フォーラム・コンサート第2夜のプログラム・ノート 

フォーラム・コンサート第2夜 (11月24日)  出品作曲家プログラム・ノート

フォーラム・コンサート出品作のプログラム・ノートを先行公開します。
作曲者によっては追加メッセージもあります。

「作品について」をお読みになると、聴く前から曲のイメージが膨らむのでは。
11月24日には、これらのメッセージが実際にどのように音像化されているかを確かめに、
是非とも東京オペラシティリサイタルホールまで足をお運びください。

①  大平泰志
ダンテスダイジの詩による二つの歌曲
(作曲2022年  初演)

OHIRA taishi
two songs from dantesdaiji`s poems

◎作曲者プロフィール
日本現代音楽協会会員 第24回TIAA全日本作曲コンクール審査員賞 第25回入選 第26、27、28回 奨励賞 広島大学名誉教授三好啓二先生に師事 第二回k作曲譜面審査コンクール 優秀賞 第三回3位 第13回フィデリオ作曲コンクール6位 第9回、10回東京国際歌曲作曲コンクール入選

作品について
禅者であり、最終解脱者でもある、ダンテスダイジの詩に曲を付けました。

性と死というコインの表裏のような関係にある2つの主題を選びました。
「性愛」はエロスを通じた悟りに関する詩であり、「いつ死んでもいい」はより人生的な悟りに関する詩である。


②  楠知子

組曲 気候変動IV 静と動
(作曲/改訂2022年 改訂初演)

KUSUNOKI Tomoko
Ⅳ stillness and dynamics from Climate Change

作品について
 コロナワクチンの開発で人類の壊滅的危機は回避されたのも束の間、春には、デジタルメディアによって、東欧の紛争が連日報道された。私も微力ながらと、思いを馳せ、自宅でその国歌のメロディーに伴奏をつけてみた。すると、哀愁を帯びた短調と長調の未分化のものが聞こえる。その国民は、世界各地に避難している。(A)この思いを現代曲にしてみた。(B)一方日常はコロナ節制の持続によりイベントの中止、交通量の減少、そして温暖化による雨量の増加で、晴れた日はとくに美しい。メディアを知らない幼児たちは喜々として遊び回る。曲はABA の3部形式で、デジタルのRecorderとTubaとPianoによるアンサンブルとなる。
 現音事務局の竹田氏にデジタル再生でお世話になりました。ここにお礼申しあげます。

◎作曲者プロフィール
東京芸術大学作曲科卒業。作曲を池内友次郎、矢代秋雄、佐藤眞、永富正之、原博の各氏に師事。ピアノを石澤秀子氏、現在は岡本暁子氏に師事。日本音楽集団研究団員修了。インディアナ大学大学院作曲科他留学。日本現代音楽協会、日本作曲家協議会会員。日本音楽著作権協会信託者。

ガウディアムス国際コンクールオーケストラ部門、室内楽部門入選。現音60周年記念事業の(女性作  
曲家の夕べ)に(遷II)を出品、その記念事業の出品者の団体の一員として、音楽之友社賞を受賞。

 

③  桃井千津子
Go Down the Rabbit Hole
(作曲2022年  初演)

MOMOI Chizuko
Go Down the Rabbit Hole

◎作品について
タイトルは『不思議の国のアリス』が由来の慣用句である。“Hole” はフルートの歌口を連想させることから、奏者によってそれが塞がれ、ウサギから連想される時計の音も加わって終わる本作品は物語の想像も可能ながら「異なる状況」がテーマとなる。曲は3つに分かれ、賛美歌風(過去)、フーガ風(現在)、舞曲風(未来)の雰囲気をもつ。作曲者が決めた旋法の使用により、各曲の音響は想像通りであるうえに、冒頭の短三和音は現代音楽では違和感しかない。それも含め「ドリア」は記憶の薄れ、「オクタトニック2種」はコロナ渦の最中、「完全4度の連続も含むぺンタトニック5種」で未来を予想、これらを順列による(小節ごとの)使用音で「異なる状況」の表現を試みた。3曲の共通項はパット・メセニーグループ代表作のひとつ“The First Circle”のリズム(3+2+3+2+2)(3+3+2+2)とその裏拍の使用であるが、拡大、縮小をはじめ、ジャンルや使用楽器、使用音も全く異なるため、原曲の雰囲気はない。

このたび、演奏を快く引き受けてくださった鈴木茜さん、筒井紀貴さんに感謝し、また会場や配信で聴いてくださる方にも厚くお礼申し上げます。

◎作曲者プロフィール
国立音楽大学大学院作曲専攻修了、同大学院博士後期課程単位取得満期退学。旋法間の関係を叙述する分析概念の執筆や発表、最近ではクラシック音楽の魅力を伝えるティーチング・アーチストへの助演、作曲、編曲ほか、学校や公共施設に生演奏を届ける活動などがある。日本現代音楽協会、日本音学会、各会員。

 

④堀切幹夫
メディテーション
(作曲2007年 初演)

HORIKIRI Mikio
Meditation

◎作品について
短い間だったけれど、共に生活をした女性との思い出がある。属九の和音(それは彼女の豊かな肉体の響きだ)をベースに、8分の12拍子のゆったりした波形のPfにのって、親しくも甘えるように、Vcが歌われる。途中Vcのトレモロにのって、高音域で明るく輝くが、またPfのオブリガートを付けてVcの甘えるテーマ、盛り上がり、Vcの反復音の上、Pfが高々と頂点を極める。トリルをまじえて次第にしずまり、次の段階は、やや空想的ヴィジョン的哀願。せめいだ後に16分音形が出て、Pfのアルペジオにのって、彼女の素直な心のテーマが、Vcに出る。盛り上がり、16分音形が拡散して、第2のセクションである。Pfのオスティナートにのって、さまざまにVcが飾る。Vcにオスティナートがうつり、Pfもからまり盛りあがった所で、Pfのトレモロ上にVcで彼女の甘えるテーマが強奏される。静まって行き第3の部分は4分の4拍子、Adagioだ。瞑想的な平和な和音が、静かに響く。Vcのモノローグがゆっくり上昇した所でPfの右手に波形、左手にもっと大きな波形が出てささえ、Vcがその和声をかえて甘えるテーマを3回歌い、後楽節を2回で静まり、歌い終える。Pfが彼女の肉体の響きを全音域にわたって響かせ、Vcがハーモニックスできめて13分のメディテーションは終わる。

◎作曲者プロフィール
1953年、東京生まれ。1968年、清瀬保二氏に師事。1978年、病のため東京藝大中退。

 

⑤  木下大輔
ゆがんだ十字架のヴァリアント ―ピアノ独奏のための―
(作曲2008年  再演)

KINOSHITA Daïsuké
Variants of Deformed Cross : for piano

◎作品について
鋸刃のごとくジグザグに上下する4音の音型を、音楽修辞学で「十字架の音型」と呼ぶ。この作品ではシ/ド♯\ソ/シ♭の音型を用いる。この4音は音程関係がシンメトリーではない。すなわち「ゆがんだ十字架」。曲は、この音型にもとづく主題と、その自由な性格変奏6篇(1.荒々しい点描と憂鬱な旋律、2.スケルツァンド、3.レチタティーヴォ、4.甘美な子守歌、5.フーガ、6.力強いコーダ)から成る。

◎作曲者プロフィール
横浜市出身。東京藝術大学大学院音楽研究科修了。尾高惇忠氏に師事。日本の音楽展作曲賞、奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門など受賞・入選歴多数。作品は、アジア作曲家連盟音楽祭をはじめ国内外各地で頻繁に演奏されており、カワイ出版、音楽之友社などより楽譜出版、CD発売。2016・2017年に個展演奏会を開催。東アジア国際現代音楽祭招待作曲家。現在、日本教育大学協会全国音楽部門代表、宇都宮大学教授。

主要作品 夏のソナティナ(Ob,Pf)、24の抒情的小品(Pf)、夢のみち(Mix-cho,Pf/詩:桑原茂夫)、現代の秋(Pf)、瓦解の宴(Fl,Cl,Bn)、影(Vib,Perc)、音楽の旅(Pf連弾曲集)、晴れた日の記憶(Cl,Pf)、追分(Vc)、弦楽三重奏曲、三つの女の歌(Sop,Pf/詩:吉原幸子、新川和江)、偏西風(Mar)、夏の旅(歌曲集/詩:立原道造)、ほか。

CD『こだま号で行こう!木下大輔ピアノ作品集』Pf:堀江真理子、前田拓郎(ナミ・レコードWWCC-7964)好評発売中。

追加アピール文
2008年作曲。つまり、東日本・熊本・胆振の大地震も原発事故も安保法制もモリカケ桜もコロナ禍もデタラメ塗れのオリンピックもウクライナ戦争も、まだ何も知らなかった。しかし、世の中の分断、右傾化といった兆候をすでに感じていたのだろう。ストレスフルな作品だ。それが2022年の今どのように鳴り響くか。

 プログラムノートに書いたとおり「ゆがんだ十字架」とは主題の音型のことだが、シェークスピアが眠るストラトフォード・アポン・エイヴォンの聖三位一体教会や、作曲家デュリュフレがオルガニストを務めたパリのサンテティエンヌ・デュ・モン教会の建築構造にも見られ、内陣と身廊の縦軸のゆがみが磔にされたイエスの傾いた頭を表現しているという。

 

⑥  露木正登
クラリネット・ソナタ第3番(嘆きの歌)(2022)
(作曲2022年  初演)

TSUYUKI Masato
Clarinet Sonata No.3(A Song of Sorrow)

◎作品について

 2022年6月から10月末にかけて作曲。
 クラリネット奏者・鈴木生子さんのために2019年から書き始めた「クラリネット・ソナタ」シリーズの第3作目である。
曲はクラリネット独奏によるプロローグとエピローグを伴った3つの楽章により構成され、プロローグと第1楽章、および第3楽章とエピローグは続けて演奏される。また、各楽章には次のような表題がつけられている。すなわち、プロローグは「嘆きの歌1」、第1楽章は「5つの情景と嘆きの歌2」、第2楽章は「間奏曲」、そして第3楽章は「嘆きの歌3」である。
 クラリネットはA管が使われ、A管ならではの表現力と深みのある音色を生かことに腐心したつもりである。  
 なお、サブタイトルについてはとくに深い意味はない。主要楽想が2度下行(ため息を表現する)を特徴としていることや、第3楽章の冒頭部分で奏されるクラリネットのラメント音型がジョン・ダウランド(1563-1626)の有名な「流れよ、わが涙」の冒頭部分の音型と一致することから、サブタイトルを「嘆きの歌」とした。
 また、サブタイトルに「歌」という言葉を含むことで、昨年のフォーラム・コンサートで初演した《無言歌集~バス・クラリネットとピアノのための(2021)》との音楽的関係を示している。
 いつも拙作の初演を引き受けてくださる鈴木生子さんと及川夕美さんには心から感謝いたします。

◎作曲者プロフィール
第6回朝日作曲賞(吹奏楽)受賞。第3回国立劇場作曲コンクール佳作。第12回吹田音楽コンクール作曲部門第3位入賞。
2022年6月、《交響的譚詩(1995)》と《「かごめかごめ」の主題による幻想曲(2005)》の2つの吹奏楽作品がティーダ出版から、2015年9月、《トリプティーク~サクソフォン四重奏(2015)》がブレーン(株)から出版されている。 
 2022年7月9日に開催された《黒田鈴尊尺八独演会2022》において《哀悼歌(メディテーション)~尺八独奏のための(2019)》を初演、好評を受けた。

 

⑦  河内琢夫
《夕闇のかなたに》~マリンバ独奏のための
(作曲2019年 改訂2022年  改訂初演)

KOCHI Takuo
“Beyond the dark” for Marimba solo

作品について
2020年4月に開催された高橋治子マリンバ・リサイタルで初演された《黄金のトナカイ》~独奏マリンバのための2つのペトログリフスのなかの1曲であるこの作品は北海道小樽にほど近い余市町にあるフゴッペ洞窟の古い壁画に触発されて作曲。この壁画の作者はアイヌ以前の人々と考えられており、当時の人々の姿が活き活きと描かれている。私が初めて小樽近郊を訪れたのはある冬の寒い夕暮れ時だったが、曲のタイトルと全体のムードはその時の心象風景でもある。かつてその地で確かに生き、やがて黄昏の彼方へと去っていった人々に捧げる悲歌。

作曲者プロフィール
洗足学園大学音楽学部(現洗足学園音楽大学)作曲専攻卒業後、同大学専攻科修了。作曲を宍戸睦郎氏に師事。第3回Music Today 国際作曲コンクール(企画構成:武満徹)入選、ISCM World Music Days(ルーマニア)入選。2021年12月「河内琢夫の音楽/室内楽作品個展III」を開催、ライヴCDがエコ・アース・レコーズより現在発売中。高橋治子(マリンバ)武蔵野音楽大学大学院博士後期課程単位取得。2015年より定期的に都内にてマリンバ・リサイタルを開催。第1回国際打楽器フェスティバルにおける国際打楽器コンクール(イタリア)マリンバ部門第1位入賞。マリンバ四重奏団M-marimba quartetメンバー。マリンバを高橋美智子、明神あけみ、打楽器を岡田全弘、加藤博文の各氏に師事。現在、武蔵野音楽大学、及び同大学附属高等学校、同大学附属音楽教室、都留文科大学各講師。