2012年度富樫賞受賞の言葉〜佐原洸・平川加恵

【富樫賞】審査員が富樫賞にふさわしいと判断した作品に贈られる審査員奨励賞。2012年度、第29回現音作曲新人賞の「富樫賞」は、佐原洸さん・平川加恵さん(表記は50音順)の2名に贈られ、賞金10万円は分割授与となりました。

 

2012年度富樫賞受賞 佐原洸
《Hydrargentum》(2012)[編成:Fl, Cl, Vn]

まず最初に、審査員の先生方、演奏者の皆様方をはじめ、関係者の皆様方、お越しくださいました皆様方に心から感謝申し上げます。この度の本選会へ向けての日々は様々な観点から大変貴重な経験でした。

率直なところ、富樫賞受賞の言葉としてはこれ以上申すことがないのですが、それだけではあまりにも味気無いので、本選会を終えて考えていることの幾ばくかを以下に記したいと思います。

本選会は想定した通り、一貫性を保ちながらもそれぞれの個性が感じられる作品が並びました。私と近いもの、私に欠けているもの、私が捨ててきたもの…様々な要素が見え隠れする本選出場者の諸作品が自らにとって何らかの示唆を与えたことは言うまでもありません。そして、そのように多様な作品を聴いて、また、様々な方のご意見を伺って、自分はどういう音楽を作りたいのだろうか、それによって自分が果たすことのできる役割とは何だろうか、といったことを以前にも増して考えるようになりました。この意識の変化が、この度の私にとってもっとも大きな収穫のひとつであるといえるでしょう。

後者は抽象的な内容になるのでここでは触れませんが、前者は「強い音楽を作りたい」というある程度はっきりした言葉で表すことができます。それは、音楽を音楽せしめる何か:音の羅列を音楽だと人に思わせる、普遍的な何かを捉えた音楽のことで、それは私の中で作者性の発露であったり、個性の爆発という強さとは、対極とまではいかないまでも、異なる位置にあるものです。もちろん個性の類が物書きにとって非常に重要なものであることは言うまでもありませんし、作家にもっとも求められているものかもしれません。自分に欠けているものかもしれない。それらを認識した上でなお私が普遍的なものを求めるのは、そこに個性だけでは得ることのできない何かを感じるためであり、それを掴んだ状態から作曲というものを改めて見つめてみたいと願うためです。

抽象的な話になってしまいましたが、本選会終了後、このようなことを頭の片隅に置きつつ日常を過ごしています。次はこの理念を作品へと具体化しなければいけませんね。励みます。最後に、重ね重ねになりますが、この機会に携わっていただきましたすべての皆様に改めまして万謝申し上げます。

 

 

2012年度冨樫賞受賞 平川加恵
《3人の奏者のための組曲》(2012)[編成:Cl(B-Cl), Vn, Pf]

このたび、現音作曲新人賞本選会の舞台で応募作品を演奏していただけましたこと、大変光栄に思います。心より御礼申し上げます。

作曲を勉強する者にとって、書くこと自体はいつでもできますが、実際に音として、自分の実現したかったことが果たしてどこまで効果を得ているかを聴いて確認することのできる機会に恵まれることはなかなか容易ではないと思います。今回書いた作品に素晴らしい演奏者の皆様に命を吹き込んでいただけたということは、何よりの勉強の機会でありました。また、私にとって、思いを巡らせ、紡いできた音の数々と対面するという至福の時間を過ごさせていただきました。

今回この作品がこのような評価をいただき、今後のさらなる探求への意欲が高まったとともに、新鮮な発見に満ちた作曲活動をしていきたいと強く思いました。 また、自分が練り上げた音楽が音として再び生まれ、それが聴衆の皆様に伝わり、「聴衆賞」という大変光栄な結果をいただいたことはこの上ない喜びです。

この機会で得た課題、収穫、自信を活力に変え、益々精進していきたいと思います。

 

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