《史実の花》を作曲した増田建太でございます。
この作品は、歴史を彩る数々の弦楽四重奏作品を前にして何を作るのかという検討から始まりました。歴史の権威を自分の盾にしたくなかった私は、自分が向き合えそうなものとして、歴史から外れたカスのようなものについて考えました。そこらへんに転がってる食べカスとかそういうものではなく、もっと誰にも気づかれずに消えていくような、存在としてのカスとでも言えば良いでしょうか。何やら無作法な言葉が並んでしまいましたが、この作品における私の仕事は、美学的なアプローチが主になったと思います。歴史という物語があるとすれば、史実は物語の木に生る果実です。私はその木の下の地中の泥について考えたいと思いました。
作曲にあたってマテリアルとしての音楽の外側の“気配”を視ることを大切にしたのですが、気配というものは極めて感覚的なものです。しかし、皆さまがご存知の通り、それは単なる幻には片付けられない確かさを持っています。私はそれを信仰することで、真っ当な、半ば宗教的な力として音楽に反映させることができると思っています。なぜならそこでは正解や間違いなどの概念は意味を成さず、ただただ人間的な美を結晶させることになるからです。私は自身のセンスが掴んだ、長い時空から染み出す”気配”を、今回の作品で表現しました。
以上が作曲に対する正直な供述ですが、この分かりにくい文章をわざわざ読んでいただく価値があるのか疑問ですし、音楽を聴いて頂けるならば、それが私にとって最上の幸せです。
この貴重な機会に際し、演奏者、ご来場者の皆さまをはじめ、全ての方々に対して感謝を申し上げます。
〈現音・秋の音楽展2015〉
第32回現音作曲新人賞本選会
テーマ:弦楽四重奏
2015年11月12日(木)18:30開場/19:00開演|渋谷区文化総合センター大和田6F伝承ホール
▼プレトーク:テーマ「弦楽四重奏の新たな可能性」18:40〜 出演:福士 則夫・南 聡
▼第一部:入選作品演奏審査
(1) 引地 誠/超流動 -superfluidity-(作曲2015年初演)
(2) 見澤 ゆかり/ジャングル – ソナタ〜ワルトシュタインへのオマージュ〜(作曲2015年初演)
(3) 川合 清裕/アンフォルムII〜弦楽四重奏のために〜(作曲2015年初演)
(4) 増田 建太/史実の花(作曲2015年初演)
▼第二部:日本現代音楽協会会員作品上演
(5) 福士 則夫/CALLING for string quartet(作曲2013年)
(6) 南 聡/第2アリア…(細胞癒合化作用前の)(作曲2015年初演)
▼講評・結果発表・表彰式 20:45頃〜
演奏:
佐原 敦子・小杉 結(ヴァイオリン)阿部 哲(ヴィオラ)豊田 庄吾(チェロ)(1)(3)(6)
甲斐 史子・松岡 麻衣子(ヴァイオリン)般若 佳子(ヴィオラ)宮坂 拡志(チェロ)(2)(4)(5)
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮下さい。演奏順は変更となる場合があります。
チケット:全自由席 一般2,000円 学生1,000円
主催・チケット・お問合せ:日本現代音楽協会(国際現代音楽協会日本支部)
TEL: 03-3446-3506 E-Mail: aki2015(a)jscm.net
助成:一般社団法人日本音楽著作権協会
後援:一般社団法人日本作曲家協議会 一般社団法人日本音楽作家団体協議会