2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎

2013年度富樫賞受賞の言葉〜平野一郎
《海の幸・天平の面影~蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為の二連画》(2013)[編成:Soprano, Piano]

平野一郎この度、第30回現音作曲新人賞にて富樫賞および聴衆賞を受賞致しました、平野一郎と申します。
貴賞の存在は以前より知悉しておりましたが、今回初めて応募したのには、主に二つの理由がありました。先ずは、“日本語を歌う”という課題。「日本語から何を承け、どのような新しい歌が提示できるのか」という問いに、真の今日的意義を感じた事です。貴賞始まって以来初の日本語声楽作品の募集であったと後に知り、出品への納得は一層深まりました。次いで、作品に相応しい演奏者の選定・依頼を作曲者自身で行う、という規定です。演奏者に受肉して初めて産まれる音楽、そこに直に責任を負える、という点に確かな賛意を覚えました。
本選会では、ソプラノ・吉川真澄氏とピアノ・堤聡子氏のお二人が、通り一遍でなく作品世界の内奥に踏み込み、内的共感と技術的追求を併せ持つ素晴らしい演奏で作品を送り出して下さいました。選考会という特殊な状況にも関わらず、理想的な初演を果たせた事に、歓びと安堵を感じております。
拙作〈海の幸・天平の面影 〜蒲原有明(かんばらありあけ)の詩に拠る二連画(ディプティーク)〜〉は、有明の同時代の二絵画(青木繁「海の幸」・藤島武二「天平の面影」)への讃としての同名二詩に拠る歌曲です。一見古めかしい“歌曲”という衣の裡に、歌と日本語の淵源からの来歴を誄(しの)ばせ/顕わすという企てに、どのような反応と評価が下るのか、私自身も興味津々でした。
選考の結果、由緒ある富樫賞を贈賞頂いた事は、私にとって大きな励みです。講評後、ご臨席だった故・富樫康氏の奥様と面会させて頂き、富樫氏と亡き師を巡る思い掛けぬ繋がりを慥かめ、不思議な縁を覚えました。聴衆賞も、もう一つの大切な励みとなりました。ご来聴頂いた多くの皆様から示された、作品への篤いご支持とご共感を心に刻みたいと思います。
こうして得難い祝福を受けつつ誕生した新作が、専門の領分から広い世の中に飛び出して、様々な場処で人々の心底に届き、やがて根付いていく事を希っております。

 

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