆参加型と言っても過言ではありません。本選終了後、ホールのロビーで結果発表を待っていたら、声をかけてくださった人がいました。その夜Twitterを開いてみたら、現音の公式アカウントがわたしのつぶやきをご紹介くださったおかげでフォロワーが増えていて、本選にいらしていた方からの温かいメッセージが届いていました。以来ずっとご縁がある方もいらっしゃいますし、まだお会いしたことはないけれど、いつか新曲を弾かせてくださいとお約束した若い作曲家の方もいます。失礼を恐れずに言えば、こうしたご縁は現代音楽によって結ばれた一種の「友情」のようです。
わたしをさらに驚かせたのはそのあと。競楽出演から半年後のことです。名前も知らなかった大学の作曲の同級生から、自分の新曲を弾いてほしいと連絡をもらいました。「競楽の本選を聞きに行ったら、同級生が出てきてびっくりしたんだ!」それ以降、彼女とも熱い「友情」を育んでいます。しかも彼女の曲を弾いて以来、ありがたいことにいろいろな方から新曲依頼をいただき、わたしは学内の作曲科の本番という本番に皆勤の勢いでおじゃまさせてもらうようになりました。その本番を聴いて、また依頼してくださる方がいて…今では新曲を持っていない時期はないくらい。「競楽」発のご縁は広がり続けています。
競楽のあと、おかげさまでソロ、オケを問わず演奏機会が増えました。競楽を聴いていた現代音楽評論家の方が、ご自身が企画する日本の現代音楽を弾く「オーケストラ・トリプティーク」にお声がけくださり、これまでに伊福部昭の映画音楽やその門下生の弦楽合奏曲を演奏しました。この6月には、前回の「競楽」で審査委員を務めた打楽器の上野信一先生の演奏会に、ソリストとして呼んでいただきました。恐れ多くも、審査委員だった先生方と、Facebookでは「おともだち」。お客さまと出場者、審査員と出場者のセッションもあり得るのが「競楽」のおもしろさです。
なにより、「競楽」ほど、出場者同士が尊敬・尊重し合うコンクールもないでしょう。特に本選の時は、本番前にファイナリスト同士で助け合ったことが忘れられません。その楽屋はコンクールのものにしてはとても和やかなものでした。本選後のレセプションの頃にはすっかり打ち解け、翌月の授賞式のあとの現音のパーティーでは、現音のスタッフさんと共に仲良く協力し合ってクイズに挑戦していました。出場者同士の交流は今も続いています。
結果として、わたしは審査委員特別奨励賞をいただきました。1位がほしくなかったと言えば嘘になるけれど、1位を狙っていたかというとそれも違って。まさか二次予選、本選まで残るとは予想もしなかったために、自分の本選曲の演奏を全うしたいという、ただ シンプルにそれだけの思いで本選を迎えたので、審査委員の先生方のそれぞれの点数と講評もうかがって納得したわたしには、その結果に悔しさはなく、ささやかな誇りと成長の種を得つつ、喜びを持って受け入れました。それは、本選で聴いていた上位入賞の方の演奏を、すばらしいなと思ったゆえでもあります。
わたしが参加した「競楽X」の3日間、けやきホールはクリエイティビティとチャレンジ精神に溢れていました。この、演奏家・作曲家・聴衆の誰もが楽しい、創造性のフェスティバルのような「競楽」。今年はぜひあなたも体感してみませんか。
▼第11回現代音楽演奏コンクール“競楽XI”予選日程
公開審査/入場無料
▼予選初日
2014年11月7日(金)10:00開場/10:10開演
けやきホール(代々木上原)
グループA 10:10頃〜11:07頃
グループB 11:25頃〜12:30頃
グループC 13:30頃〜14:29頃
グループD 14:45頃〜15:50頃
グループE 16:10頃〜17:03頃
グループF 17:20頃〜18:14頃
グループG 18:30頃〜19:10頃
▼予選2日目
2014年11月8日(土)10:00開場/10:15開演
けやきホール(代々木上原)
グループP 10:15頃〜11:18頃
グループQ 11:35頃〜12:33頃
グループR 13:30頃〜14:28頃
グループS 14:45頃〜15:42頃
グループT 16:05頃〜17:10頃
グループU 17:25頃〜18:00頃
以上、2日間 全62組
★予選審査結果発表は11月8日19:00頃ホールロビーにて行います(翌日ウェブ発表)
※全参加者/団体は、A~Uまでのグループ名と数字で表され、番号順に審査を行います。
※1グループは4〜5組程度、楽器編成毎ではありません。
※参加者/団体の演奏曲目、編成は当日ホールロビーに掲示します。
審査委員長:中川俊郎(作曲家・ピアニスト・日本現代音楽協会副会長)
審査委員:
北爪道夫(作曲家・東京音楽大学客員教授)
福井とも子(作曲家・大阪音楽大学講師)
福士則夫(作曲家・桐朋学園大学特任教授)
安良岡章夫(作曲家・東京芸術大学音楽学部教授)
●日程:
予選 2014年11月7日(金)8日(土)
本選 2014年12月7日(日)