こんにちは! ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。
今週末からはゴールデンウィークということで、あともうひとふんばりという方、またはほっとしている方もいらっしゃるでしょう。
わたしはというと、子供の頃は学校大好き人間だったのでGWをうっとおしく感じていたのですが(せっかくできたリズムも崩れるし、家にいるとヴァイオリンをたくさん練習しないといけないし)、大学生になってからはGWのありがたみを感じるようになりました。休める!と思えばこそ新年度の忙しさも乗り切れるというものです。
しかし残念ながらイギリスにはGWがありませんので、手帳の赤い日を塗りつぶしながら使っています。29日は師匠が音楽監督を務める音楽祭に出向いて、師匠が演奏する『四季』のバックを務める予定です。会場はなんとオックスフォード! 美しい街と聞き、いつかは行ってみたいと思っていたので非常に楽しみです。
閑話休題、本日は「四季」ならぬ「指揮」をテーマに綴りたいと思います。
指揮の授業@英国王立音楽院
先日、作曲科のための指揮クラスでお手伝いをしました。弦楽器と管楽器6名程度のアンサンブルを実際に指揮するという試験で演奏するお役目です。10名前後の作曲科の院生がかわるがわる真ん中に立っては振り、立っては振りを繰り返します。試験といっても、先生のアドバイスやレクチャーも入りレッスンさながらでしたが、皆一様に緊張していた様子から、その顔を見るたび、やはり試験なんだなと思わせられました。
中には指揮経験がある人もいて、そういった人は立ち居振る舞いもタクトを握ってからも実に落ち着いていましたが、多くは「指揮はほとんどしたことないよ…」という人で、演奏者を前に強ばる顔や肩を見ると思わず「その心中お察しします…!」と声をかけたくなります。任務は任務なので棒の速さが変わったらその通りぴったり合わせて、ときにアンサンブルが崩れてもそのまま流れに身を任せていましたが、なるべく優しい視線を送り続ける努力をしました。
作曲科限定の指揮クラスというのはおもしろいなぁと思って、というのは最終目標が「自作を振れるようになろう」ということで、拍子が変化する箇所の指導が重点的にされているように感じました。器楽科では学部1・2年向けに指揮クラスが開設されていて、のぞいたことはありませんが、オケの子たちはお互いにオケパートを担当しながら、ピアノの子はまた別にピアノ連弾で交響曲などを弾きながら指揮の授業を受けるそうです。楽器ごとに指揮との関わり方は変わってくるので、分野別に指揮クラスを設けるのはいいなぁと思いました。ちなみに必修らしいです。
指揮の授業@東京藝術大学
わたしは藝大時代に学校で副科指揮という授業を取っていました。日本の場合ですと音楽科の教員免許状取得には指揮が必須ということで、卒業要件単位ではありませんが多くの人が受講していました。クラスは曜日や時間を変えて3つほどありましたが、レベルはどれも特に変わりなく、自分の都合の良い時間や好きな先生のクラスを取ります。そのため授業には作曲から邦楽まで、様々な専攻の学生が集まっていました。それはそれで、ひとクラスの中でいろいろな楽器の話が聞けておもしろいですよね。
止むを得ず取っている人が半数いるゆえに、中にはやる気のない人もいました。けれども作曲家として自作を振れるようにならなければという人や、自衛隊の方などわざわざ科目等履修生の申請をして受けに来ている社会人の方々のように、真剣な方もいらっしゃいます。わたしはやる気のない人の空気に飲まれないように、一生懸命五感をそばだてていました。
担当教員は小田野宏之先生で、クールな顔して熱い指導はユーモアに溢れていました。わたしたちが受けたのは、先生がクラスを持っていた最後の年だったのですが、毎年小田野クラスは先生と生徒のコミカルなやりとりが評判だったようです。そして学生に合わせて課題曲をピアノで弾いてくださるのが、寺嶋陸也先生という豪華っぷり。今改めて考えると「なんちゅう贅沢な授業なんや!」という感じです。「寺嶋先生のピアノはまるで本物のオーケストラのように聴こえるんだ」という小田野先生の口癖は決して誇張ではなく、わたしは一緒に授業に参加していたヴァイオリンの友達と共にすっかり寺嶋先生のファンになってしまいました。ほぼ皆勤賞で授業に通えたのは、半ば先生のピアノを聴くためだった気もします。
卑弥呼と指揮
わたしも教職課程を取っていたので指揮は必須ではありましたが、わたしの場合はたとえ必修でなくても指揮の単位を取っていたでしょう。もともと指揮に対する関心が高く、そうして誰かに習う以前からひっそりと指揮棒を握りスコアを見て自己流に振っていたからです。
中学時代は合唱コンクールがありましたからそこで指揮を務めることもできたのですが、ああいう場の指揮者ってパフォーマンス性が高くないと評価されないんですよね…なんていうのは屁理屈で、実際は指揮者になると実行委員会も務めなきゃいけないという煩わしさや、恥ずかしさが勝って立候補は一度もしなかったのですが。
でも藝高時代には何度か指揮台に立ちました。教育実習生が来たときに、一度授業内でモーツァルトのレクイエム(ただしキリエのみ)を演奏しながら分析する企画がありました。先生に「来週の授業で誰か振ってくれる人〜?」と言われて、思わず「え、やりたい」とつぶやいた卑弥呼。そのときの座席が後ろのほうだったので、勇気が足りなくてなかなか教壇に届く声が出せなかったのですが、周りの友人が声を拾ってくれたおかげで、それがわたしの実質・初指揮台となりました。
初めてオーケストラの真ん中に立って、しかも奥に合唱までいて、そもそもスコアは段がありすぎてめくりが大変でした。ただ、その年は全校生徒でモーツァルトのレクイエムに取り組んでいて、これ幸い自分はアルトを歌っていたので、なんとか1曲振ることができたのが、わたしの記憶の中でひとつの成功体験として残っています。
音楽能力的には周りより圧倒的優位な公立中学校時代は何もしなかったくせに、よく藝高で振るなんて言ったもんだなと思いますが、その機会があったおかげで以後オーケストラの自主練習で何度かタクトを任せてもらう機会がありました。何度か指揮台に立った経験を通して、わたしは思ったのです。幼い頃、いっちばん最初に持った将来の夢「指揮者になる」を、今一度真剣に考えてみてはどうだろうか…と。
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この続きは長くなりそうなので、また次回といたしましょう。次回、「指揮素人の卑弥呼がオーケストラを振る!?」をお送りします。お楽しみに!
文・絵:原田真帆
栃木県出身。3歳からヴァイオリンを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。現代音楽にも意欲的に取り組み、様々な新曲初演を務める。オーケストラ・トリプティークのメンバー。これまでに萩原かおり、佐々木美子、山﨑貴子、小川有紀子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵の各氏に師事。現在英国王立音楽院修士課程1年在学中、ジャック・リーベック氏のもとで研鑽を積んでいる。