季節の移り変わりが早いとは言え、昨秋に寄稿させて頂いて以来、すっかり時間が経ちすぎてしまいました。ボストン・マラソンのテロからも、早いものでもうすぐ2ヶ月。6月に入って、こちらも梅雨のように雨が降り続いています。街には緑が溢れ、平和への祈りとともに、また穏やかな時間が積もっています。
先月、西海岸を旅行してきました。ボストンからロサンゼルスまで飛行機で飛び、そこからキャンピングカーに乗りヨセミテ国立公園、セコイア国立公園、ラスベガスを経てグランドキャニオンと、アメリカの大自然を周る10日間― その中で、印象的な音たちとの出会いがありました。
ロサンゼルス近くの海辺を散歩していた夜、ドアを開け放した民家のテラスに数人集まり、思い思いに太鼓を叩いたり笛を吹いたり、それに合わせて鼻歌のように歌を口ずさんだり・・バークリー音楽院のウエストコースト・ジャズの授業でヒッピー音楽にも少し触れ、何とも言えない湿度を帯びた魅力を感じたのですが、この時も、西海岸独特の開放的な土地と気候、そこに刻まれてきた歴史と音たち、全てがこの歌とゆるやかに溶け合い、波打っていました。セコイア国立公園に聳える、樹齢2000年を越す巨木の穏やかな葉擦れの音、グランドキャニオンに昇る朝日を背に飛び立つ鳥たちの羽音、 デスバレーの砂漠地帯で暮らす家族が焚き火を囲んで歌う優しい旋律 、サンタモニカの潤いに満ちた夜の海風、それぞれの地で生まれ、奏でられ、歌われてきた音楽たち・・全てがあまりにも自然に揺蕩い、「音」と「音楽」との境界を滲ませ、なくしているように思われました。
ここに生まれ育っていたら、どんな音に包まれ、どんな音楽を書いていたのだろうと想像を巡らせながら、そして音と音楽の境が消滅する、その淵への出逢いを求めて、まだ見ぬ様々な地へ、そして自分自身のルーツと音の中へと、旅への楽しみが膨らみます。
最後に、友人に教えてもらった動画をご紹介させて頂きます。たまたま同じ地下鉄に乗り合わせた2人のサックス奏者による、車内で始まった即興演奏。ニューヨークの魅力が溢れます。こちら、ボストンは今年もタングルウッド音楽祭のシーズンが始まりました。この季節になると 、紫陽花に乗っていた雨粒を、友だちと弾いて遊んだ通学路を懐かしく思い出します。美しい季節を、どうぞお元気にお過ごしください。
(2013.6.12. Mai Fukasawa)
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