2016年度富樫賞受賞:増田建太
第33回現音作曲新人賞にて富樫賞を受賞いたしました、増田建太と申します。この度は名誉ある賞をいただき、重く受け止めております。拙作は、十三絃箏とクラリネットのための《樹に窓を見る》でした。
私事ですが、2月に短期的にヨーロッパに赴いて現地の現代音楽に深く触れていました。そして帰国直後から当本選会の打ち合わせが始まり、関西在住の私は本選まで東京に滞在しておりました。西洋の伝統の世界から打って変わって、邦楽の伝統の世界を垣間見る日々となり本当に新鮮な時間でした。そんなまだまだ未熟な私が奨励の意味が込められた富樫賞という評価を頂けたのは、恐れ多いことです。
作品に関しては沢山の学びと反省、そして発見がありました。拙作演奏者である吉原佐知子さんと岩瀬龍太さん、そして審査員の方々、故・富樫康さんの奥様である富樫敏子様、ご来場の皆様、日本現代音楽協会の皆様との出会いとやり取りを通して、多くのことを学べたように思います。作曲は孤独な行為であるというイメージを強く持たれがちですが、実際は外部との関わりや影響の賜物でもあると思います。そういった意味でも、今回の機会はまた一つ、自分の人生においてかけがえのないものであったと感じました。
また、このような場では私という作曲者ばかりを語ることになってしまいがちですが、演奏者のお二方には本当に多大なご努力をいただき、それがあって初めてこのような評価をいただけたことを申しておきたいと思います。
今回の演奏会「邦楽・絃楽プロジェクト」では、前半の新人賞入選作品とともに、後半の日本現代音楽協会の会員による邦楽作品も聴くことができたのが興味深い体験でした。言うならば、ある意味での新世代邦人作曲家による邦楽に対するアプローチと、中堅以降の世代の作曲家によるアプローチという、年代を超えた多様性を確認できたように思います。
特に面白いと思ったのは、伝統文化的成熟度という点で、演奏会後半の諸作品から学べることが数え切れないほどあったということです(もちろん、入選の4作品と会員作品の間に優劣があったという話ではないことを断っておきます)。私はこの瞬間に、初めて日本人のオリジナリティ、あるいはアイデンティティの堂々たる手がかりに触れたような気がします。
自分自身と環境との関わりが生み出す可能性において、私がいかに無知で、空白のスペースが自分の中にまだあるのかということを実感いたしました。しかしまた、今回の”新しい”新人賞入選作品に関しては、やはり若い私にはある種の強い共感を持つことができ、その共感性はおそらく新しいこの時代が生み出している文化の片鱗なのでしょう。
最後に・・・
今日まで続けられてきた審査員奨励賞である「富樫賞」は、驚いたことに今回で終了ということだそうです。最後の富樫賞をいただけたことを誇りに思い、またその評価に託された多くの方々の思いに応えられるように、今後も頑張っていきたいと思います。
皆様の心温かい応援に深く感謝いたします。
まだまだ至らない私ですが、また今後ともどうか宜しくお願い致します。
▼第33回現音作曲新人賞審査結果はこちら。