第1夜「百留敬雄ヴァイオリンリサイタル」
国際部 福井とも子
いよいよ本日となりました「世界に開く窓～百留敬雄ヴァイオリンリサイタル」です。
今回のために書かれた新作もリハーサルを重ね、演奏者の手に熟れてきたようです。百留さんご自身が紹介してくださる作曲家はアペルギス、クルリャンツキー、マロンドラ。アペルギスは限定的な素材を、張り詰めたテンションの中で繊細に変化させていく作品、今日はエレクトロニクス付きバージョンです。クルリャンツキーは、まず楽譜からして只者じゃない感じがしますが、こういう楽譜をキチンと理解して再現しようとするのは百留さんの性分なのかもしれません。マロンドラはまた様々なテクニックが詰め込まれていて、尋常じゃなく難しいと思いますが、単にそれだけではなく作品として練られていて力を感じます。この作品で出てくるサブハーモニクスについては、今日少し質問してみようと思っています。会員の徳永さんと三枝木さんは５弦ヴァイオリンを使った作品を書いてくださいました。５弦ヴァイオリンは１本弦が増えただけではなく、響きが少し違うのでそれも聴いてみてください。佐井さんは７作品の中で少し傾向が違う作品と演奏者がおっしゃっていて楽しみです。また黒田さんは一般公募作品から選ばれた方ですが、今日の初演のためにスカイプ等でやり取りをし、改定を重ねてこられました。とことん作曲家に付き合って良いものにしようという、百留さんの一面を垣間見た気がします。作曲家にとっては非常にありがたい演奏家です。
皆様、本日は是非会場でこれらのことを体験していただきたいと思います。
お待ちしております。
演奏者の百留敬雄さんからメッセージを頂きました。
ヴァイオリンの原型となる楽器が歴史に登場して約５００年。演奏方法の変化や楽器の改良を重ねながらヴァイオリンは常に西洋音楽の花型楽器としての地位を保ってきました。現代もその発展は止まりません。生物の進化と同様に、芸術や文化の進展も多様性が何より重要だと思います。互いに影響し合い環境によって淘汰されるのです。今回取り上げる７作品は全て、ヴァイオリンのための新しい音楽をそれぞれ別の方向に追求しています。次の時代に受け継がれ、生き残る音楽はどんな音がするのでしょうか。どうぞご期待ください。
百留 敬雄
◎ 出品者の三枝木宏行さんから、出品作「Mirage — 江戸川乱歩に拠る叙情的風景」 についてメッセージを頂きました。
Mirage — 亂歩ワールドの蠱惑と假想世界の幻惑と…
この度の拙作《Mirage》は、推理小説の大家・江戸川乱歩の短編『押絵と旅する男』をイメージの核としております。
押絵の中の娘に恋いこがれ、ついに自ら絵の中に入ってしまった青年は、しかし本来生身の人間であるため、押絵の中に身をおきながら、その姿は年を経るごとに老いてゆく…
…今日のヴァーチャル・リアリティの幻惑と危うさを予見したような原作の内容ですが、本作品では、この娘を取り巻く押絵の世界を電子音に、その中に取り込まれる生身の青年を五弦ヴァイオリンにそれぞれ仮託して、ひとつの持続を紡いでみました。就中、曲尾において第5弦を可能な限り緩める部分がありますが、ここには押絵の中でも確実に訪れる「老い」に向けられた登場人物の複雑な想い（諦念、悟り、など…）が籠められていると言えるでしょうか。
対する押絵の中の世界に棲まう少女のイメージは、コンピュータの合成音声によって描かれ、八百屋お七の辞世の歌「世のあはれ 春吹く風に 名を残し 遅れ桜の けふ散りし身は」が、儚げでありながらも永遠に変わらぬ少女の歌声として響きます。このテクストを歌うのは、クリプトン社のヴォーカロイド「初音ミク」(ver.3) —— 2007年のモノローグ・オペラ《赤ずきん》以来、電子音を伴う作品にはしばしば登場してもらっています（笑）。
そうした夢とも現実ともつかない虚ろな感触の時間が、乱歩の原作冒頭で語り手が言及する「蜃気楼(mirage)」の彼方に織り込まれる…本作表題をMirageとしたのは、そうした来歴によるものです。
今回の初演にあたっては、独奏の百留敬雄さんには予め加工用録音パートを送っていただくなどのお手間を煩わせました。舞台上の実在と電子上の仮想がどのような世界を紡ぎだしてくれるか楽しみです。またエレクトロニクスの技術面でご協力下さる有馬純寿さんにも大きな信頼を寄せております。
なお、今回の公演にあたって、楽曲中の使用音源を用いたPVを作ってみました。
ご覧いただければ幸いです。
https://www.youtube.com/watch?v=S7AifRpJxFM
