第22回朝日現代音楽賞受賞の言葉〜佐藤祐介(ピアノ)

第22回朝日現代音楽賞受賞 佐藤祐介(ピアノ)

 

佐藤祐介 本選の演奏

このコンクールはとても自己プロデュース能力が問われる一筋縄では行かないコンクールで、あらゆる国の多種多様な作品、さまざまな編成が並んでいます。また、審査員の先生方は現代音楽のプロフェッショナルですので音楽の本質を審査されるのだろうと思っていましたが、私にはとても先の読めないレースのように感じられました。

ファイナリスト決定時に、初めて演奏するファイナルの2曲に手を付けておらず、限られた時間でそのステージに向けて何をすることが出来るのかを考えていました。現代音楽にはさまざまなタイプの音楽があります。しかし、私のプログラムには特殊奏法や内部奏法を含む曲はなく、決してコンクール向けといわれるものではありませんでした。ピアノの限られた制約の中で、私はなにができるのかと自問自答し、そこでたどり着いたのが「表現をすることだけにとらわれてしまい、雁字搦めにならないこと」でした。

思い返せば、幼いころからCDが擦り切れるほど聴き、音楽家としてのスタイルに憧れていた、ピアニストの高橋アキ先生が聴いて下さっていることが私にはあまりにも非現実的すぎて実感が湧いていませんでした。しかし、気持ちが固まった瞬間にコンクールや現代音楽であるというあらゆる概念から解き放たれ、自分自身の音楽が自然とできるようになっていました。

その結果、思いがけなく朝日現代音楽賞という素晴らしい賞をいただきとても幸せな気持ちです。この受賞を励みに、私は博物館に並ぶ素晴らしい骨董品のような、すなわち名曲を並べるだけでなく、知られていない作品の紹介や、委嘱や初演に携われるピアニストになりたいと思います。

 

▼佐藤 祐介(さとう ゆうすけ)

福島県出身。12歳よりピアノを始め、15歳でデビューリサイタルを開催。UFAM国際音楽コンクール第2位、三善晃ピアノコンクール、チェコ音楽コンクール第1位。第15回浜松国際ピアノアカデミーにおいて、中村紘子等のマスタークラスを受講。昭和音楽大学コンチェルト定期演奏会のソリストに選抜されプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番作品16を演奏。現在、大森ひろみに師事。これまで、故安藤友候、江口文子、杉谷昭子、平間百合子、藤原由紀乃、本尾かおる、柳川守に師事。

本選演奏曲:

権代敦彦/無常の鐘 ピアノのための(2009)
鈴木純明/”Impromptu” pour piano solo(2007)
William BOLCOM/Nine Bagatelles(1996)