早いもので、あっという間に夏を通りぬけ、清々しい風に落ち葉と秋の香りが混じり始めました。Berklee音楽院も秋学期が始まったようで、久しぶりに校舎の前を通ると、新学期独特の賑わいと共に、新校舎の工事も始まっていました。今回は、Film Scoringのコース前半の専攻授業について、いくつか書かせて頂きます。
8. 授業内容―Film Scoring
基礎科目を終えると、皆それぞれ専攻科目の授業へと進みます。こうした授業は専攻生しか受講できないので、5〜10人ほどの少人数でゼミのように行われます。
◆Introduction to Film Scoring
その名の通り、アメリカでの映画音楽に関する基本的なことを学びます。映画やテレビ番組がどのように企画、制作されるのか、音楽面だけでなく、ビジネス面での予算、契約のことなどもテーマとなりました。この授業の先生は、現役でハリウッド映画の音楽制作にも携わっていらして、ポロリと聞かせて下さる裏話も貴重でした。
◆Computer/Synthesis Applications for Film Scoring
この授業では、Digital Performerというソフトでの打ち込み、編集、映像とのリンクなどの基礎的なことを学んでいきます。Film Scoring学科専用のラボがあり、授業以外の時間帯は予約制で機材やソフトを使用できるので、課題提出前などは、皆で夜まであれこれと助け合いながら課題の準備もした、思い出深い空間です。
◆Analysis of Dramatic Scoring
映画音楽を毎週分析し(中でもヒッチコックの映画がよく取り上げられました)、同じ映像に音楽をつけたり、与えられたテーマや素材をもとに小品を書いていきます。Digital Performerの授業と同学期に受講することになっており、打ち込みの音源と楽譜を毎週提出するので、ソフトの良い訓練にもなりました。
◆Video Game/Interactive Music
ビデオやウェブサイトの音楽を重点的に学ぶ授業でした。先生も受講生も、音楽だけでなく映像の制作にも詳しく、初めて聞く用語が毎週飛び交いました。Film Scoring科を卒業した後、こうした方面に進む学生さんも多く、確かにこれからどんどん需要が広がりそうな世界、授業も珍しく大人数の人気講座でした。
授業では、出された作品や意見についてよくディスカッションをするのですが、幅広い世代のクラス仲間で飛び交う意見は、いつもカラフルで清々しい刺激に満ちたものでした。また、’Keep it Simple!’ ‘Blieve in yourself!’・・授業や即興のセッションなど、あらゆる場面で先生方が皆に繰り返し伝えて下さったこの二つのフレーズが、Berkleeでの合言葉のように繰り返し思い起こされます。
そして先月末、ボストン5年目にして初めて、タングルウッド音楽祭に行ってきました。1歳の息子も一緒ですので、外の芝生席を予約。ボストンからは車で3時間ほどのドライブです。森に広がる広大な敷地(ボストン交響楽団に寄贈された、21エーカーもの別荘地です!)がそのまま音楽祭の会場となっており、今回訪れたコンサートはThe Serge Koussevitzky Music Shedというホールだったのですが、同じ敷地内にあるセイジ・オザワホールも外から見ることができました。開演は20時半でしたが、夕方にはもうかなりの人が到着していて、各々持参したピクニックシートやテーブルに早めの夕食を広げてワインで乾杯していたり、敷地内をのんびり散策していたり ・・楽しそうに駆けまわる子供たちの姿も印象深く、未来の音楽家や聴衆の種がこのようにも蒔かれていくのだと実感を新たにします。この日はあいにく雨が降ったりやんだりだったのですが、開演する頃には森を優しく覆う霧となりました。プログラムはアンドレ・プレヴィンの委嘱作品、ヨーヨー・マ独奏のエルガーのチェロ協奏曲、そして、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。最後の1音の余韻が霧に溶け、葉擦れの音に包まれていく瞬間を、その場にいる全ての人々が聴き届けた深い、深い静けさ・・音楽と自然の魔法に満ちた、素晴らしい体験でした。
ボストン交響楽団のサイトで、音楽祭のコンサートの録音を聴けるようになっています。
そろそろハロウィーンに向けて、大きなカボチャが店頭に並び始めました。カフェの看板には、温かいアップルサイダーやパンプキンパイの文字が美味しそうに並んでいます。 日本もこれから美しい秋の季節、今から紅葉のニュースが楽しみです。
(2012.3.27. Mai Fukasawa)
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