〈現代の音楽展2016〉の見どころ・聴きどころ
事務局長 佐藤昌弘
〈現代の音楽展〉は、作曲家の故・芥川也寸志氏の命名により、1962年から半世紀以上にわたって、日本現代音楽協会が毎年開催している恒例の演奏会シリーズです。今年は2月6日(土)、7日(日)の2日連続で、東京オペラシティ リサイタルホールにて、「高橋アキを迎えて」と銘打ったピアノ音楽特集の公演を開催します。この公演のテーマはズバリ、「高橋アキ・シューベルト・コンテンポラリー」。2013年には第23回朝日現代音楽賞を受賞された高橋アキさんは、1968年のデビュー以来、現代音楽におけるピアノ演奏のスペシャリストとして、常に第一線で活躍し続けて来られました。近年はシューベルトのピアノ作品の演奏にも意欲的で、その演奏は高く評価されています。当公演は、現代音楽を弾いてもシューベルトを弾いても素晴らしい高橋アキさんの魅力をたっぷり堪能でき、かつ様々な趣向から多角的にピアノ音楽を聴くという、とても贅沢な企画です。
周知の通りフランツ・ペーター・シューベルト(1797-1828)は、ロマン派初期のクラシック作曲家ですが、その音楽は、単に19世紀の音楽という枠では括れきれない、計り知れない広大な世界を有しています。21世紀の視点からあらためてシューベルトの音楽の存在に迫るとともに、当協会会員作曲家によるシューベルトの音楽に共振した新作を高橋アキさんに初演して頂き、当協会としてはおそらく初の試みとなるクラシックとコンテンポラリーをリンクさせた演奏会を開催いたします。それでは、2日間のプログラムを詳しく紹介してまいります。
第1日は、「高橋アキ・公開レッスン」に始まります。当協会との協定大学である国立音楽大学、東京音楽大学、桐朋学園大学の学生がそれぞれ1名ずつ受講します。とりあげるピアノ曲はシューベルトの《即興曲集D.935・第1番へ短調》、松平頼暁《Allotropy》(1970)、湯浅譲二の《内触覚的宇宙II・トランスフィギュレーション》(1986)で、この松平作品と湯浅作品の初演者が高橋アキさんなのです。公開レッスンの次は、松平頼暁氏と湯浅譲二氏による「日本現代音楽協会名誉会員によるレクチャー」が続き、両氏がそれぞれ、自作のピアノ曲について、ピアノ曲の作曲について語って頂きます。1日目の最後は「高橋アキ&佐藤祐介 ピアノミニリサイタル」です。佐藤祐介氏は、2012年に第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”を優勝した気鋭の若手ピアニストです。このときのコンクールの審査員の一人が高橋アキさんで、これがきっかけとなり、高橋アキさんと佐藤祐介氏はジョイントを組むようになったのでした。このミニリサイタルでは、佐藤祐介が赤石直哉現音会員の新作を独奏し、高橋アキさんと佐藤祐介氏が、シューベルトの《人生の嵐》と中川俊郎現音副会長の新作を連弾します。
第2日は、「公開レッスン成果発表」に始まります。前日の公開レッスンより、高橋アキさんの選んだ優秀な受講者が、受講曲を全曲演奏します。続いて「シューベルトとコンテンポラリー」と題したシンポジウムとなります。パネリストは作曲家の近藤譲氏、音楽学の沼野雄司氏、声楽家の松平敬氏という錚々たる顔ぶれで、大変興味深いお話しが聞けそうです。公演最後を飾るのは「第23回朝日現代音楽賞受賞記念 高橋アキ ピアノリサイタル」。2部構成で、第1部は、シューベルトにちなむルチアーノ・ベリオの小品、浅野藤也、北爪やよひ両現音会員によるシューベルトの音楽に共振したそれぞれの新作初演、公開レッスンでもとりあげられた松平作品と湯浅作品が演奏されます。第2部は、シューベルトのピアノ作品中最高傑作と呼ばれることの多い大曲《ピアノソナタ第21番変ロ長調D.960》が演奏されます。
教育的視点もあり、またクラシックの音楽ファンにも広くアピールすることをねらった当公演は、現代音楽の裾野を広げるよい機会になることを願っております。皆様のご来場を心よりお待ちしております。